コンサートホールで聴く音楽の印象は、耳だけでなく目からの視覚情報によっても変化する。
ドイツのベルリン工科大学が行った最新のバーチャルリアリティ(VR)実験によると、ホールの色が聞き手の音の捉え方を左右することがわかった。
明るい色の空間では音が温かく感じられる一方で、青や緑などの冷たい色では音も冷たく聞こえるという。
この結果は、人間の視覚と聴覚が互いに影響し合っていることを示している。
この査読済みの研究成果は『The Journal of the Acoustical Society of America[https://pubs.aip.org/asa/jasa/article/159/2/1674/3380889/The-influence-of-the-color-design-of-auditoriums]』誌(2026年2月24日付)に掲載された。
五感を刺激する音楽体験の謎
ライブミュージックは耳で楽しむものだが、実際には聴覚以外の感覚も刺激されている。
照明や視覚効果がコンサートの体験を高めることは知られていたが、それらが音そのものの印象にまで影響を与えるのかは、これまで科学的にはっきりしていなかった。
そこでベルリン工科大学のシュテファン・ヴァインツィール教授らの研究チームは、ホールの色が聞き手の音の捉え方にどのような影響を与えるのかを詳しく調べることにした。
室内音響(部屋の形や材質による音の響き)の知覚は多次元的であり、聞き手はホールを単に「響きが良いか」「音が大きいか」だけで判断しているのではないという。
音が温かく聞こえたり、逆に明るく、あるいは金属的に聞こえたりといった「音の質感」の違いをどう感じ取っているのか、その実態を調査した。
VR空間で12種類の色のホールを再現し聞こえ方をチェック
研究チームは、ホールの色が音の知覚に与える影響をテストするための実験を行った。
本来であれば、壁の色や椅子の布地を実際に変えた複数のホールを用意するのが理想だが、現実的には困難である。そこで活用されたのがVR技術だ。
参加者はVRヘッドセットを装着し、赤、緑、青の3色を基調としたバーチャルなコンサートホールを体験した。
それぞれの色は色相や明るさ(明度)、鮮やかさ(彩度)が細かく調整され、合計12種類の異なる色彩環境が用意された。
体験をよりリアルにするため、ヘッドフォンには、聞き手が頭を動かす動作に合わせて音の方向や響きがリアルタイムで変化する「バイノーラル技術」が使用された。
参加者は、バイオリンとクラリネットによるテンポや時代の異なる4つの演奏を聴き、それぞれの「好み」「音の強さ」「響き」「音の表情」を評価した。
視覚的な色が音の質感を左右する
実験のデータを分析した結果、コンサートホールの視覚的なデザインと、聞き手が感じる音の表情の間には明確な相関関係があることが突き止められた。
特に音楽の質感にまつわる要素は、視覚的な色から最も大きな影響を受けていた。
赤やオレンジといった明るい暖色系の空間は、聞き手に「温かい音」を感じさせる効果を持っていた。
対照的に、水色や緑のような寒色系の空間は、実際に流れている音までもがより冷たく感じられる傾向が確認された。
音楽経験が豊富なほど音と色の関係は顕著に表れる
一方で、音の大きさそのものの感じ方に変化は見られなかった。
また、参加者は明るいホールよりも「暗いホール」での演奏をより好む傾向にあることも判明した。
こうした視覚による音への影響は、参加者自身の音楽経験が豊富であるほど、より顕著に現れることも示されている。
音響設計における視覚デザインの重要性
今回の研究結果から、ヴァインツィール教授は今後のコンサートホール設計において視覚要素が不可欠であると指摘している。
ホールの音響を良くするためには膨大な費用と労力が投じられるが、視覚的な外観が音の印象に与える貢献は見過ごされがちだからだ。
教授は、建築家や音響技師に対し、ステージや客席の照明、さらには床や椅子の布地にいたるまで、空間のあらゆる要素を考慮すべきだと促している。
ホールの見た目をどうデザインするかが、最終的に観客が聴く「音」そのものを形作ることになるからだ。
References: Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1117190] / Pubs.aip.org[https://pubs.aip.org/asa/jasa/article/159/2/1674/3380889/The-influence-of-the-color-design-of-auditoriums]











