クマムシを火星で生き延びさせる方法を発見。地表の水洗浄が鍵に
Image credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS(火星の表面) <a href="https://www.istockphoto.com/jp/portfolio/dottedhippo?mediatype=photography" target="_blank">dottedhippo</a>(クマムシ)

クマムシを火星で生き延びさせる方法を発見。地表の水洗浄が鍵に...の画像はこちら >>

 地球最強生物と言われているクマムシでも、火星で生き残ることは難しい。宇宙放射線には耐えられても、火星のレゴリス(砂塵)そのものに有毒な物質が含まれているからだ。

 米ペンシルベニア州立大学の実験によると、火星のレゴリスを再現した実験用の砂にさらされたクマムシは数日で死滅したという。

 だが、砂を水で洗い流すことで、生存率が劇的に向上することも確認された。もしレゴリスを洗浄することができれば、クマムシは生きられるし、将来の火星農業や居住を支える決定的な鍵になるかもしれない。

火星のレゴリスを再現した砂にクマムシを投入

 火星のレゴリス(砂塵)に含まれる有害物質がクマムシを死滅させる

 ペンシルベニア州立大学の研究チームは、火星の表面を覆うレゴリス(砂塵)が生物に与える影響を詳しく調査した。

 実験では、基準となる「地球の普通の砂」に加え、火星の平均的なレゴリスの化学組成を再現した「MGS-1」、そして特定の探査地点、オクシア・パヌス平原の成分をより詳細に模した「OUCM-1」の2種類の砂を用意し、そこに2種類のクマムシを投入して経過を観察した。

 クマムシは世界中で約1500種類以上が確認されているが、今回選ばれたのは、陸に住むタフな「ヨコヅナクマムシ(Ramazzottius cf. varieornatus)」と、淡水に住む「ドゥジャルダンチョウメイクマムシ(Hypsibius exemplaris)」だ。

 クマムシが活動するには微量の水分が必要なため、実験はそれぞれの砂を湿らせた状態で行い、その中での経過を観察した。

[画像を見る]

レゴリスに含まれる有害物質がクマムシを死滅させる

  実験の結果、地球の普通の砂で過ごしたグループは、ヨコヅナクマムシもドゥジャルダンチョウメイクマムシも健康なまま生き残った。

 これに対し、火星のレゴリスを再現した砂に入れたグループには残酷な結末が待っていた。

 火星全土の平均的な成分を模した砂「MGS-1」では、ドゥジャルダンチョウメイクマムシがわずか2日以内に100%死滅するという極めて厳しい結果が出た。

 非常にタフなはずのヨコヅナクマムシでさえ、4日後には個体数が激減し、生存が困難な状況に追い込まれた。

[画像を見る]

 オクシア・パヌス平原を模した砂「OUCM-1」でも同様の結果だった。

 実験開始からわずか24時間(1日)で、ドゥジャルダンチョウメイクマムシの約60%が死亡し、4日後にはほぼ全滅に近い状態となった。

 ヨコヅナクマムシも同様にダメージを受け、4日後の生存率は大幅に低下した。

 放射線や真空以前に、火星の砂そのものがクマムシにとって致命的な毒性を持っていることが科学的に証明されたのだ。

[画像を見る]

水洗いでレゴリスを浄化すれば生存率が向上

 研究チームは、火星のレゴリスの中に水に溶け出す性質を持つ有害な成分が含まれているのではないかと考えた。

 そこで、最も致死的だった再現砂(MGS-1)を一度水で洗い流してから、再びクマムシを投入する実験を行った。

 すると、洗浄後の砂に入れたクマムシは、ヨコヅナクマムシとドゥジャルダンチョウメイクマムシのどちらも生存期間が大幅に延び、地球の砂を用いたグループと同じレベルの活発な動きを見せた。

 この劇的な変化により、火星のレゴリスには生物の生命維持を妨げる水溶性の有害物質が含まれており、それは「水で洗う」という工程だけで除去できることが明らかになった。

 火星には液体の水が地下深くに存在すると予測されているが、それを取り出すのは容易ではなく、実用化へのハードルは依然として高そうだ。

[画像を見る]

将来の火星農業や居住を支える洗浄プロセスの重要性

 今回の発見は、将来人間が火星に移住し、現地で植物を育てたり生態系を築いたりする上で極めて重要な意味を持つ。

 火星で水を確保することは極めて難しいが、レゴリスを洗浄して無害化する工程を組み込めば、クマムシのような微小動物を砂の中に導入して健康な土壌環境を作れる可能性が高まった。

 また、このレゴリスの毒性は、地球の微生物が不用意に火星を汚染することを防ぐ天然のバリアとしても機能する。

 研究チームは今後、クマムシを死滅させた有害物質の正体をさらに詳しく特定していく方針だ。

[動画を見る]

 この査読済みの研究成果は『International Journal of Astrobiology[https://www.cambridge.org/core/journals/international-journal-of-astrobiology/article/shortterm-survival-of-tardigrades-ramazzottius-cf-varieornatus-and-hypsibius-exemplaris-in-martian-regolith-simulants-mgs1-and-oucm1/8A91986096FB533FB264DD056F549DF2]』誌(2025年12月5日付)に掲載された。

References: Cambridge[https://www.cambridge.org/core/journals/international-journal-of-astrobiology/article/shortterm-survival-of-tardigrades-ramazzottius-cf-varieornatus-and-hypsibius-exemplaris-in-martian-regolith-simulants-mgs1-and-oucm1/8A91986096FB533FB264DD056F549DF2] / Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1118107]

編集部おすすめ