エニグマを超えるナチスの暗号機「SG-41」の失われたマニュアルが、80年の時を経て発見される
機械式暗号機SG-41 Image credit:: Archiv bezpečnostních složek (Security Services Archive)

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 第二次世界大戦中にナチス・ドイツ軍が運用した当時最先端の暗号機に関するマニュアルの原本が、チェコの公文書館で発見された。

 この暗号機はシュリュッセルゲレート 41(SG-41)と呼ばれ、有名なエニグマを超える複雑な構造を持つ。

 最新の研究により、連合軍すら解明できなかった現場での操作手順や暗号鍵の運用実態が判明し、長年謎に包まれていた暗号機の仕組みの一部が明らかとなった。

長年謎に包まれていた暗号機SG-41の資料を発見

 ナチス・ドイツの当時最先端の暗号機「シュリュッセルゲレート 41(Schlüsselgerät 41:SG-41)」に関する技術文書と操作マニュアルの原本が、プラハにある2つの公文書保管機関、軍事史研究所(VHÚ)と安全保障サービス公文書館で発見された。

 スロバキア工科大学のオイゲン・アンタル氏とドイツ博物館のカローラ・ダールケ氏らによる研究チームは、2021年12月14日の調査中に、軍事史研究所と安全保障サービス公文書館のアーカイブからこれらの貴重な資料を特定した。

 この調査では1945年3月の敗戦直前に現場で使われていた暗号鍵の設定表まで確認されており、ドイツ人発明家のフリッツ・メンツァー氏が1941年に設計した装置の全容をようやく捉えることができた。

 終戦時の混乱で関連文書の多くが処分され、稼働する実物もほとんど現存していなかったため、SG-41の正確な動作原理や運用ルールはこれまで謎に包まれていた。

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エニグマを凌駕する緻密な機械式計算システム

 SG-41は、電気回路で暗号を作るエニグマとは異なり、歯車とレバーだけで複雑な計算を行う純粋な機械式装置である。

 スウェーデンの発明家ボリス・ハゲリン氏が考案した「ピン・アンド・ラグ」方式を基礎としており、本体内部にある6つのホイールに刺さった144個のピンの「有効・無効」の組み合わせが暗号の鍵となる。

 キーボードで文字を打つと、内部のレバーがピンの並びを読み取って「擬似乱数」を生成し、その数値を元の文字に加えることで暗号文へと変換する。

 復号時にはその数値を差し引くだけで元の文章に戻る仕組みである。

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 設計者のメンツァー氏は、この仕組みに暗号史の転換点となる2つの革新を加えた。

 1つ目は、各ホイールが互いの動きに影響を及ぼし合い、回転のタイミングを不規則にする「不規則な歩進システム」である。

 これにより、解読の手がかりとなる規則的なパターンを徹底的に排除した。

 2つ目は、第6ホイールが他のホイールすべての状態を反転させる「ネゲーション(否定)機能」である。

 第6ホイールの読み取り線上に有効なピンが来ると、他のホイールの有効・無効(0と1)の状態がすべて入れ替わり、暗号の複雑さを劇的に高めていた。

 歯車が物理的に「手のひらを返す」ように動くこの仕掛けが、当時の連合軍による解読を拒み続けたのである。

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終戦直前まで運用されていた携帯機能を備えたSG-41

軍事史研究所で発見された原本資料の中には、1944年9月2日付の取扱説明書や、現場の兵士が使うための短縮版マニュアルが含まれていた。

 特に1945年3月16日から31日までの期間に使用された暗号鍵の設定表は、ドイツ降伏のわずか2ヶ月前までこの複雑な装置が最前線で運用されていた実態を物語っている。

 また、17 kgもの重量がある装置を、机のない戦場でも安定して操作するために開発された「クッション付きの木製専用台(クニープラッテ)」の存在も判明した。

 この専用台は、兵士の膝にフィットするクッションによってタイピング時の衝撃を和らげる土台となる。

 さらに、ストラップを取り付けることで本体をリュックサックのように背負って運ぶための背板としての役割も兼ね備えていた。

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解読を不可能にした出力アルファベットの攪乱設計

 一方で、安全保障サービス公文書館では、戦後にチェコスロバキアの情報機関が作成した41ページにわたるチェコ語の内部文書が見つかった。

 同国がいつ資料を入手したかは不明だが、1952年2月の会議に向けて研究されていた可能性があり、戦後西ドイツの暗号開発を東側諸国が調査していた一環とも推察されている。

 この分析記録からは、当時の専門家たちが統計的な偏りから解読の糸口を探り当てようと苦闘していたことがわかっている。

 ホイールの数値(1, 2, 4, 8, 10)の組み合わせにより、理論上は26個の数値のうち6つが頻出する傾向にあった。

 現代のシミュレーターで「A」を10,000回暗号化する実験でもこの偏りは確認されているが、設計者メンツァーはこれを見越し、出力アルファベットの配列をあえてデタラメに配置(攪乱設計)することで偏りを打ち消していた。

 自然言語の文章を暗号化すればこの差はほぼ消失するため、当時の環境下で解読することは事実上不可能であった。

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暴かれた真価と、いまだ残る謎

 今回の発見により、SG-41が当時の水準を遥かに凌駕する完成度を誇っていたことは証明された。しかし、これですべてが解明されたわけではない。

 SG-41が作り出せる暗号の組み合わせは理論上、2の144乗という天文学的な数に達するが、実際の運用では約1億6500万通りほどに制限されていた。

 さらに当時の実録設定を調べると、重要な「最大周期(暗号のパターンが一周して元に戻るまでの長さ)」を保つための厳格なルールを、現場の兵士たちが無視して運用していたという実態も浮かび上がっている。

 また、暗号の作り方の核心を記した最重要書類「規則第110号(Regulation Nr. 110)」はいまだ発見されておらず、1945年にソ連軍が製造工場から接収した膨大な技術資料や実働機とともに、今もロシアの公文書館の奥深くに眠っている可能性がある。

 今回のマニュアル発見で動作原理や運用方法はわかったが、すべての謎が解ける日はくるのか?今後の発表を待ちたい。

 この査読済み研究成果は『Cryptologi[https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/01611194.2025.2557311]』誌(2025年12月1日付)に掲載された。

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References: Tandfonline[https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/01611194.2025.2557311] / The Lost Manuals of the Most Advanced Nazi Cipher Machine of World War II Are Found in Prague[https://www.labrujulaverde.com/en/2026/03/the-lost-manuals-of-the-most-advanced-nazi-cipher-machine-of-world-war-ii-are-found-in-prague-a-machine-whose-operation-no-one-fully-understood/]

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