スイスのチューリッヒ大学の研究チームは、高校生が登校時間を自分で選べる仕組みが、慢性的な睡眠不足の解消に極めて有効であるとの調査結果を発表した。
生徒の95%が始業時間を遅らせる選択をした結果、睡眠時間が平均45分増加し、英語や数学の成績も向上した。
10代特有の夜型という性質に合わせた柔軟なスタイルが、心身の健康と学力を守る新たな解決策として期待されている。
この査読済みの研究成果は『Journal of Adolescent Health[https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1054139X26000133]』誌(2026年2月17日付)に掲載された。
10代が夜型になるのは生物学的な理由がある
多くの中高生が夜の適切な時間に眠れず、朝早くからの登校に苦労しているが、それには、思春期特有の体の仕組みが関係している。
10代の若者は大人よりも遅い時間に眠くなるよう、体内時計(生物が生まれつき持っている1日のリズム)が自然と後ろへずれていく傾向がある。
このため、本人の意志とは関係なく夜更かしになりやすく、平日は慢性的な睡眠不足が積み重なっていくのだ。
チューリッヒ大学の発達小児科医のオスカー・イェニ博士によると、この睡眠不足は心の健康や体の発達、さらには学習能力にまで目に見える形で悪影響を及ぼすという。
10代の若者が睡眠時間を確保するためには、根性論で早起きを強いる方法では効果がでないのだ。
登校時間を生徒が選べる新しい仕組み
これまでも始業時間を一律に遅らせる研究は行われてきたが、生徒にも個人差があり、すべてが夜更かし型とは限らない。
自分の体質に合わせて「早い時間」か「遅い時間」かを自分で選べる「柔軟なモデル」を検証していく必要があった。
そこで研究チームは、スイス北東部のザンクト・ガレン州にあるゴッサウ高等中学校(日本の中学校から高校の学齢にあたる生徒が通う学校)が3年前から導入している登校スタイルに注目した。
この学校では、以前は朝7時20分から全員一斉に授業が始まっていた。そのため、生徒はそれよりもさらに早い時間に登校しなければならなかった。
しかし新システムでは、正式な授業開始を8時30分に変更した上で、朝7時30分からの選択できる授業を用意した。
つまり、早く登校したい生徒も、睡眠を優先してゆっくり登校したい生徒も、自分のリズムで時間を選べるようにしたのである。
研究チームは平均14歳の生徒754人を対象に、旧システムと選択制導入後の新システムを比較し、睡眠パターンや成績への影響を詳しく分析した。
95%の生徒が遅い始業時間を選択
調査の結果、95%という大多数の生徒が、新しく用意された遅い始業時間を選択していたことが判明した。
生徒たちは、強制的だった以前のスケジュール(7時20分始業)よりも平均で38分遅く学校に到着するようになり、その分、朝の起床時間も40分遅くなった。
夜に寝る時間は以前と変わらなかったため、結果として睡眠時間は平均で45分増加した。
睡眠不足が解消され学力が向上し、心が安定
生徒に登校時間の判断を委ね、実質的な始業時間を遅らせたことは、学習面にも目に見える成果をもたらした。
州が実施した学力テストの結果を分析したところ、睡眠時間が増えたことで英語と数学の成績が向上していた。
さらに、睡眠不足という心身への過度な負荷が取り除かれたことで、毎日をいきいきと過ごせる指標である「生活の質(QOL)」が高まり、メンタルヘルスも大きく改善した。
実際にスイス健康観察所(Obsan)の調査では、11歳から15歳の約半数が悲しみや不安、イライラ、激しい疲労感といった慢性的な精神的不調を経験している。
本研究は、こうした不調の主な原因が「10代のリズムに反した早朝始業による睡眠不足」にあることを示唆している。
論文共著者のレト・フーバー氏は、授業を遅く始める選択肢によって睡眠を確保することが、生徒たちの学力と心の健康を支える決定的な鍵になると指摘する。
References: Elsevier.com[https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1054139X26000133] / Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1117437]











