巨大な渦巻銀河がどのように成長してきたのか。その答えが、銀河の中にあるガスに含まれる酸素の分布から初めて読み解かれた。
ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの研究チームは、約5600万光年先、南天の星座「ろ座」にある銀河NGC 1365を観測し、ガス中の酸素の広がりを詳しく分析した。
さらに約2万通りの銀河進化シミュレーションと比較した結果、この銀河が長い時間をかけて小さな銀河と合体しながら成長してきた可能性が最も高いと示された。
この研究は、これまで天の川などごく近傍の銀河でしか適用できなかった手法を遠方銀河へ広げた初の成果であり、銀河系外考古学という新しい研究分野の確立を示している。
この研究成果は『Nature Astronomy[https://www.nature.com/articles/s41550-026-02808-7]』誌(2026年3月23日付)に掲載された。
銀河の過去を探る「銀河考古学」を遠くの銀河に初の応用
宇宙の歴史を調べる方法は、遠くを観測するだけではない。銀河の中に残された星やガスの成分や分布を調べ、その銀河がどのように誕生し成長してきたかを読み解く研究がある。これが「銀河考古学」である。
この手法はこれまで、天の川銀河やアンドロメダ銀河のように、個々の星を分けて観測できる近い銀河に限られていた。
今回、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのリサ・キューリー教授らが率いるチームは、この考古学の手法をはるか遠くの銀河に応用することに成功した。
地球から約5600万光年離れた巨大な渦巻銀河「NGC 1365」が、120億年かけて周囲の小さな銀河を飲み込みながら大きくなった成長の跡を特定したのである。
渦巻銀河とは、中心から腕のような構造が渦を巻くように広がる形をした銀河で、私たちが住む天の川銀河もその一種である。
ガスの光から銀河の歴史を読み解く「銀河系外考古学」
今回の調査で確立された新手法は、私たちの銀河系の外にある遠方の天体を対象とするため、「銀河系外考古学」と呼ばれている。
数千万光年も離れた銀河では、距離が遠いため、星を1つずつ識別してその動きを十分な精度で測定することが難しい。そこで研究チームは、星そのものではなく、銀河の中に広がるガスの「酸素の分布」に着目した。
チームは、チリのラス・カンパナス天文台にある望遠鏡を使い、銀河内のガスが放つ光を精密に分析した。
若く高温の星が出す強い光は周囲のガスを加熱して電離させ、このとき酸素などの元素は特定の波長の光を放つ。
その光の分布を調べることで、銀河のどの場所にどれだけの酸素があるのかを細かく捉えた。
こうして得られた酸素の分布は、星の誕生やガスの流れ、過去の銀河同士の合体の影響を記録した手がかりとなり、遠い銀河の歴史を読み解くことができる。
小さな銀河を飲み込んで巨大化したNGC 1365の正体
分析の結果、NGC 1365の中心部には酸素が多く、外側に行くほど濃度が下がる一方で、最も外側の渦状の腕では酸素の量がほぼ一定であるという特徴が見つかった。
研究チームはこの観測データを、コンピュータによる約2万通りの銀河進化シミュレーションと比較した。その結果、観測結果と最もよく一致するモデルが1つ見つかった。
そのモデルによると、NGC 1365は宇宙の初期に中心部分が形成されて多くの星が生まれ、超新星爆発によって酸素が周囲に蓄積された。
その後、約120億年にわたり、周囲のより小さな銀河との合体を繰り返しながら外側へと成長していった。特に外側の渦状腕は、ここ数十億年の間に合体した銀河から供給されたガスや星によって形成された可能性が高い。
天の川銀河の成り立ちを探る手がかり
この研究は、遠くの銀河の歴史を明らかにしただけではない。私たちが住む天の川銀河も同じ渦巻銀河であるため、その成り立ちを理解する手がかりになる。
天の川銀河も、他の銀河との合体を繰り返しながら成長してきた可能性がある。
そのため、NGC 1365のような似た構造を持つ銀河の歴史を調べることで、天の川銀河がどのように現在の姿になったのかを考えることができる。
今回の研究では、観測とシミュレーションを組み合わせることで、銀河の進化の過程を説明できるモデルが示された。
今後、この手法はさらに多くの銀河に応用されていくと考えられている。
銀河に残されたガスの成分は、宇宙の歴史の記録でもある。その記録を読み解くことで、銀河の進化だけでなく、私たちの体をつくる元素がどこで生まれ、どのように広がってきたのかという問題にも迫ることができる。
References: ‘Space archaeology’ reveals first dynamic history of a giant spiral galaxy[https://www.eurekalert.org/news-releases/1120638] / Nature[https://www.nature.com/articles/s41550-026-02808-7]











