AIが作った偽のレントゲン写真を医師が調べた結果、経験豊富な専門医でも本物と見分けるのが難しいことがわかった。
米ニューヨークのアイカーン医科大学などの研究チームが発表したこの結果は、医療記録の正しさをどう守るかという新しい課題を示している。
本物そっくりの偽物が紛れ込むリスクに対し、早急な対策が求められている。
この研究成果は北米放射線学会の専門誌『Radiology[https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/radiol.252094]』(2026年3月24日付)に掲載された。
AI生成のレントゲン画像は専門医の目さえも欺く
アイカーン医科大学マウントサイナイ校のミカエル・トルジュマン博士らによる研究チームは、AIが生成した「偽のレントゲン写真」をプロの医師が識別できるかどうかを検証した。
この実験には、アメリカやフランスなど6カ国の医療機関から17人の放射線科医が参加した。
放射線科医とは、レントゲンやCT、MRIなどの画像から病気を見つける読影(どくえい)し、診断や治療を行う専門医だ。
実験の結果、偽物だと知らされずに画像を見た場合、正しく見抜けた割合は41%にとどまった。
「偽物が混ざっている」と事前に知らされた場合の、平均の正解率は75%となった。
つまり、偽物が混じっていると知っていても、4枚に1枚は熟練の医師でも間違えてしまうほど、AIが生成する画像は精巧になっているのだ。
巧妙な偽物が引き起こすリスク
研究を率いたトルジュマン博士は、この状況がもたらすリスクに警鐘を鳴らしている。
もし、実際には折れていない骨を「骨折している」ように見せる偽の画像が作られれば、不正な裁判などに悪用される恐れがある。
さらに深刻なのは、病院のネットワークがサイバー攻撃を受け、患者の本物のデータが偽物にすり替えられてしまうことだ。
そうなれば、医師が間違った診断を下してしまい、医療現場が混乱する危険性がある。
デジタル化された医療記録の「正しさ」そのものが、AI技術によって脅かされている。
偽物のレントゲン写真を見分けるスキルが要求される
研究チームは、偽物を見分けるためのヒントも探っている。
AIが作った画像には、共通して「きれいすぎる」という特徴があった。
例えば、骨の表面が不自然に滑らかだったり、背骨がまっすぐすぎたり、左右の肺が鏡のように同じ形をしていたりする。
本来、人間の体にはわずかな歪みや個体差があるものだが、AIは「あまりにも完璧な形」を描いてしまう傾向がある。
また、血管の並び方が規則正しすぎたり、骨折の跡が一箇所だけにきれいに収まっていたりする場合も注意が必要だという。
こうした「不自然な完璧さ」を見つける訓練が、これからの医師には求められている。
AIですら自らの作った偽物に気が付けない
今回の実験では、チャットGPTの最新モデルと、スタンフォード大学の研究者が開発した「RoentGen」という画像生成AIを使用し、偽のレントゲン写真を作成した。
研究チームは、医師だけでなくAI自身にも「本物か偽物か」を判定させる試験を行った。
対象となったのは、「チャットGPT-4o」、「GPT-5」、「Gemini 2.5 Pro」、「Llama 4 Maverick」だ。
しかし、これらのAIに画像を鑑定させたところ、その正解率は57%から85%にとどまった。
偽の画像を生成する手助けをしたChatGPT自身でさえ、すべての偽物を見抜くことはできなかったのだ。
医療データを守るための新たな対策が必要
トルジュマン博士は、今後はCTやMRIのような3D画像でも同様の事態が起こると予測している。
大切な医療データを保護するためには、画像に目に見えない「電子透かし」を埋め込んだり、撮影者の身元を証明する「暗号署名」を付与したりするなどの、技術的な対策の導入が急がれている。
References: Pubs.rsna.org[https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/radiol.252094] / Even Doctors Can’t Tell These AI X-Rays Are Fake[https://scitechdaily.com/even-doctors-cant-tell-these-ai-x-rays-are-fake/]











