食べ物をカモメから守るには、パッケージに「目玉」を描くのが有効かもしれない。
イギリスの研究チームは、セグロカモメが視線を感じると警戒する習性を利用し、目玉のある箱には近づきにくくなることを実験で明らかにした。
この手軽なアイデアが、食べ物の盗難を最大50%減らす可能性があるという。
この研究成果は学術誌『Ecology and Evolution[https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ece3.73202]』(2026年3月8日付)に掲載された。
ヨーロッパでカモメに食べ物を盗まれるのは日常茶飯事
イギリスをはじめとするヨーロッパの沿岸部では、セグロカモメが人々の食べ物を奪うトラブルが多発している。
日本でも川沿い、海沿いでトンビに食べ物をさらわれた経験がある人がいるかもしれないが、イギリスのカモメ事情はそれ以上に深刻だ。
イギリス・エクセター大学のローラ・ケリー博士とニールチェ・ボーガート博士らの研究チームは、こうしたカモメを傷つけることなく遠ざける方法を探るなかで、多くの動物が持つある本能に着目した。
それは「視線を感じると警戒する」という性質だ。
研究チームはこの性質を利用し、食品の持ち帰り用ボックスに「1対の目玉」を貼り付けて、カモメがどう反応するかを観察する実験を行った。
動物が視線を恐れる理由と自然界の「目玉模様」
野生の動物にとって、じっと見つめてくる目は捕食者の存在を意味する。
見つめられることは攻撃の予兆であり、視線をそらすことは脅威がないことを示す。
この反応は本能的なもので、天敵に素早く気づいて逃げるために進化してきたと考えられている。
こうした性質を利用したのが、自然界に見られる「眼状紋(がんじょうもん)」だ。
昆虫・両生類・魚など多くの生き物の体に見られる目のような模様で、捕食者の目と見間違えさせることで敵を警戒させる効果があるとされている。
ただし、眼状紋がどのように捕食者を抑止するかについては、科学者のあいだで100年以上にわたって議論が続いている。
攻撃そのものを思いとどまらせるのか、それとも体の重要でない部分に攻撃を引きつけるのか、まだ完全には解明されていないが、効果があることは事実だ。
こうした自然界のしくみにヒントを得て、研究チームは「偽の目玉」で動物を遠ざけられるかどうかを実際に検証することにした。
カモメでも実証。目玉模様が盗難や襲撃を防いだ
研究チームがまず参考にしたのが、アフリカ南部のボツワナで行われた実験だ。
放牧中の牛がライオンやヒョウに襲われる被害が深刻だったため、研究者たちは牛のお尻に「目玉の模様」「十字の模様」を描いたグループと、何も描かないグループに分けて比較した。
実験中にライオンやヒョウに殺された牛は19頭にのぼったが、お尻に目玉模様を描いた牛は1頭も被害に遭わなかった。
目玉模様が、大型肉食動物に対しても有効な抑止力になることが示されたのだ。
この結果を踏まえ、ケリー博士らはカモメへの応用を試みた。
実験の舞台は、実際に被害が多発しているイギリス南西部・デヴォン州とコーンウォール州の沿岸の町だ。
テイクアウト用ボックスに目玉のシールを貼ったものと、何も貼っていない無地のものを2メートル離して地面に置き、カモメがどちらを選ぶかを観察した。
結果は明確だった。
カモメは目玉のある箱に対して明らかな警戒を見せ、無地の箱と比べて近づくスピードが遅く、箱をつつく確率も低かった。
視線を感じたカモメが、本能的に慎重な行動をとったのだと研究チームは説明している。
さらに研究チームは、カモメが偽の目玉に慣れてしまうかどうかを調べるため、30羽のカモメに目玉ありまたはなしの箱を短時間のうちに3回ずつ提示する追加実験を行った。
その結果、約半数のカモメは繰り返し提示されても目玉の箱を避け続けた。
一方、慣れて箱をつつくようになった個体も半数いたが、全体として見れば食べ物の盗難を最大50%減らせる可能性が示された。
人間も動物同様、視線で行動が変わる。ただし一様ではない
視線を意識すると行動が変わるのは、動物だけではない。人間も同じだ。
街なかに人の目の写真を掲示するだけで、自転車の盗難が減ったり、慈善募金への寄付が増えたり、正直な行動が促されたりすることが、これまでの複数の研究で明らかになっている。
社会的な生き物である人間は、誰かに見られているという感覚だけで、自分の行動を自制する傾向があるのだ。
ただし、カモメと同様に、人間に対しても効果は一様ではない。すべての人に、すべての場面で通用するわけではない。
目玉作戦はすでに実用化、今後はカモメ対策にも
眼状紋を使った鳥の忌避策、つまり鳥が嫌って近づかないようにする対策は、すでに実用化されている場面もある。
ムクドリを農作物から遠ざけたり、漁網への海鳥の接触を防いだり、空港での猛禽類の対策に活用された事例がある。
ケリー博士らは今後、実際の飲食店と連携して目玉入りパッケージの実用化を目指す計画だ。
大声で追い払うといった別の手段と組み合わせることで、効果がさらに高まる可能性があるという。
「なぜ一部の動物や人間は視線を怖がらないのか」という謎はまだ残るが、偽の目玉が安価でシンプルな解決策になりうることは、すでに十分な証拠が示している。
References: Why drawing eyes on food packaging could stop seagulls stealing your chips[https://theconversation.com/why-drawing-eyes-on-food-packaging-could-stop-seagulls-stealing-your-chips-278269]











