茨城県で新種の巨大ウイルスを発見!宿主のアメーバを肥大化させる特異な性質を確認
ウシクウイルスの中心断面を電子顕微鏡で捉えた図 Image credit: <a href="https://journals.asm.org/doi/10.1128/jvi.01206-25" target="_blank" rel="noreferrer noopener">Kazuyoshi Murata/National Institute of Natural Sciences/CC BY 4.0</a>

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 茨城県の牛久沼で、新種の巨大ウイルス「ウシクウイルス」が発見された。

 このウイルスは宿主のアメーバに感染すると、アメーバ自身が持つ細胞核の膜を破壊し、その外側に自身のコピーを作る製造工場を形成する。

 その過程でアメーバを通常の約2倍の大きさに膨らませるという、独自の性質を持っている。

 東京理科大学などの研究チームによるこの発見は、人間を含む真核生物の「細胞核」がどのように誕生したのかという謎を解き明かす重要な鍵になると期待されている。

茨城県の牛久沼で発見された新種の巨大ウイルス

 東京理科大学の武村政春教授らの研究チームは、茨城県にある牛久沼の淡水から新種の巨大ウイルスを発見し、地名にちなんでウシクウイルス(Ushikuvirus)と命名した。

 巨大ウイルスとは、一般的なウイルスとは一線を画す大きさを持つウイルスの総称である。

 通常のウイルス(インフルエンザウイルスなど)が直径0.1マイクロメートル程度しかないのに対し、ウシクウイルスは直径約0.65マイクロメートルという、ウイルスとしては破格のサイズを誇る。

 これは光学顕微鏡でも観察できるほどの大きさであり、かつては細菌と見間違えられていたほどだ。

 サイズだけでなく、保持している遺伝子の量も桁違いである。

 インフルエンザウイルスがわずか8個の遺伝子しか持たないのに対し、ウシクウイルスは784個もの遺伝子を持っている。

 このウイルスは、2019年に京都大学や東京理科大学、自然科学研究機構などの研究チームが日本で初めて分離した巨大ウイルス「メドゥーサウイルス[https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2023-02-28-2]」と同じ、マモノウイルス科(Mamonoviridae)というグループに属している。

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アメーバを2倍に膨らませる独自の「製造工場」を作る

 ウシクウイルスは、宿主となる「アメーバ」に対して他のウイルスにはない独特の影響を与える。

 アメーバは人間と同じように、細胞の中に「細胞核」を持つ「真核生物(しんかくせいぶつ)」の仲間である。

 ウシクウイルスは、池や土壌に広く生息しているヴェルムアメーバ(Vermamoeba)に感染して増殖する。

 通常、ウイルスに感染した細胞はすぐに死滅して形が崩れるが、ウシクウイルスに感染したヴェルムアメーバは、死ぬどころか通常の約2倍の大きさにまで膨れ上がる。

 これは、日本で初めて発見された巨大ウイルスであるメドゥーサウイルスなど、他の仲間には見られない非常に珍しい現象である。

 この肥大化が起きる理由は、ウシクウイルス独自の製造工場の作り方にある。

 近縁のメドゥーサウイルスなどは、アメーバに感染しても、もともとある細胞核の中に居座り、核を壊さずに自分のコピーを作る。

 対してウシクウイルスは、アメーバが持つ核の膜を完全に破壊し、その外側の「細胞質」まで占拠して巨大な製造工場へと作り変えてしまうのだ。

 このように、細胞内の広いスペースを強引に乗っ取って巨大な工場を建設し、そこで大量のウイルス粒子を組み立てる。

 その増殖プロセスの勢いがあまりに強いため、宿主であるアメーバの体そのものを内側から大きく引き伸ばし、2倍ものサイズに肥大化させてしまうのだ。

 こうして工場で大量に作られた新しいウイルスは、最終的に「エキソサイトーシス(細胞が物質を膜に包んで外へ押し出す仕組み)」によって細胞の外へ放出される。 

 ウシクウイルスは、アメーバをパンパンに膨らませたまま生かし続け、この排出機能を巧みに利用して、新しいウイルスを次々と外部へ送り出し続けるのである。

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ヒトの細胞核の起源を探る「細胞核ウイルス起源説」

 今回の発見は、人間を含む真核生物の進化の謎を解く上で非常に重要である。

 かつて地球には、細胞核を持たない原核生物(細菌など)しか存在しなかったが、ある時期に細胞核を持つ真核生物へと進化した。

 この劇的な変化がなぜ起きたのかについては、いまだに完全には解明されていない。

 武村教授が2001年に提唱した「細胞核ウイルス起源説」は、巨大ウイルスの祖先が原核生物に感染して共生した結果、そのウイルスがそのまま細胞核になったという仮説である。

 巨大ウイルスが細胞内に作る製造工場は、膜に包まれている点や機能が細胞核と非常によく似ている。

 ウシクウイルスのように、宿主の核膜を壊してまで独自の拠点を築く多様な巨大ウイルスの研究を進めることで、大昔にウイルスが生物の進化にどのように関わったのかを突き止める手がかりが得られると期待されている。

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多様な巨大ウイルスの発見が進化の謎を解き明かす

 巨大ウイルスは地球上のいたるところに存在しているが、特定の宿主に感染させて分離し、詳しく調査することは非常に難しい。

 ウシクウイルスのゲノムを解析した結果、約784個の遺伝子のうち約58%は既存のデータに記録がない、正体不明の遺伝子であった。

 これは、巨大ウイルスの世界にはまだ人類が知らない未知の情報が大量に眠っていることを示している。 

 この査読済みの研究成果は『Journal of Virology[https://journals.asm.org/doi/10.1128/jvi.01206-25]』誌(2025年11月24日付)に掲載された。

References: Tus.ac.jp[https://www.tus.ac.jp/today/archive/20251219_9539.html] / Journals.asm.org[https://journals.asm.org/doi/10.1128/jvi.01206-25]

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