巨大ガス惑星TOI-5205bは、自身の4倍しかない恒星を公転する、理論上存在しないはずの『禁断の惑星』として知られているが、さらにこれまでの惑星形成理論では説明できない異常が発見された。
惑星の大気は通常、公転する恒星より重い元素が多いはずなのに、TOI-5205bはその恒星よりも重い元素が少ない大気を持つことが新たに判明したのだ。
NASAを中心とする国際研究チームがジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測した結果で、巨大惑星の形成理論はさらなる謎に直面している。
この研究成果は「The Astronomical Journal[https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-3881/ae4976]」(2026年4月付)に掲載された。
TOI-5205bはなぜ「禁断の惑星」と呼ばれているのか
地球から約283光年離れた宇宙に、現在の惑星形成理論では存在できないはずの惑星がある。
TOI-5205bと呼ばれるこの巨大ガス惑星は木星とほぼ同じ大きさを持つが、公転している恒星TOI-5205[https://exoplanetarchive.ipac.caltech.edu/overview/TOI-5205#planet_TOI-5205-b_collapsible]は木星の約4倍の大きさしかない非常に小さな赤色矮星だ。
赤色矮星とは、太陽より小さく温度が低い赤みがかった恒星で、銀河系の恒星の約4分の3を占める最もありふれた種類の星だ。
太陽系の恒星、太陽は木星の約10倍の大きさがある。ところが恒星TOI-5205はわずか木星の約4倍しかない。
TOI-5205は太陽よりはるかに小さく、その周りを木星サイズの巨大ガス惑星が公転しているのだ。
大きさのイメージをつかむなら、太陽系における木星と太陽の関係はグレープフルーツの周りをエンドウ豆が回るようなものだ。
それに対してTOI-5205bとTOI-5205の関係は、レモンの周りをエンドウ豆が回るようなものになる。恒星と惑星の大きさの差がそれほど小さいのだ。
惑星は若い恒星の周りに広がるガスと塵の円盤から生まれる。
木星のような巨大ガス惑星が誕生するには、まず地球の約10倍の質量に相当する岩石が円盤の中に集まって巨大な核を作り、そこに大量のガスを取り込む必要がある。
材料が少なすぎても、途中で円盤が消えてしまっても、巨大ガス惑星は完成しない。TOI-5205のような小さな赤色矮星では、そもそも惑星の材料となる円盤の量が少なすぎると考えられてきた。
カーネギー科学研究所のシュバム・カノディア氏は惑星発見時にこう語っている。
最初に円盤の中に十分な岩石物質がなければ巨大惑星は形成できない
円盤が消えてしまう前に巨大な核が形成されなければ、やはり巨大惑星は形成できない
それにもかかわらずTOI-5205bは形成された。現在の惑星形成理論の常識に基づけば、この惑星は存在してはならない。だからこそ禁断の惑星なのだ(カノディア氏)
ウェッブ望遠鏡が禁断の惑星の大気を観測
TOI-5205bの存在が確認されたのは2023年のことだ。
NASAのトランジット系外惑星探索衛星TESSが最初にこの惑星の候補を発見し、カノディア氏のチームが地上の望遠鏡を使って惑星であることを確認した。
トランジットとは惑星が恒星の手前を横切る現象で、このとき恒星の光がわずかに暗くなる。
TOI-5205bは恒星の手前を通過するたびに光の約6%を遮るため、系外惑星の中でも特に観測しやすい惑星として注目されていた。
その後、NASAゴダード宇宙飛行センターのカレブ・カニャス氏とカノディア氏は、タンパ大学のジェシカ・リビー=ロバーツ氏とともに、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使った大規模な系外惑星観測プログラム「Red Dwarfs and the Seven Giants」を立ち上げた。
このプログラムはTOI-5205bのような赤色矮星の周りを公転する巨大ガス惑星をGEMS(赤色矮星周囲の巨大系外惑星)と総称し、巨大ガス惑星がなぜ小さな恒星の周りで形成できるのかという謎の解明を目的としている。
天文学者たちは分光器という装置を使ってトランジットを観測した。
分光器は光をプリズムのように波長ごとに分解する装置で、惑星が恒星の手前を通過するとき、惑星の大気を通り抜けた光の色の変化を調べることで大気の成分を特定できる。
チームはこの方法でTOI-5205bのトランジットを3回観測し、大気の組成を初めて詳しく調べることに成功した。
主星より金属量が低い、前例のない大気の異常
3回の観測から得られた結果は、天文学者たちの予想を大きく裏切るものだった。
TOI-5205bの大気には、水素に対する重い元素の割合が太陽系の木星と比べて著しく低かったのだ。
天文学では水素とヘリウム以外のすべての元素を「金属」と呼び、その含有量を「金属量」という指標で表す。
惑星は恒星を取り巻く円盤の材料から生まれるため、惑星の大気は公転している恒星よりも金属量が高くなるのが宇宙の常識だ。
木星も太陽より金属量が高く、これが「普通」の姿だ。
ところがTOI-5205bは、公転している恒星TOI-5205よりも金属量が低かった。
これまでに研究されたすべての巨大惑星の中で、このような特徴を持つものは一つも見つかっていない。
さらに観測では、TOI-5205bの大気中にメタンと硫化水素が検出された。
メタンは天然ガスの主成分として知られる気体で、硫化水素は温泉の独特な臭いの原因となる気体だ。
巨大ガス惑星の大気にはさまざまなガスが含まれることが多く、これらの気体が検出されること自体は想定の範囲内だった。
しかし金属量の異常な低さと合わせて考えると、TOI-5205bの大気は炭素が非常に豊富で酸素が少ない特異な組成を持つことが示唆された。
観測データの解析にあたっては、恒星TOI-5205の表面に多数存在する恒星黒点が大きな障害となった。
恒星黒点とは恒星表面の温度が周囲より低く暗く見える領域で、太陽の黒点と同じ現象だ。
TOI-5205は黒点が非常に多く、観測データの一部の波長を明るくしたり、大気のシグナルを隠してしまう可能性があった。チームはこの影響を丁寧に補正する作業を行い、データの信頼性を確保した。
惑星の内部と大気が混合していない可能性が浮上
大気の金属量が異常に低い一方で、惑星全体の組成はどうなっているのか。
チューリッヒ大学のシモン・ミュラー氏とラビット・ヘレッド氏は高度な惑星内部モデルを使って計算した結果、TOI-5205b全体の組成は大気よりも約100倍金属量が豊富であると予測した。
重い元素は惑星の内部に集中していて、大気にはほとんど存在していないのだ。
カノディア氏はこう説明する。
惑星の質量と半径の測定値から計算した惑星全体の組成に対して、私たちのモデルが予測した値よりもはるかに低い金属量が大気で観測されました
これは重い元素が形成時に惑星の内部へと移動し、現在は内部と大気が混合していないことを示唆しています
この惑星の大気は炭素が非常に豊富で酸素が少ない組成を持っています(カノディア氏)
惑星が形成された当初、重い元素は惑星全体に広がっていたと考えられる。
それがなぜ内部に沈み込み、大気と混じり合わなくなったのかはまだ解明されていない。
この発見は巨大ガス惑星の内部構造と大気の関係についての理解を根本から問い直すものであり、惑星科学全体に新たな謎を突きつけている。
現在チームは同じ惑星系を対象にした新たなジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測プロジェクトを進めており、恒星黒点の影響を補正する手法の検証も続けている。
TOI-5205bは存在するだけで理論の常識を破る惑星だったが、その大気までもが前例のない特徴を持っていた。
赤色矮星の周りにはまだ私たちの知らない惑星が潜んでいる可能性があり、GEMSプログラムの観測が進むにつれて、惑星形成の理論はさらに書き換えられていくかもしれない。
References: GEMS JWST: Transmission Spectroscopy of TOI-5205b Reveals Significant Stellar Contamination and a Metal-poor Atmosphere[https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-3881/ae4976] / How did this get made? Giant planet orbits small star[https://www.eurekalert.org/news-releases/1122699]











