水に濡れると強度が50%も向上する、これまでの常識を覆すバイオ素材が開発された。
スペインとシンガポールの共同研究で、エビの殻に含まれる「キトサン」にニッケルを加えることで、プラスチックを超える耐久性と環境性能を両立させた。
ゴミを出さずに製造でき、使用後は自然に還るこの素材は、農業や漁業などあらゆる分野でプラスチックに代わる救世主として期待されている。
この査読済みの研究成果は『Nature Communications[https://www.nature.com/articles/s41467-026-69037-4]』誌(2026年2月18日付)に掲載された。
バイオ素材が抱えていた水に弱いという宿命
現代社会で広く使われているプラスチックは、安くて丈夫で水に強いという便利な性質を持っている。
しかし、この壊れにくいという特徴が、自然界では分解されずに残り続けるという大きな問題を引き起こしている。
海や土壌に蓄積されたプラスチックゴミは、食物連鎖を通じて人間の健康にも影響を与える可能性が指摘されている。
この問題を解決するため、動植物などの天然成分を使ったバイオ素材の研究が世界中で進められてきたが、従来のバイオ素材には、水に濡れると組織がふやけてしまい強度が極端に落ちるという、実用化に向けた大きな弱点があった。
節足動物の硬い殻を作る「キチン」にニッケルを組み込む
スペインのカタルーニャバイオ工学研究所(IBEC)とシンガポール工科デザイン大学(SUTD)などの国際研究チームは、この弱点を克服するために自然界の生き物の組織に目を向けた。
注目したのは、カブトムシやエビ、カニなどの節足動物の硬い殻やゴカイの牙を作っている「キチン」というアミノ多糖類(動物性食物繊維)だ。
ゴカイの牙に含まれる微量の金属を取り除くと、牙は水でふやけてしまう。このことから、キチンが硬さを保つためには金属が不可欠であることを突き止めた。
研究では、入手しやすいエビの殻から得られるキチンを濃アルカリ水溶液で煮沸処理し、素材として扱いやすくした「キトサン」を使用した。
これにニッケルを組み込むことで、水に濡れてもふやけないどころか、逆に強くなる自然界の仕組みを再現した。
水分子が素材の内部に取り込まれ強度が50%向上
開発された新素材を水に浸すと、これまでのバイオ素材とは正反対の反応を示した。
水に濡れることで、素材の強度が最大で50%も向上したのだ。
素材の内部では、ニッケルのイオンと周囲の水分子が常に動き回りながら、分子同士の結びつきを何度も作り直している。
水分子が素材の構造を支える結合の仲介役として機能することで、外部からの負荷を柔軟に吸収し、プラスチックを超える強さを発揮する。
分子レベルで結合が柔軟に組み換わるネットワークが形成されることが、素材全体としての強靭さを生み出している。
廃棄物を無駄なく活用する完全循環型の生産プロセス
この新素材は、性能だけでなく製造工程も環境に配慮されている。
製造時に水に溶け出した余分なニッケルは、捨てずに次の素材を作るための原料として再利用される。
ニッケルを100%無駄なく使うことができるこの循環システムは、環境負荷を抑えるだけでなく、製造コストの削減にもつながる。
原料となるキトサンは、自然界で毎年1000億トンも生成されている天然資源であり、セルロースに次ぐ豊富なバイオマスだ。
エビの殻だけでなくキノコの廃棄物や都市の生ゴミからも抽出できる。
特定の地域に頼らず、その土地で手に入る廃棄物を利用して生産できる点も大きな利点だ。
農業や医療分野でエビの殻素材がプラスチックを代替する未来
水に濡れるほど強くなるという特性は、屋外で使用する農業用品や、海中で使う漁具、食品のパッケージなどに最適だ。
すでに研究チームは、この素材を使って水を通さない容器や大きなシートを作成することに成功している。
ニッケルもキトサンも医療用として一部認められている物質であるため、将来的には医療器具の防水コーティングなどへの応用も期待されている。
References: Ibecbarcelona[https://ibecbarcelona.eu/un-material-biologico-que-aumenta-su-fuerza-cuando-se-moja-podria-sustituir-al-plastico] / Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1116538] / Nature[https://www.nature.com/articles/s41467-026-69037-4]











