約6600万年前のティラノサウルスの化石に残されたタンパク質の一種、コラーゲンをもとに開発した革で作られた世界初のハンドバッグが、2026年4月2日、オランダのアムステルダムで正式にお披露目された。
2025年にカラパイアでもお伝えした恐竜由来の人工皮革「Tレックスレザー(T-Rex Leather)」が、ついに実際の製品として形になったものだ。
美しい風合いの青緑色のバッグは、博物館にある実物大のティラノサウルス・レックスの骨格複製の隣のガラスケースに展示され、存在感を放っている。
ティラノサウルスの骨格の隣に置かれた世界初のバッグ
2026年4月2日、アムステルダムの体験型アートミュージアム「Art Zoo Museum[https://www.artzoo.com/en/home]」に、実物大のティラノサウルス・レックスの骨格複製が運び込まれた。
オランダのライデン市にある世界有数の自然史研究機関、Naturalis Biodiversity Centerから提供されたものだ。
その骨格の隣のガラスケースに静かに収められたのが、深い青緑色のバッグだ。
一見すると普通のシックな革のバッグだが、その素材は約6600万年前に絶滅したティラノサウルス・レックス(Tレックス)の化石から生み出されたものだ。
カラパイアでは2025年4月30日、「Tレックスレザー」という革素材が開発されたことを伝えたが、あのときはまだ素材の発表段階だった。
だが、今回ついにその革を使った実際の製品が世界で初めて公開されたのだ。
バッグを制作したのは、ポーランド発のファッションブランド、アンファン・ルヴェ(Enfin Levé)のデザイナー、ミハル・ハダス氏である。
素材の特性を活かしながら技術的な精度を追求し、この前代未聞の革素材をファッションアイテムへと仕上げた。
展示は6週間にわたって行われ、期間終了後はオークションにかけられる予定だ。
化石のタンパク質をAIで補完し細胞を培養する仕組み
そもそもなぜ恐竜の革を作ろうとしたのか。
このプロジェクトを手がけたのは、クリエイティブエージェンシーのVML[https://www.vml.com/news/worlds-first-t-rex-leather-product-unveiled-a-luxury-handbag-designed-by-enfin-leve]、ゲノム工学企業のThe Organoid Company、培養皮革開発企業のLab-Grown Leather Ltdの3社だ。
動物を傷つけず、環境にも負荷をかけない次世代の革素材を生み出すことを目指し、そのシンボルとして選ばれたのが、地球上でもっとも有名な絶滅動物のひとつ、ティラノサウルス・レックスだった。
製造の出発点となったのは、約6600万年前のティラノサウルスの化石の中に奇跡的に保存されていたコラーゲンのタンパク質断片だ。
コラーゲンとは皮膚・骨・腱などを構成するタンパク質の一種で、革の強さと柔軟性を生み出す主成分でもある。化石の中にこれほど古いタンパク質が残っていること自体、非常にまれなことだ。
ただし断片はあくまで断片に過ぎない。恐竜のDNAそのものは長い年月の中で完全に失われており、現時点の科学では復元できない。
そこで研究チームはAIによるモデリングを活用し、失われた遺伝情報を補完することでコラーゲンの遺伝子設計図を再構築し、合成DNAを作製した。
次に、この合成DNAをキャリアとなる細胞に組み込んだ。
そしてLab-Grown Leather Ltdが独自開発した培養システム「先進的組織工学プラットフォーム(ATEP / Advanced Tissue Engineering Platform)」を使って細胞を育てていくと、細胞自身がコラーゲンを含む皮膚組織に似た構造を自ら形成していく。
組織工学とは、生きた細胞を使って生体組織を人工的に作り出す技術分野で、医療の世界では人工皮膚や軟骨の製造にも応用されている。
この培養で用いられたのが「スキャフォールドフリー(scaffold-free)」という手法だ。
通常の人工組織の培養では、細胞を固定するための「足場(スキャフォールド)」と呼ばれる支持材料が必要になる。
しかしこの手法では足場を使わず、細胞同士が自然に結合することで組織を形成していく。
まるで生き物の体の中で皮膚が育つのと同じ原理だ。こうして得られた素材は、動物の革と構造的にほぼ同一になるという。
動物も化学薬品も不要、ただし科学的な議論も残る
従来の革の製造では、牛・豚・ワニといった動物の命が必要になる。さらになめし加工と呼ばれる工程では大量の化学薬品が使われ、森林破壊や水質汚染といった環境問題とも深く結びついている。
Tレックスレザーはこうした問題を根本から回避できる素材だ。
動物を使わず、なめし加工も不要で、生産過程は完全に追跡可能。さらに使用後は微生物などによって自然に分解される生分解性も備えている。
一方で、この素材に懐疑的な意見を持つ科学者がいることも事実だ。
一部の研究者は「化石から得られたタンパク質断片はあまりにも不完全であり、それをもとに作られた素材がティラノサウルス本来の生物学的特性を正確に再現しているとは言えない」と指摘している。
また「そもそも革とは動物の皮膚から作られるものであり、骨から得たコラーゲンをもとに作った素材を”革”と呼ぶことには疑問がある」という意見もある。
開発チーム自身も、恐竜のDNAを完全に復元したとは主張していない。
あくまで「恐竜由来のタンパク質構造にヒントを得て、バイオテクノロジーで作り上げた新素材」という位置づけだ。
科学的な評価はまだ進行中であり、議論の余地を残した素材であることは正直に受け止めておく必要がある。
ファッションから自動車まで広がる応用の可能性
VMLのグローバル最高クリエイティブ責任者、バス・コーステン氏はこのプロジェクトについて「過去の生物学を活用して、未来の高級素材を創り出している」と語っている。
Tレックスレザーバッグの展示は6週間にわたって行われ、期間終了後はオークションにかけられる予定だ。
落札予想価格は57万5000ユーロ(日本円で約9400万円)にのぼるとされている。
現時点ではこのバッグ1点のみだが、開発チームは今後ほかのブランドへの素材提供を視野に入れており、商業用の量産も計画している。
将来的にはファッション分野にとどまらず、自動車の内装材やハイパフォーマンス素材としての応用も計画されているという。
白亜紀末期に地球上から姿を消した巨大な肉食恐竜が、化石の中に残したわずかなタンパク質の痕跡が、バイオテクノロジーと出会うことで現在に蘇った。
科学的な議論はまだ続いているが、太古の昔に絶滅してしまった生物たちの肌の感触を楽しむ未来が到来しそうだ。
References: World’s first T-Rex leather product unveiled - a luxury handbag designed by Enfin Levé[https://www.vml.com/news/worlds-first-t-rex-leather-product-unveiled-a-luxury-handbag-designed-by-enfin-leve] / World’s first dinosaur leather handbag created using synthesized T-Rex DNA[https://interestingengineering.com/photo-story/world-first-dinosaur-leather-handbag-dna#slide-4] / World's first dinosaur handbag crafted from 'T. rex leather' is officially here to serve bite[https://community.designtaxi.com/topic/26336-worlds-first-dinosaur-handbag-crafted-from-t-rex-leather-is-officially-here-to-serve-bite/]











