ビーバーが川にダムを作ることで、気候変動の原因となる二酸化炭素の元である「炭素」を地面に大量に閉じ込めてくれることがわかった。
スイスの川を調べたところ、わずか0.8kmの範囲で、1年間に石油約15万9000リットル分以上の炭素を吸収して蓄えていたのだ。
イギリスのバーミンガム大学などの研究チームは、生態系エンジニアと知られているビーバーを野生に戻すことが、お金をかけずに地球を守る切り札になると指摘している。
この研究成果は『Communications Earth and Environment[https://www.nature.com/articles/s43247-026-03283-8]』(2026年3月18日付)に掲載された。
ビーバーの作るダムが炭素を閉じ込める天然の貯蔵庫になる
ビーバーが川にダムを築くと、その場所は炭素を蓄積する強力な貯蔵庫となる。
イギリスのバーミンガム大学、スイスのベルン大学、オランダのワーヘニンゲン大学などの国際研究チームは、スイス北部で10年以上ビーバーが活動している河川を調査し、その影響を詳細に測定した。
調査の結果、ビーバーが作り出した湿地は、ビーバーがいない場所に比べて最大10倍という速さで炭素を蓄えていることが判明した。
ビーバーがダムで川の流れを緩やかにすると、水底に泥や植物の死骸が積み重なる。
本来なら分解されて二酸化炭素として空気中に逃げてしまう有機物が、水底の低い酸素状態の中に沈められ、長期間「封じ込め」られる。
このわずか0.8kmの区間だけで、1年間に約110トンの炭素が隔離(大気から切り離して貯蔵すること)されていた。
これは石油に換算すると約159,000リットルを消費した際に出る炭素量に匹敵する。
重機を使った高価な人工インフラに頼らずとも、ビーバーの習性を活用するだけで、これほど大きな成果が得られるかもしれない。
絶滅寸前だったヨーロッパビーバーが復活し環境を整える
今回注目されたのは、ヨーロッパビーバー(Castor fiber)だ。
この動物はかつて、毛皮や香料の材料を狙った乱獲により、ヨーロッパ全域で絶滅寸前まで追い込まれていた。
ヨーロッパビーバーは、体長80cmから100cm、体重20kgから30kgほどになるげっ歯類で、平らな尾をオールのように使い、水辺の木をかじって倒す強靭な歯を持っている。
現在、このビーバーを再び野生に戻す活動がヨーロッパ各地で進められており、個体数の回復とともに、彼らが作る豊かな湿地も戻りつつある。
研究チームのベルン大学、ルーカス・ハルバーグ博士はこう語る。
ビーバーが気候変動のすべてを解決するわけではありませんが、私たちの研究は、これらの生態系エンジニアが、今後数十年にわたって河川の景観がより多くの炭素を貯蔵するのを静かに手助けできることを示しています
ヨーロッパビーバーの復活は、生態系を取り戻すだけでなく、気候変動への対策としても有効に機能するのだという。
森林の14倍の濃度、泥の中に眠る圧倒的な蓄積力
研究チームが川底の泥(堆積物)を分析したところ、ビーバーの池の底にたまった泥には、周囲の森林の土壌に比べて最大14倍もの炭素が含まれていた。
さらに、ビーバーが運んできた「枯れ木」も重要な役割を果たしており、長期間貯蔵される炭素の約半分を占めていた。
もちろん、自然環境には変動がある。水が少なくなる夏場には、泥が空気に触れて二酸化炭素を放出する「炭素源」になる時期もある。
しかし、年間を通してみれば、吸収して蓄える量の方が圧倒的に多い。
また、湿地で懸念されるメタンガスの放出も、今回の調査では全体の炭素予算の0.1%未満と、ごくわずかであることが証明された。
スイス全体の適切な場所にビーバーを戻せば、国全体の年間炭素排出量のうち最大1.8%を相殺できる可能性があるという。
自然のプロセスをそのまま活用することは、環境保護と経済的な効率性を両立させる有力な手段となる。
ビーバーの作った湿地帯は山火事も防いでくれる
ビーバーの活動は、炭素を貯めるだけにとどまらない。
今回の研究チームには含まれていないが、ビーバー研究の第一人者であるミネソタ大学のエミリー・フェアファックス助教授は、ビーバーが作った湿地が「天然の防火帯」になり、山火事から森を守る役割も果たしていると指摘する。
湿地が水分を豊富に蓄えていることで、周囲で火災が起きてもその場所は燃えにくくなる。
共同研究者のワーヘニンゲン大学、アネグレット・ラーセン助教授も「ビーバーは地形そのものを変えることで、炭素の保存方法を物理的に変えてしまう存在だ」と評価している。
ビーバーを研究する科学者の間では、「どんな環境問題でも、それを解決するビーバーの習性がある」というジョークが語られるほど、ビーバーの役割は多岐にわたる。
人間がビーバーを尊重し、自由に活動できる場所を広げていくだけで、気候変動という困難な課題に対しても、手を貸してくれるかもしれない。
References: Nature[https://www.nature.com/articles/s43247-026-03283-8] / Sciencedaily[https://www.sciencedaily.com/releases/2026/03/260322020245.htm]











