アメリア・イアハートは米国の女性パイロットであり、1937年7月2日に太平洋上のハウランド島を目指した世界一周飛行の途中で、飛行機ごと失踪した人物である。
その後の徹底的な捜索にもかかわらず、彼女を乗せた機体はいまだに残骸すら見つかっておらず、イアハートと同乗していた航法士の行方は杳として知れない。
2025年8月、このイアハート機の行方を探すための新たな探査計画が発表された。この計画では、当時の無線機を復元して得られたデータをもとに推定された海域を重点的に探すという。
20世紀前半の航空史において、最大のミステリーのひとつとされる「消えたイアハート機」が、この探査計画でいよいよ発見されることになるのだろうか。
女性初の大西洋横断に成功したパイロット
アメリア・イアハートは、1897年にカンザス州アッチソンで生まれ、女性の社会進出がまだ限定的だった時代に、飛行機のパイロットとして頭角を現した。
1928年には女性として初めて大西洋横断飛行に成功し、1932年には単独での大西洋横断も達成。女性飛行士団体ナインティナインズの創設メンバーでもある。
1930年代は航空技術が急速に進歩した時代であり、長距離飛行の達成は国家的な威信とも結びついていた。
特に世界一周飛行は、当時としては最先端の挑戦であり、航空技術の可能性を示す象徴的プロジェクトでもあった。
世界一周飛行の途中で消息を絶つ
1937年、彼女は赤道上を飛ぶ世界一周飛行を計画した。これは単なる冒険ではなく、パーデュー大学の支援を受けた科学的・技術的挑戦だった。
使用した機体はロッキード社の「エレクトラ10E」。長距離飛行のため燃料タンクを増設し、通常の旅客機としての仕様と異なる改造が施されていたという。
さらにこの世界一周飛行には、パンアメリカン航空で太平洋横断航路の航法確立に関わった実績を持つフレッド・ヌーナンが、航法士として同行した。
この時のルートは東回りで設定され、2人は1937年5月21日にカリフォルニア州オークランドを出発。
フロリダのマイアミを起点に、ブラジルを経て大西洋・アフリカ大陸を横断し、カラチからバンコクを経てシンガポールへ。
さらに6月30日にはニューギニアのラエへ到達し、そこから太平洋の真ん中にあるハウランド島を目指した。
だがハウランド島は長さ約2kmほどの小島であり、当時の航法技術では、機上からの発見が極めて困難だった。
7月2日朝、イアハートは米国沿岸警備隊のカッター船イタスカと無線交信を試み、以下のような通信を送っている。
午前7時42分頃
私たちはあなた方の上空にいるはずですが、見えません。燃料が不足しています。無線でも連絡が取れません。高度1,000ft(304.8m)を飛行中です。
午前8時43分頃
方位線157–337の南北の線上を飛行しています。このメッセージを繰り返します。6210キロサイクル(6210kHz)で繰り返します。待ってください
この交信記録が、イアハートが行った最後の通信とされている。
「何も見つからない」歴史のミステリー
イアハートの失踪が「最大の謎」と呼ばれる理由は3つある。第一に、当時としては史上最大規模の捜索が行われたにもかかわらず、機体の残骸などが一切確認されなかったことである。
米海軍はもちろん、当時の大日本帝国海軍も艦載機を出して、付近の海域を捜索したとされるが、イアハート機のものと思われる残骸は何も見つかっていない。
第二に、無線通信記録が多数残っているにもかかわらず、イアハート機の最終位置が特定できていない点である。
当時の交信は断片的で、方位測定も完全ではなかった。複数の民間無線の受信報告はあるが、公式にイアハート機からと認められたものはない。
第三に、冷戦期以降に浮上したさまざまな異説の存在である。マーシャル諸島漂着説、日本軍の捕虜説、島嶼生活説など、多くの説が提起されたが、いずれも決定的証拠を欠いている。
こういった「確かなことが何もわからない」点が、今もさまざまな仮説を生み続ける要因となり、歴史ミステリーとしての側面を強めているのだ。
当時の無線装置を復元した再調査が開始される
この長年の謎に対し、近年再び注目を集めているのが米国の海洋探査企業ノーティコス社である。
同社は深海探索や海底考古学を専門とする企業で、2000年代初頭からイアハート機の捜索に関わっており、2002年、2006年、2017年に太平洋で深海ソナー探査を実施している。
2020年、同社は1937年当時、イアハート機に搭載されていたウェスタン・エレクトリック13C送信機およびベンディックスRA-1A受信機と同型の装置を復元。
実際の海上環境で、出力・周波数・アンテナ構成を可能な限り再現し、信号強度や方向情報、到達距離を再解析して、無線通信の物理的再検証を行った。
同社はこの検証に際し、当時の電離層の状態や無線機の出力特性を考慮した数理モデルを構築して分析を進めた。
その結果、イアハートが最後に発したとされる無線通信の強度や方位情報から、失踪当日の午前8時時点での機体のおおよその位置を特定したとしている。
これにより、イアハートの目的地だったハウランド島付近の捜索範囲が大きく絞り込まれることとなった。
私たちが成し遂げたことをとても誇りに思っています。これまでに海底をマッピングした範囲は、ほぼ2,000平方海里に及びます。調査した総面積は約3,600平方マイルで、これはコネチカット州全体とほぼ同じ広さです
ノーティコス社のCEO、デヴィッド・ジョーダン氏は、今回の成果についてこのように語っている。
ただし、これはあくまで通信データの再評価による位置推定であり、機体そのものが確認されたわけではない。
そこで2025年8月19日、同社はこの分析結果を受け、新たな第4次遠征計画を行うと発表した。
今回の新遠征は、これまでに得られたデータを再解析し、海底地形モデルと組み合わせることで、より限定的なエリアを重点的に調査する計画だ。
この遠征で使用予定の機材には、自律型の無人潜水機や高解像度サイドスキャンソナーなどが含まれるという。
さまざまな仮説が立てられたが決定的な証拠はまだない
イアハート機失踪事件については、これまでにも複数の仮説が立てられてきた。よく知られているのは、燃料不足によりハウランド島付近の海上に不時着し沈没したとする説である。
これは当時の航法誤差や燃料搭載量、最後の無線記録に基づくものであり、米国海軍の当初の捜索もこの前提で行われた。
一方で、イアハートは遭難後、キリバス領のニクマロロ島に漂着してしばらく生活していたとする説もある。
この島で見つかった遺骨や遺物が、イアハートのものではないかとされているが、調査は行われているものの、科学的に確定したという証拠はまだない。
さらに、当時日本の統治下にあったマーシャル諸島に不時着し、日本軍に身柄を拘束されたとする説もある。
しかし日本軍説の根拠とされた写真は、イアハートの失踪より2年も前の、1935年の出版物に掲載されたものと判明。現在ではほぼ否定されている。
今回発表されたノーティコス社による新遠征では、従来より狭い範囲に焦点を当てることで、探査効率の向上が期待されている。
この海域は水深が数千mにも及ぶため、遠征によって機体が発見された場合でも、その回収は容易ではないだろう。
しかしもしイアハート機が沈んでいる位置が特定されれば、今後の歴史的な検証が大きく前進する可能性がある。
同社のプロジェクトマネージャーを務めるジェフ・モリス氏は、水中考古学者でありソナーの専門家でもある。
1997年から同社の探査計画に助言してきたモリス氏は、この遠征について次のように説明する。
ノーティコスの第4次イアハート捜索ミッションは、これまで行ってきた広範な無線実験から得られた科学データに基づいて実施されます。
これはもはや仮説ではありません。1937年7月2日午前8時の時点で、彼女がどこにいたのかを示す科学的に測定されたデータなのです
2025年9月、アメリカのトランプ大統領が、イアハート失踪事件を「興味深い物語」と呼び、政府記録の機密解除を指示した。
これを受けて、アメリカではこの事件への関心が再び高まりつつあるそうだ。果たして今回のノーティコス社の遠征は、新たな発見につながるだろうか。
【更新情報】
Google Earthが捉えた「人工物」:ニクマロロ島に眠る残骸か?
深海からの科学的アプローチが進む一方で、2026年3月、驚くべき新説が浮上した。
中東の大手航空会社で長年機長を務めた経験を持つベテラン・パイロット、ジャスティン・マイヤーズ氏が、Google Earthを用いた独自の解析により、ニクマロロ島(旧ガードナー島)のサンゴ礁でイアハートの機体と思われる残骸を発見したと自身のブログ[https://aircrashsites.co.uk/3rr/]で発表したのである。
マイヤーズ氏はプロのパイロットとして「もし自分が彼女の立場なら、燃料不足の極限状態でどこに不時着を試みるか」という実務的な視点から島を精査した。
その結果、島北西部のタティマン通路付近で、堆積物に埋もれた「人工物」を特定したという。
測定値は「エレクトラ10E」と一致
マイヤーズ氏がブログで公開した2022年当時の衛星画像には、航空機の胴体らしき直線的な構造物のほか、星型エンジン、さらには半分埋まった状態の車輪のような物体が、不自然なほど整然と並んでいる様子が捉えられていた。
驚くべきは、その測定値である。Google Earthの計測ツールによれば、その構造物の長さは約12m。これはイアハートの愛機「ロッキード・エレクトラ10E」の全長と完全に一致する数値だった。
「航空業界に身を置き、世界中のあらゆるサイズの飛行機を操縦してきたが、これらが自然のサンゴではなく人工物であることは明らかだ。
それが100%アメリアの機体だとは断言できないが、彼女の機体と同じ外観とサイズを持つ、未発見の残骸である可能性は極めて高い」とマイヤーズ氏は語る。
マイヤーズ氏は、自身が解析した座標を公開している。
GoogleマップやGoogle Earthで以下の数値を入力すれば、誰でもその場所を確認することが可能だ。
- 胴体と思われる場所: (-4.6708008, -174.5412182)
- エンジンと車輪と思われる場所: (-4.6710688, -174.5413395)
- 排気システムと思われる場所: (-4.6709545, -174.5412963)
ただし、残念ながら現在はこれらを鮮明に見ることは難しいかもしれない。マイヤーズ氏によれば、2022年に画像を保存した直後、ニクマロロ島を激しい気象システムが通過し、その影響で残骸の約95%が土砂に覆われてしまったというのだ。
「現在は胴体の一部がわずかに見える程度だが、それまでは驚くほどはっきりと人工物の形状を捉えることができていた」とマイヤーズ氏は語る。
深まる「ニクマロロ島漂着説」の真実味
この発見は現在、オーストラリア運輸安全局(ATSB)の航空事故調査チームに正式に報告されている。
実は、1940年代にはこの島の住人が「飛行機の残骸を見た」と証言しており、1980年代から90年代にかけての調査でも、同じ場所で航空機の一部と思われる破片が見つかっていた。
今回のGoogle Earthによる発見は、それら過去の断片的な証拠と場所が一致している点でも注目されている。
ハイテク機器を駆使したノーティコス社による海底探査と、現役機長の直感による衛星画像の精査。
二つの異なるアプローチが今、同時に同じ謎へと肉薄している。89年間にわたり世界を翻弄し続けてきた「史上最大のミステリー」が、いよいよ解決の時を迎えようとしているのかもしれない。
References: A Restored Radio From 1937 Might Have Finally Located Amelia Earhart’s Lost Plane[https://www.popularmechanics.com/flight/a70289239/amelia-earhart-restored-radio-discovery-lost-plane-search/] / Lockheed Electra 10E NR16020[https://aircrashsites.co.uk/3rr/]











