擬態を得意とする生き物は世界中にたくさんいるが、そのレベルやスキルは種類によってまちまちだ。
ぱっと見でバレバレなやつ、落ち着いて観察すればわかるヤツ、そしてなかなか見抜けない只者じゃないやつ。
近くによって目を凝らして、さらに「ここにいる!」と教えてもらったにもかかわらず、まったく認識できないすごいヤツがマダガスカル島で目撃された。
その場所に精通したガイドがいなかったら、絶対にわからないレベル。いったいどんな生き物だったのだろうか。
何度ガン見しても全くわからない擬態レベル
バックパックひとつで世界中を旅しているジェシー・ロンバーグさんは、ガールフレンドと訪れていたマダガスカルで、信じられないものを目にした。
文字通り、今まで見てきた中で一番クレイジーな光景だった!
ジェシーさんが見つけたその「クレイジーな光景」がこれ。実はこの写真の中に、ある生き物が隠れているのだがわかるかな?
1本の木の幹が写っているだけのように見えるのだが、その右下あたりに実はある生き物の目が見えている。
さっぱりわからないという人のために、ちょっと近づいて拡大してみよう。白い矢印の先にある丸っこいモノ。それがそれがこの生き物の目玉なんだ。
レンズを通しての映像だから、見えていてもうまく認識できないんだろうな、と思ったら、そういうレベルではないらしい。
ジェシーさんは肉眼で、この木をあらゆる角度からジーッと見つめて観察したが、どんなに頑張っても何も見つけることができなかったそうだ。
冗談抜きで、僕は5分くらいこの木を見つめていました。そして「(ガイドは)いったい何を言ってるんだ? ここには何もないじゃないか。
意味がわからない」と思ったんです
実はガイドがジェシーさんをこの木の前に連れてきて、「ここにヤモリが隠れているよ」と、事前に教えてくれたんだそう。
しかし最初にはっきりそう聞いていても、ヤモリの影も形も見えなくて、どこにいるのか皆目見当もつかない。
ジェシーさんはとうとうギブアップ。するとガイドが、ヤモリの目と口のあたりを指さして正解を教えてくれた。輪郭をざっとなぞってみるとこんな感じ。
いや、これはわからないでしょう。身体と木の幹の間の境目が、正解を教えてもらってもまだよくわからないんじゃないだろうか。
正解はマダガスカル固有種のヘラオヤモリ
このヤモリはマダガスカル島固有種の「ヘラオヤモリ」の仲間である。島内の森林に生息しており、樹皮や落ち葉そっくりの擬態をすることで知られている。
英語では「Leaf-tailed gecko(葉っぱの尻尾のヤモリ)」あるいは「flat-tailed gecko(平たい尻尾のヤモリ)」とも呼ばれている。
ヘラオヤモリの何がすごいかと言うと、色や形だけで擬態しているのではない点だ。そもそもカメレオンのように、体色を劇的に変える機能は備わっていない。
彼らの身体の横側やあごの下には、皮膚がヒダのようになっている部分があって、ここを幹にぴったり押し付けることで、境目や影が目立たなくなるのだ。
この見事な擬態により、ヘラオヤモリは捕食者の目を逃れ、生存確率を最大限上げることができる。
マダガスカルの森には蛇や鳥、小型の肉食哺乳類など、ヘラオヤモリを狙う捕食者がたくさんいる。
姿かたちを擬態するだけでなく、昼間はほとんど動かないことで、彼らは捕食者に「そこに獲物がいる」という認識すらさせないことに成功しているのだ。
その一方で、自分たちが捕食者の側に回った時は、獲物に気づかれにくいというメリットも発揮する。
ヘラオヤモリは主に昆虫を餌としているが、こうして木の幹などに擬態していることで、昆虫の方から目の前に近づいてきてくれるのだ。
彼らの見た目は、長い時間をかけた自然選択の積み重ねと考えられている。自然界では捕食されにくい個体ほど長生きし、繁殖の機会が増える。
つまり擬態スキルの高い形質ほど、次世代に残りやすくなる。このレベルにたどり着くまでに、彼らはどれだけ途方もない進化の道筋を辿って来たのだろうか。
サイズも柄もバリエーションが豊富
マダガスカル島で独自の進化を遂げ続けてきたヘラオヤモリの仲間は、現在25種が確認されているという。
一番大型の「マダガスカルヘラオヤモリ(Uroplatus fimbriatus)」は「フリンジヘラオヤモリ」とも呼ばれ、全長30cmを超える迫力のある外見が魅力だ。
反対に一番小さいのが、枯れ葉に擬態するのが得意な「エダハヘラオヤモリ(Uroplatus phantasticus)」で、全長は7~10cmくらいである。
下は苔の生えた樹皮にそっくりな「ヤマビタイへラオヤモリ(Uroplatus sikorae)」だ。目の部分が見えなかったら、樹皮と全く見分けがつかない気がする。
実はジェシーさんは、同じ日にもう1匹、ヘラオヤモリを見つけたという。だが、上で紹介した個体の擬態能力とは比べ物にならなかったそうだ。
下がそのもう1匹の写真である。確かに身体の方は完全に木の幹と一体化しているが、頭のあたりははっきりと見えてしまっているね。
現地の森に詳しいガイドが同行していなかったら、何も気づかずに通り過ぎてしまうこと間違いなしだ。
私は以前、ボルネオのジャングルを探検した経験があるんだけれど、ガイドがいっしょにいなかったら、何がどこにいるのか全くわからなかった自信がある。
珍しい生き物のいる場所を探検する時には、その場所に精通しているガイドといっしょに行くのが一番だ。
なお、ヘラオヤモリは世界中でペットとして人気があり、日本でもペットショップでたまに見かけることもある。
ヘラオヤモリ属全体はワシントン条約(CITES)では付属書II類の扱いとなっているが、絶滅危惧の度合いは種によって低懸念から危機まで幅がある。
今すぐ絶滅の危機にあるというわけではないが、ペットとしての流通は今後は減っていく可能性はあると思う。











