ラッコは水面に浮かびながら眠るが、その時に、仲間や我が子としっかり手をつないでいることがある。
ぷかぷかと浮かびながら寄り添い、ときには離れないように抱き合うこともある。
だが、お互いに仲が良いからという以外にもきちんとした理由があるのだ。これはラッコにとって、お互いの命を守るための生存戦略のひとつなのだ。
寒い海に生きるラッコの生態
大きい肺の空気が浮き輪の役割
イタチ科ラッコ属に分類される哺乳類で海獣の一種「ラッコ」は、アラスカや北米西海岸、ロシア・カムチャツカ半島、北海道東部などの冷たい海に生息している。
一生のほとんどを水上で過ごすラッコの体には、過酷な環境を生き抜くための特殊な機能が備わっている。
水面にラッコが仰向けに浮いていられるのは、肺が非常に大きく、空気をたっぷり溜めて「浮き輪」の役割を果たしているからだ。
毛皮とたっぷりの食事で寒さをしのぐ
また寒さをしのぐ方法も独自のものだ。
アザラシのような分厚い脂肪を持たない。その代わりに、1平方cmあたり12万本以上という世界一密度の高い毛皮で全身を覆っている。
この毛の間に空気の層を溜めることで、冷たい海水が皮膚に直接触れるのを防ぎ、大切な体温が冷たい海水に奪われないようにしているのだ。
それでも、氷のような海の冷たさは強力だ。毛皮だけで防ぎきれない分の熱を補うため、ラッコは体内で常に大量の熱を作り続けている。
毎日、自分の体重の約4分の1にもなるウニや貝を食べ続け、そのエネルギーを燃やして体を内側から温めている。
ラッコにとって食事は、凍える海でストーブを燃やし続けるための薪をくべるような、一刻も欠かせない命がけの作業なのである。
寝る時も水面に浮かんだまま眠りにつく
ラッコは眠る時も陸には上がらず、水面に仰向けに浮かんだまま眠りにつく。
陸を利用しないのは、進化の過程で海での生活に特化したため、陸上では重い体を引きずり、這うようにしか動けなくなったからだ。
陸でクマやオオカミなどの捕食者に遭遇すれば逃げ切ることができない。
サメやシャチといった外敵のいる海であっても、岩場や浅瀬に逃げ込める水上の方が、彼らにとってはまだ安全だったのである。
寝ている間に流されないようお互いに手をつなぐ
天敵から逃れることができても、海に浮かんで寝ることは、他にもリスクが潜んでいる。
それは寝ている間に「流されてしまうこと」だ。
ラッコは本来、とても社会性の高い動物であり、「ラフト」と呼ばれる大きな群れを作って生活している。海の上という過酷な環境で、彼らは集団の力でお互いの身を守っている。
群れで行動することで、外敵をいち早く見つけたり、エサの豊富な場所を共有することができる。
このラフトの規模は、通常は50頭前後だが、時には10頭以下の小さなものから100頭を超えるものまでさまざまだ。
2023年の初めには、アメリカのカリフォルニア州モンテレー沿岸で、200頭以上のラッコが集まった「スーパーラフト[https://www.ksbw.com/article/officials-are-reporting-hundreds-more-sea-otters-off-the-monterey-coast-near-cannery-row/42998979]」も目撃されている
寝ている間に「群れ」から離れることは、ラッコにとって最大の危機を意味する。
特に睡眠中は無防備になるため、潮の流れに押し流され、エサの獲れない外海へ一頭ではぐれてしまえば、すぐにエネルギー切れを起こして動けなくなり、体温を奪われて死に至る。
布団も壁もない海の上で眠るラッコにとって、潮の流れは常に自分を集団から引き剥がし、死へと運ぼうとする脅威である。
この「流される恐怖」を解決するために編み出されたのが、大切な仲間と手をつなぎ、お互いの体を固定し合うという知恵なのだ。
安全な水族館でも仲間と手をつなぐ理由
水族館のプールには野生のような強い海流はないが、それでもラッコが手をつなぐのは、彼らの体に「固定されていないと不安だ」という強い本能が刻まれているためだ。
野生ではジャイアントケルプという巨大な海藻を体に巻き付けて錨(いかり)の代わりにするが、海藻のない環境では隣の仲間をその代用としている。
特に母親は、泳ぎが未熟な子供が寝ている間に離れないよう、抱き寄せたり前脚を握ったりして守りながら眠る。
また、ラッコには親友を作る社会性もあり、相手への信頼と絆から、手をつないで寄り添って眠ることもある。
仲が良い相手と手をつなぐことは、ラッコにとっても大きな安心感につながっているのだ。
海の生態系に貢献するラッコの役割
ラッコが手を携えて海で暮らし続けることは、結果として海の生態系全体を救うことにもつながる。
ラッコは、その存在が環境のバランスを左右する「キーストーン種」と呼ばれる重要な存在だ。
「キーストーン」とは、石造りのアーチの頂点にある「要石」のことで、この石を一つ抜くだけでアーチ全体が崩れてしまうように、その生き物がいなくなるだけで生態系がバラバラに壊れてしまう種のことを「キーストーン種」と呼ぶ。
ラッコがいなくなると天敵のいなくなったウニやカニが爆発的に増え、海藻の森を食べ尽くしてしまう。
ラッコが大量に食べることで守られた海藻の森は、多くの魚の隠れ家となり、二酸化炭素を吸収して地球温暖化を抑制する機能も果たしている。
しかし、かつてその美しい毛皮を狙った乱獲により、ラッコは絶滅寸前まで追い込まれた歴史がある。
現在もなお、原油流出事故や感染症などの影響で、絶滅危惧種として保護が必要な状態が続いている。
ラッコが仲間と手をつなぎ、命をつないでいく営みは、北太平洋の豊かな環境を未来へ残すための「アーチの要」を守る戦いでもあるのだ。
References: Montereybayaquarium[https://www.montereybayaquarium.org/newsroom/press-releases/study-shows-sea-otters-helped-prevent-widespread-California-kelp-forest-declines-over-the-past-century] / Journals.plos.org[https://journals.plos.org/climate/article?id=10.1371/journal.pclm.0000290#sec005]











