髪の毛数本で自分の体内時計がわかる。朝型・夜型の診断が遺伝子レベルで可能に
Image by Istock <a href="https://www.istockphoto.com/jp/portfolio/fcscafeine?mediatype=photography" target="_blank">fcscafeine</a>

髪の毛数本で自分の体内時計がわかる。朝型・夜型の診断が遺伝子...の画像はこちら >>

髪の毛数本で、自分の体内時計を遺伝子レベルで診断できる新技術が登場した。

 ドイツのシャリテー大学医学部の研究チームが4,000人以上を対象にした研究で、毛根に含まれる17の遺伝子をAIで分析すれば、朝型・夜型といった個人の体内時計のリズムが正確にわかることを実証した。

 自分の「本当のリズム」を知ることで、薬が最も効く時間に治療を受けるなど、新しい健康管理へつながることが期待されている。

 この研究成果は『PNAS(米国科学アカデミー紀要)』誌(2026年3月25日付)に掲載された。

髪の毛の根元にある17の遺伝子が体内時計の正体を明かす

 ドイツのシャリテー大学医学部のアヒム・クラマー教授らの研究チームは、髪の毛の根元にある「毛包(もうほう)」という組織を使って、その人の正確な体内時計を測定することに成功した。

 私たちの体の中には、約24時間周期でリズムを刻む「概日リズム(体内時計)」が存在している。

 これまでは、このリズムを知るために薄暗い部屋で何時間もかけて唾液を採取し、眠気を誘うホルモンであるメラトニンの量を調べる必要があった。

 しかし、クレイマー教授らは毛根の細胞に含まれる17種類の「時計遺伝子(Clock Genes)」の働きに着目した。

 この17の遺伝子は、いわば体内の「分子レベルの歯車」だ。

 研究チームは機械学習(AI)を使い、これらの遺伝子がどの時間帯に活発になるかのパターンを分析した。

 その結果、たった数本の髪の毛を調べるだけで、その人が今、自分自身の体内リズムのどの地点にいるのかを、従来の検査とほぼ同じ精度で特定できるようになったのだ。

[画像を見る]

仕事や生活習慣が体内時計を物理的に作り変えている

 研究チームが約4,000人の髪の毛を分析したところ、体内時計は生まれつきの遺伝だけでなく、日々のライフスタイルによって大きく変化していることが分かった。

 最も研究チームを驚かせた発見は、働いている人は働いていない人に比べて、体内時計が約30分も早まっていたことだ。

 これは、出勤時間という社会的なスケジュールに合わせて、仕事の時間や通勤といった社会的なスケジュールが、体内時計のリズムを大きく調節していることを意味している。

 体内時計は固定されたものではなく、環境に応じて柔軟に調整されているのだ。

 また、性別によるわずかな違いも判明した。

 女性の体内時計は、男性よりも平均して約6分早く「生物学的な夜」の始まりを告げる。

 さらに、年齢による変化も顕著で、20代半ばの若者は50代以上の人に比べて、活動のピークが約1時間も後ろにずれていることが生物学的な測定によって証明された。

[画像を見る]

夜型の人も「社会的時差ぼけ」を解消して健康になれる

 「自分は夜型だ」と思っている人の多くは、実はカフェインや仕事のストレスで無理をしている場合があり、自分の細胞が求めている本当のリズムを把握できていないことが多い。

 自分の体内時計と社会生活の時間がズレる現象は「社会的時差ぼけ」と呼ばれ、心身に大きな負担をかける。

 今回の髪の毛を使った検査は、アンケートのような主観的な判断ではなく、細胞レベルの「真の時刻」を客観的に示してくれる。

 例えば、夜型の人が無理に早起きを続けて体調を崩している場合、この検査で自分のリズムを可視化すれば、適切な時間に光を浴びる「光療法」などを用いて、社会生活と体のリズムを上手に合わせるための具体的な対策が立てられるようになる。

 これは、本人が「気合」で解決しようとするのではなく、科学的なデータに基づいて生活を整える大きな助けとなる。

[画像を見る]

個人に合わせた最も効果的に薬が効く時間帯を探る

 この技術の究極のゴールは、一人ひとりの体内時計に合わせて医療を行う「概日(がいじつ)医学」の普及にある。

 私たちの免疫システムや代謝のリズムは24時間の中で変動しているため、薬を飲むタイミングによってその効果や副作用の強さが変わる。

 例えば、がんの免疫療法や血圧の薬などは、その人の体内時計が「最も効果を受け入れやすい状態」にある時間に投与することで、治療の成功率を劇的に高められる可能性がある。

 クレイマー教授は、この検査を病院の日常的な検査として普及させるために標準化を進めている。

 将来的には睡眠の個別カウンセリングから、個人の体内時計に合わせた治療計画まで、幅広い医療現場での活用が期待されている。

References: Test Maps Circadian Rhythm Via Hair Sample[https://neurosciencenews.com/hair-root-chronotype-clock-genetics-30437/] / HairTime: A noninvasive assay for estimating circadian phase from a single hair sample[https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2514928123]

編集部おすすめ