イギリスのロンドン自然史博物館などの研究チームは、チャールズ・ダーウィンが約200年前に採集した貴重な標本を、瓶のフタを開けずにレーザーで分析することに成功した。
これは空港の検問でも使われる空間オフセット・ラマン分光法(SORS)という技術を応用した成果である。
長期間の保管により成分が不明だった保存液を、瓶を密閉したまま正確に特定できるようになったことで、標本を劣化させることなく保護することが可能になった。
この研究成果は学術誌『ACS Omega[https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsomega.5c09045]』(2026年1月13日付)に掲載された。
参考文献:
Analysing Darwin specimens without opening 200-year-old jars
https://www.ukri.org/news/analysing-darwin-specimens-without-opening-200-year-old-jars/[https://www.ukri.org/news/analysing-darwin-specimens-without-opening-200-year-old-jars/]
ダーウィンの歴史的標本の保存液の正体
科学史上、最も重要な発見の一つである「進化論」を築いたイギリスの自然科学者、チャールズ・ダーウィン(1809年 – 1882年)は数々の生物標本を残した。
ロンドン自然史博物館には、1830年代にダーウィン(Darwin)がビーグル号での航海中に採集した哺乳類、爬虫類、魚類、クラゲ、エビなど46点の標本が保管されている。
約200年が経過した現在、保存液は蒸発や劣化を繰り返し、そのたびに歴代の管理者が液体を補充してきた。
そのため、保存液が現在どのような成分になっているのか、正確には誰にも分からなくなっている。
もし成分を知らずに誤った薬品を継ぎ足せば、化学反応で中の標本が溶けてしまう可能性があるため、瓶を密閉したまま保存液の正体を突き止める必要があった。
瓶の外からレーザーを当てて保存液の正体を特定する
ロンドン自然史博物館と科学技術施設会議(STFC)、精密機器メーカーのアジレント・テクノロジーによる共同研究チームは、この問題を解決するために、空港の荷物検査でも使われている特殊なレーザー技術を瓶に照射した。
この技術は、瓶のガラス壁を通り抜けるレーザー光を使い、内部にある液体の成分を特定するものだ。
レーザーの光が液体に当たると、その成分に応じて光の性質がわずかに変化する。その変化をセンサーで読み取ることで、瓶を一度も開けることなく、中身の液体の成分を正確に判別できるようになった。
分析の結果、調査した標本の約80%で、現在入っている保存液の配合を突き止めることに成功した。
200年前の採集現場で行われていた保存の工夫
今回の調査では、現在の液体の成分を特定したことで、ダーウィンたちが航海中、生き物の体のつくりに合わせて保存方法を変えていたという当時の実態も明らかになった。
200年前の現場では、生き物を腐らせずに持ち帰るため、博物学者たちが経験に基づいた工夫を凝らしていた。
ちなみにホルムアルデヒドは1859年に発見され、ホルマリンが防腐剤や保存液で使用され始めたのは1893年以降となるため、当時はまだなかった。
骨格のある哺乳類には主にアルコールが使われていたが、今回の調査でクラゲやエビなどの組織が柔らかい生き物の瓶を調べたところ、組織の縮みを防ぐためのグリセロールという成分が検出された。
後から補充された液体を差し引いて分析することで、これまで記録に残っていなかった「200年前の保存レシピ」が、最新の技術によって現代に初めて証明されたのである。
世界に1億点存在する標本を全滅から救う管理革命
瓶を閉じたまま保存液の状態を正確に把握できる新技術は、世界中の博物館が抱える1億点以上の標本を、管理ミスによる消失の危機から救う強力な武器となる。
液体に浸された生物標本にとって、保存液の成分は命綱である。中身の正体が分からないまま手入れを続けることは、常に標本を壊すリスクを伴うことになる。
しかし、このレーザー技術を使えば、瓶を密閉したまま液体の成分や状態をチェックし、それぞれの標本に最適な手入れを行うことができる。
科学技術施設会議のサラ・モスカ博士は、この手法が歴史的な遺産を安全に未来へ引き継ぐための大切な技術となると語っている。
References: UKRI[https://www.ukri.org/news/analysing-darwin-specimens-without-opening-200-year-old-jars/] / Sciencedaily[https://www.sciencedaily.com/releases/2026/03/260303145720.htm] / Pubs.acs.org[https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsomega.5c09045]











