ご近所さんの顔も知らない、どんな人が住んでいるのかわからない。賃貸物件や集合住宅なら、今は珍しくもない話かもしれない。
特に忙しい都会の生活では、近所付き合いをしている暇もないし、隣に住んでいるからって仲良くしないといけないわけでもない。
だが、「お隣さん」が生きている人間じゃないとしたら、やっぱりちょっと気にしないわけにはいかないんじゃなかろうか。
実は中国各地の集合住宅で、居住するのではなく遺骨を安置してお墓代わりに使う人が続出し、社会問題となっているというのである。
マンションの一室が納骨堂に
江蘇省南通市のある集合住宅に住む趙さんは、向かいの部屋の住人の姿を全く見たことがなかった。それどころか、生活している気配すら感じなかった。
ある日のこと、自宅で休んでいた趙さんは向かいの部屋から物音が聞こえてくるのに気づいた。興味を覚えた趙さんは、玄関の覗き穴から外を確認してみた。
廊下には7~8人ほどの人がいて、向かいの部屋のドアが開けられていた。趙さんは外出するふりをして外に出て、ドアの隙間から室内をのぞいてみた。
するとそこにはロウソク立てが2つ置かれ、その間には黒い箱が安置されていて、人々が頭を下げていた。一番奥には遺影らしきものが見えたという。
そう、向かいの部屋は生きている人間が暮らすためではなく、遺灰の入った骨壺を安置するために使われていた。中国ではこんな部屋を「骨灰房」と呼ぶ。
また、山東省青島に引っ越してきた李さんは、家賃が周辺相場の半額に近い格安の物件を見つけ、掘り出し物だ!と喜んで入居した。
彼は骨灰房という言葉すら知らなかったが、向かいにある3軒の家の窓がレンガとセメントで塞がれていたことに不信を抱いた。
さらに警備員の「よくこんな不気味な家に引っ越して来たね」という言葉に、何かがおかしいと思って調べた結果、向かいの家が骨灰房だと知ることに。
この地域の風習で、納骨堂には光を入れてはいけないことになっているため、窓をレンガで塞いでいたのだという。
正直に言うと、かなり不気味でした(李さん)
異常に安い家賃には、やはりそれなりの理由があったのだ。李さんは2日間そこに住んだだけで、結局すぐに退去することになった。
また、天津でエアコン設置業をしている王さんは、依頼を受けて部屋に入った際、リビングの机に骨壺と供え物が置かれ、白い花が飾られている光景を目にした。
驚いて一度は断ろうと思ったが、依頼主が報酬の上乗せを申し出たため、覚悟して作業を終えたという。
墓を買うより家を買った方がお得?
実は中国では今、集合住宅の一室に遺骨を安置するこの「骨灰房」が広がり、社会問題となっているそうだ。
その背景にあるのは、都市部における墓地不足と価格の高騰だ。地域によっては墓地の価格が住宅を上回る水準に達しているという。
さらに墓地の使用権が20年程度に限られるケースも多く、その期限が来た後は管理費の支払いが必要になるため、一度買うと長期的な負担がばかにならない。
一方で居住を前提とした住宅は、最長で70年の権利が認められ、売却や相続も可能である。
こうした理由で、一部の人々は遺骨を納めるために、墓ではなく家を買うようになった。中には複数の骨壺を並べ、一族の墓地として使われる部屋もあるという。
骨灰房はひとつの建物の中に複数存在することもあり、フロア単位で集中する例も報告されている。
中には「生きている住人よりも遺骨の方が多いのでは?」とささやかれる集合住宅もあるらしい。
不動産関係者によると、マンションの新規分譲時には、最初から骨灰房にする目的で購入する人が一定数いるという。
地域によって習慣は異なるが、風水師に相談して場所を決めるケースも多く、その結果、特定のマンションに骨灰房が集中することもあるそうだ。
風水とは土地の形や水の流れ、方角などから「気」の流れを読み取って、そこに住む人や子孫にどのような影響が及ぶかを考える中国伝統の思想である。
今も中国ではこの伝統が生きていて、引っ越しや新築、そして埋葬の際、風水を考慮することが多い。
特に墓の場所は子孫の運気に影響すると考えられており、地形や向きが重視される。そのため、墓地選びには専門家である風水師が関わることが少なくない。
この考え方が骨灰房にも持ち込まれ、「どのマンションのどの部屋が良いか」「骨壺をどこに配置するか」を風水で決める人も多いのだ。
河北省滄州市の劉さんは、これから骨灰房を買おうか迷っている。彼は風水師に相談し、どのマンションのどの階が良いかまでアドバイスされた。
さらに玄関に貼るお札の色や、古い鉄の扉への交換、鍵穴を紙で覆うといった細かな指示も受けたという。
ただし、劉さんはそこまでやったらば同じフロアの住民に気づかれ、トラブルになるのではないかと考えて、購入を迷っているそうだ。
近隣住民にとっては墓の隣に住むのと同じ
遺族の側に立ってみれば、骨灰房はある意味現実的な選択ではある。自己所有の住宅なら長期間遺骨を安置できる上、自由に墓参りができるからだ。
愛する家族の遺骨を安心して祀れる場所があり、いつでも好きな時に訪れることができるなら、心理的にも心穏やかに故人を偲べるだろう。
しかし当然ながら、骨灰房の近隣で暮らす住民にとっては迷惑な話である。隣の家には生きている住民は住んでおらず、ただ遺骨が置かれているだけ。
これでは墓の隣に住んでいるのと変わらない。となれば、心理的な抵抗を感じるのはもちろん、線香やロウソクによる火災のリスクを心配する声も上がってくる。
実際にこうした部屋の存在をめぐって、住民同士のトラブルに発展した例も報告されているそうだ。
そのため購入者の多くは、目的を明かさずに契約する。売る側の不動産業者もいちいち用途を問わないため、外からは通常の空き部屋と区別がつかない。
長期間電気もつかず、生活している気配がなく、特定の時期だけ人の出入りがあることで初めて気づかれるケースも少なくない。
さらに先祖供養の時期になると、線香を焚いたり読経をしたりと、いやでも周囲の住人の目についてしまう。
こうした状況を受け、政府による制度面での対応が進められた。2026年3月30日に、改正された「葬儀および埋葬の管理に関する規定[https://cpc.people.com.cn/n1/2026/0108/c64387-40641367.html]」が施行されたのだ。
この規定によると、住宅を遺骨の安置専用の場所として使用することが明確に禁止され、これまで曖昧だった線引きがはっきりと示された。
とは言え、この規定もどこまで効果があるかはわからない。この措置は、中国本土のSNS上で議論を呼び、意見は大きく分かれている。
- でも骨壺を家の中に安置していたってわからないでしょ。問題は墓地代が高すぎることであって、これじゃ対症療法でしかないよ
- 皮肉だね。生きている人は家を買えず、死んだ人は墓に入れない
- 人は土に還るべき。
宙に浮いていたら、魂は安らかに眠れない。土の中に埋葬するのが難しいなら、海に散骨する選択肢もある
死んだ後まで住まいの心配をしなくてはならない状況は、当分の間変わることはなさそうだ。
References: Chinese buy flats for cremated ashes due to high cemetery costs, leading to law against practice[https://www.scmp.com/news/people-culture/trending-china/article/3348673/chinese-buy-flats-cremated-ashes-due-high-cemetery-costs-leading-law-against-practice]











