遺伝や加齢など、さまざまな要因で頭髪が薄くなってしまった頭皮に、再び髪を呼び戻すことは可能なのか?その鍵を握るのは、皮膚の奥で髪を作り出す「毛包(もうほう)」という組織である。
ここは髪を維持するための大切な場所だが、何らかの理由で組織が働かなくなると、自力で髪を再生させるのは困難になる。
しかし日本の研究チームが、この毛包を幹細胞から作り出すことに成功した。
まだマウス実験の段階だが、髪が生え変わるサイクルまでもが再現されており、将来の脱毛症治療に向けた重要な一歩として注目されている。
この査読済み研究成果は『Biochemical and Biophysical Research Communications[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006291X26002238]』誌(2026年3月9日付)に掲載された。
参考文献:
成体毛包の3種類の幹細胞により生体外で髪の毛を再生
https://www.riken.jp/press/2026/20260225_3/index.html[https://www.riken.jp/press/2026/20260225_3/index.html]
Scientists Are Growing Hair Follicles in a Lab, and It Might Fix Your Bald Head
https://www.vice.com/en/article/scientists-are-growing-hair-follicles-in-a-lab-and-it-might-fix-your-bald-head/[https://www.vice.com/en/article/scientists-are-growing-hair-follicles-in-a-lab-and-it-might-fix-your-bald-head/]
毛根組織を細胞から再生し髪の生え変わりを再現
株式会社オーガンテックと、理化学研究所生命機能科学研究センター器官誘導研究チームらによる共同研究チームは、髪の毛を作り出す組織である「毛包(もうほう)」を、3種類の幹細胞(細胞の種)から再生することに成功した。
今回の研究で最も驚くべき成果は、実験室の中で作られた毛包が、本物の髪のように「生えては抜け、また生える」というサイクルを自分自身の力で繰り返したことである。
これまでの再生医療では、作った組織を頭皮に移植しなければこうした動きを再現するのは難しかったが、今回の手法ではマウス実験により、すでに本物と同じような機能を持たせることに成功している。
髪の製造工場である毛包が薄毛治療の鍵を握る
髪の毛を一生生やし続けるためには、皮膚の奥にある毛包が正常に働かなければならない。
毛包は髪を作り出す「工場」のような役割を果たしており、数年の周期で髪の成長と生え変わりをコントロールしている。
体質や加齢によってこの工場が動かなくなったり、消失したりすることが、髪が薄くなる主な原因だ。
現在の治療では、残っている髪を移植するか、ミノキシジルなどの成分で休んでいる工場を刺激したり、薬で抜け毛を遅らせたりする手法が一般的である。
しかし、完全に消えてしまった工場そのものを復活させる解決策はまだ確立されていなかった。今回の研究は、その工場をゼロから作り直すことで、再び髪を自力で生やす「再生医療」を目指している。
3種類の「幹細胞セット」が髪の工場を完成させた
今回の成功の鍵は、毛包を作るために必要な「最小限の幹細胞セット」を特定したことにある。研究チームは、成体(大人)の組織から以下の3種類の幹細胞を組み合わせた。
- 上皮性幹細胞:髪の毛の本体や工場の壁を作る材料になる細胞。
- 毛乳頭細胞:髪をいつ伸ばすか指令を出す、司令塔のような細胞。
- 毛包再生支持細胞:今回新しく発見された、工場の土台を安定させる細胞。
これまでは上の2種類だけで実験されていたが、それでは工場がすぐに壊れてしまい、髪が生え変わるリサイクルが続かなかった。
今回、3つ目の「支持細胞」を加えたことで、工場の構造がしっかり保たれ、実験室の中でも本物のように髪が生え変わるようになったのである。
実験室で育った毛包が自分の力で動き出す
この3種類の幹細胞を正しいタイミングで組み合わせたことで、実験室で育った毛包は大きな進化を遂げた。
これまでは毛包を作っても、周りの組織とうまくなじまず、移植をしない限り正常には動かなかった。
しかし、この「3種セット」で作り上げると、毛包は自分から周りの組織とつながり、移植をしなくても自然な成長サイクルを開始したのである。
これは、実験室の中で「本物と同じように機能する組織」を完成させたことを意味する。将来、人間の頭皮に移植した際にも、よりしっかりと根付いて髪を伸ばし続けることが期待される。
マウスからヒトへの応用が期待される次世代の再生医療
今回の実験はマウスの細胞を使って行われたもので、まだ人間での試験は始まっていない。
実用化のためには、この技術をよりたくさんの数で安定して作る方法や、人間の頭皮へ安全に移植するルールを決めるなど、乗り越えるべき課題はまだいくつかある。
しかし、これまで不可能だった「髪を何度も生やす工場の完全な再生」に道筋がついた意味は非常に大きい。
研究チームは、この技術が将来、自分の細胞を使って髪を再生させる新しい治療法として、多くの人の役に立つことを期待している。
References: Sciencedirect[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006291X26002238] / Prtimes[https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000116188.html] / Riken[https://www.riken.jp/press/2026/20260225_3/index.html]











