約100年ぶりに、アラビア半島の砂漠に巨大な鳥の姿が戻った。サウジアラビアが進める「再野生化計画」の中で、5羽のダチョウが放たれたのだ。
この再導入は、失われた生態系を段階的に取り戻すために進められてきた再野生化計画の中でも、象徴的な節目と位置づけられている。
サウジアラビア政府は全部で23種の絶滅種の再導入を推し進めており、生態系の復活はもちろん、砂漠に刻まれた歴史や文化の再生も目指しているという。
アラビア半島の砂漠に再導入されたダチョウ
2025年12月、サウジアラビア北西部のプリンス・モハンマド・ビン・サルマン王室保護区[https://pmbsrr.gov.sa/]で、5羽のキタアフリカダチョウが野生に放たれた。
この種は首まわりの皮膚が赤みを帯びる個体が多いことから、アカクビダチョウ(red-necked ostrich)とも呼ばれるダチョウの亜種である。
かつてアラビア半島の砂漠一帯には、アラビアダチョウが生息していた。しかしこの種は20世紀初頭までに、人間による乱獲や環境の変化によって姿を消した。
今回放たれたキタアフリカダチョウ(Struthio camelus camelus)は、アラビアダチョウに最も近縁とされる現存の亜種である。
サウジアラビアが推進している「アラビア再野生化計画(ReWild Arabia)」において、アラビアダチョウと同様に過酷な砂漠で生きられる鳥であり、生態学的にも同様の役割を果たすことを期待して選ばれた。
同保護区のCEO、アンドリュー・ザロウミス氏は、他の亜種ではなくキタアフリカダチョウ選んだ根拠は、科学的な厳密さにあるとしている。
キタアフリカダチョウは、現生の動物の中では(アラビアダチョウ)に遺伝的に最も近い近縁種です。
極度の暑さや水不足、降雨量の少なさに自然に適応した種であり、現在や将来の気候条件下で、砂漠の生態系を永続的かつ長期的に回復させるのに最適な選択肢なのです
かつての生物多様性を取り戻す「再野生化計画」
この「アラビア再野生化計画」は、陸域と海域を合わせた約2万4500平方kmの保護区内に、かつての生物多様性に近い水準を取り戻すことを目的にしている。
計画の中で、歴史的にこの地域に存在した動物、あるいはそれと生態的に等しい種を段階的に戻していく取り組みが続けられている。
今回のキタアフリカダチョウは、計画の中では12番目の再導入種になるという。これまでにアラビアオリックス、サンドガゼル、マウンテンガゼル、ヌビアアイベックスなどがすでに再導入されているそうだ。
中でも2024年に再導入されたペルシャオナガー(アジアノロバ)は、100年以上ぶりにこの場所へ戻った種であり、保護区側は過去の成功例としている。
ザロウミス氏はCEOとして、このペルシャオナガーと今回のキタアフリカダチョウ、両方の再導入にかかわったという。
この2つの種はいずれも、現在のプリンス・モハンマド・ビン・サルマン王室保護区の地域から、何世代にもわたって姿を消していました。
オナガーと同様に、ダチョウはアラブの詩人たちに敬われ、力や持久力、速さの象徴として、口承や伝統的な物語の中に登場してきました。
キーストーン種として、ダチョウの復帰は、生態系の機能を完全に取り戻し、安定性と生態学的な均衡を回復するために欠かせないものです
この再導入は、生態系の回復だけを目的としたものではない。ここに至るまでには生態学的な検討だけでなく、歴史や文化に関する調査も重ねられてきたのだ。
保護区周辺の岩壁には、ダチョウを描いた岩絵が残されている。群れや狩猟の場面が刻まれ、かつてこの鳥が砂漠の日常の一部だったことを伝えている。
約1世紀ぶりに、砂漠を象徴する種が戻ることには、深い感情的、生態学的、文化的な意義があるのです
砂漠の生態系の再生に向けた取り組み
生態の面で言えば、キタアフリカダチョウが広い範囲を移動しながら種子を運ぶことが、乾燥地の植物の再生に関わる点も重視されている。
長距離を移動する彼らの移動能力は、種子の散布に非常に効果的で、親植物から遠く離れた場所に種子を運び、乾燥した土地全体で植物の再生や連結性、遺伝的多様性を高めます。
さらに彼らの採食行動は、草や低木をかき分けて土壌に空気を送り込み、昆虫を追い出します。その結果栄養の循環が支えられ、昆虫を食べる生き物の助けにもなるのです
また、ザロウミス氏はダチョウがオリックスやペルシャオナガーといった、大型の草食獣たちと同じ環境の中で共存する存在であることにも言及している。
ダチョウは卓越した視力によって、周囲の異変や捕食者をいち早く察知し、周囲の動物に警戒の合図を与える役割も果たします。
こういった相互作用が組み合わさることで、健全で自立した、回復力のある砂漠の生態系が再び築かれていくでしょう
生物多様性の保全・気候への耐性の強化・生活の質の向上に向けたこの取り組みは、石油依存からの脱却を図るサウジアラビア政府が掲げる、「サウジビジョン2030[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%82%B8%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B32030]」の一翼を担うものだ。
この中でサウジアラビアは、2030年までに自然保護地の拡大や生物多様性の回復を進めることを国家目標として掲げている。
直近では2026年2月にアラビアノウサギの再導入も発表されており、計画開始以降に再導入に成功した種の数は、現在では14種になっているそうだ。
ライオンやヒョウの再導入も視野に
生態系の回復とともに、レンジャー・プログラムや地域社会との関わりを強化する方針も進められているという。
さらに今後はアジアライオンやアラビアヒョウなど、この地では絶滅した大型の肉食獣が再導入される計画もあるようだ。
上位捕食者である肉食獣が戻れば、草食動物の行動や数が変化し、それに連鎖して植生や他の動物の分布も変わる可能性がある。
アラビア半島の生態系にとって大きな賭けとなりそうだが、サウジアラビア政府はこの野心的な計画の成功に向けて、準備を進めているそうだ。
References: Milestone for Rewilding as Ostriches Return to Saudi Desert After 100-year Absence[https://www.goodnewsnetwork.org/milestone-for-rewilding-as-ostriches-return-to-saudi-desert-after-100-year-absence/]











