約3億年前に昆虫が巨大だった理由は、当時の大気中の酸素濃度が高かったからだという30年来の定説に、「待った」をかける研究成果が発表された。
オーストラリアのアデレード大学が現代の昆虫44種を5年かけて調査した結果、現代の昆虫の呼吸器には、大きな体に酸素を隅々まで届ける能力の「余裕」が十分にあることが判明したのだ。
酸素が薄い現代でも巨大なまま活動できる能力があるのなら、酸素濃度は巨大化の絶対条件ではなかった可能性がある。
この研究成果は『Nature[https://www.nature.com/articles/s41586-026-10291-3]』誌(2026年3月25日付)に掲載された。
かつての昆虫が巨大だったのは酸素濃度によるものか?
石炭紀からペルム紀にかけて、約3億年前の地球には、現在のトンボによく似ているが、全く別のグループに属するオオトンボ目(Meganisoptera)という巨大な昆虫が空を飛んでいた。
グリフィンフライとも呼ばれるオオトンボ目の中には、メガネウラやメガネウロプシス、メガティプスのように、翅を広げると70cm近くにも達する、地球の歴史上で最大級の飛翔昆虫が含まれていた。
これまで科学界では、当時の大気中の酸素濃度が現在の21%よりも高い約30%だったため、これらの巨大生物が生存できたと考えられてきた。
昆虫は「気管」という細い管で呼吸をしており、巨体に酸素を届けるには濃い酸素による後押しが必要だと信じられてきたからだ。
しかしアデレード大学の最新の研究は、この30年以上も教科書に載り続けてきた定説に、大きな疑問を投げかけた。
現代の昆虫を調査してわかった呼吸システムの構造的余地
研究チームは、バッタを含む現代の飛行昆虫44種を対象に、5年もの歳月をかけて1,320枚もの顕微鏡写真を撮影し、筋肉の中にある呼吸システムを徹底的に調査した。
その結果、どの昆虫も酸素を取り込むための微細な管である「微気管」が筋肉に占める割合は、わずか1%程度しかないことが判明した。
これは、同じ役割を持つ鳥や哺乳類の毛細血管が占める割合に比べて、約10分の1という驚くほど低い数値だ。
つまり、現代の昆虫の体には酸素を取り込む能力に広大な「空きスペース」があり、筋肉の強度を損なうことなく呼吸器を増設できる余裕があることがデータで示されたのだ。
酸素が薄い現代でも巨大昆虫は理論上生存できる
この発見は、古代の巨大昆虫が「高い酸素濃度がないと生きていけなかった」という前提を揺るがすものだ。
昆虫の呼吸器には環境に合わせて数や配置を変える柔軟な性質があるため、たとえ酸素が薄い現代であっても、微気管の数を少し増やすだけで巨大な体に十分な酸素を供給できるはずだと考えられてきた。
研究を率いたロジャー・シーモア教授は、オオトンボ目の巨大種ほどのサイズであっても、現代の大気中で飛べない生理学的な理由は見当たらないと指摘している。
これまで酸素濃度という「壁」のせいで巨大化できないと思われていたが、実は呼吸システムそのものに限界はなかったのかもしれない。
巨大化は生態学的要因の可能性
では、なぜ3億年前の昆虫は巨大になり、今の昆虫は小型化しているのだろうか?
研究チームは、酸素濃度よりも「生態系の環境」に本当の理由があるのではないかとみている。
巨大昆虫が繁栄していた石炭紀の地球には、空を飛ぶ鳥や哺乳類といった恐ろしい天敵がまだ存在していなかった。
大きな体は目立ちやすく動きも鈍くなるため、天敵が現れた現代では、体が小さい方が生き残るために有利だった可能性がある。
古生物がなぜ巨大化したのかという謎は、酸素という化学的な理由から、生き残りをかけた生存競争という新しいストーリーへと塗り替えられるかもしれない。
References: Giant dragonflies once roamed Earth’s skies. New research upends the textbook theory of why they went extinct[https://theconversation.com/giant-dragonflies-once-roamed-earths-skies-new-research-upends-the-textbook-theory-of-why-they-went-extinct-278997] / Nature[https://www.nature.com/articles/s41586-026-10291-3]











