大量絶滅を生き延びた。2億5200万年前の哺乳類の祖先の卵の化石を史上初確認
卵の殻の中に復元されたリストロサウルスの胚のイメージ図 Image credit:Pictures – Professor Julien Benoit Drawing – Sophie Vrard

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 かつて哺乳類の祖先は卵を産んでいた。2億5200万年前に生きた哺乳類の祖先の卵の化石が史上初めて確認され、私たちの遠い先祖が卵生だったことが証明された。

 南アフリカとフランスの国際研究チームが最新のX線技術で分析したところ、その卵を産んだのは、哺乳類の祖先にあたる草食動物リストロサウルスであることがわかったのだ。

 大型の卵を産み、生まれた直後から自力で生きられる子を育てるという繁殖戦略で、史上最大と言われるペルム紀末の大量絶滅を生き延びたことが示された。

 この研究成果は『PLOS ONE[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0345016]』誌(2026年4月9日)に掲載された。

地球史上最大規模のペルム紀末大量絶滅を生き延びた動物

 今から約2億5200万年前、地球は史上最大の危機「ペルム紀末大量絶滅」が起きていた。

 このイベントで、海の生き物の約96%を含む全生物種の90~95%が姿を消した。

 原因はシベリア付近での大規模な火山活動による急激な地球温暖化と酸素不足だったと考えられており、地球がこれほど多くの命を一度に失ったことは後にも先にもない。

 その過酷な環境の中で、数少ない生き残りの一種として命をつないだ動物がいた。草食動物のリストロサウルス(Lystrosaurus)だ。

 体長は約90~120cmとイノシシほどの大きさで、ずんぐりとした樽型の体型を持ち、カバに似た顔つきが特徴だ。

 リストロサウルスは、同じ時代に生きていた爬虫類や両生類とは異なり、私たち哺乳類の遠い祖先にあたる単弓類の仲間で、正確には単弓綱・獣弓目・ディキノドン下目に分類され、現代の哺乳類へとつながる進化の系譜上に位置している。

 なお恐竜が地球に登場するのはこの大量絶滅よりも後のことで、ペルム紀末にはまだ存在していなかった。

 大量絶滅の中でリストロサウルスが数少ない生き残りの一種となれた理由は何だったのか。

 その答えを握る化石が、南アフリカの大地に眠っていた。

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発見された動物の胚の化石は卵の中にいたのか?孵化後か?

 2008年、南アフリカのウィットウォーターズランド大学のジェニファー・ボサ教授率いる研究チームは、南アフリカのカルー盆地でひとつの野外調査を行った。

 カルー盆地はアフリカ南部に広がる広大な半乾燥地帯で、古生代から中生代にかけての地層が地表近くに露出しており、世界屈指の化石産地として知られている。

 研究チームの一員である、標本技師のジョン・ニャフリ氏は、ほんのわずかな骨片の痕跡しか見えない小さなノジュール(堆積岩の中で周囲とは異なる成分が固まった塊状の岩石)を見つけ出した。

 丁寧に岩を削り取っていくと、中から完璧に丸まった小さな動物の胚が姿を現した。

 この約2億5200万年前の動物は卵の中で死んだのか、それとも孵化した後に死んだのか。

 保存された卵殻が見当たらない以上、当時の技術でこの謎を解くことはできなかった。

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動物の胚は卵の中にあった。最新のX線分析で明らかに

 この謎を現代の最先端技術がついに解き明かした。

 フランス・グルノーブルにある欧州シンクロトロン放射光施設のヴァンサン・フェルナンデス博士と、ウィットウォーターズランド大学のジュリアン・ブノワ教授が、シンクロトロンX線CTという技術でこの化石を分析した。

 シンクロトロンX線CTとは、粒子を光速近くまで加速させて生み出す極めて強力なX線を使った超高精細の3次元スキャン技術だ。

 医療用CTをはるかに上回る解像度を持ち、化石を一切傷つけることなく内部の微細な構造まで観察できる。

 スキャンの結果、下顎の「オトガイ結合部」が未融合だったことが判明した。

 オトガイ結合部とは、下顎の左右の骨が正面中央で合わさる接合部分のことで、この部分が融合して初めて動物は口を使って食物を噛み砕くことができる。

 融合していないということは、この個体はまだ自力で食事できる段階に達していなかったことを意味する。

 さらに詳細な分析により、個々の骨を立体的に分離して特定することにも成功し、胚がまだ孵化できる段階に達していなかったことが確認された。

 2008年から続いた謎は、ついに決着した。

 この動物の胚は卵の中で死んでいたのだ。

 南アフリカの古生物学が150年以上続いてきた中で、哺乳類の祖先にあたる獣弓類の卵が確認されたのは、これが史上初めてのことだった。

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卵生という戦略が絶滅を乗り越えた

 この発見が明らかにしたのは、卵の存在だけではなかった。

 リストロサウルスの繁殖戦略そのものが、過酷な絶滅後の環境を生き延びるための精巧な仕組みになっていた可能性が高いのだ。

 リストロサウルスは体の大きさに対して比較的大型の卵を産んでいた。

 大きな卵にはそれだけ多くの卵黄が含まれており、孵化するまでの間に胚が必要とする栄養をすべて卵の中で賄うことができる。

 リストロサウルスは、孵化した後に親からミルクをもらわなくても、卵の中だけで十分に成長できたと考えられる。

 さらに大型の卵には、もうひとつの重要な利点があった。

 水分を保持する力が高いため、乾燥に強いのだ。

 ペルム紀末大量絶滅の後の地球は、激しい高温と長期にわたる干ばつに見舞われていた。

 大きな卵ほど水分を逃がしにくく、干ばつが続く過酷な環境でも胚を守ることができたのだ。

 また、卵の殻は硬い殻ではなく、軟らかい殻だったと考えられている。

 軟らかい殻の卵は化石になりにくいため、これまで発見されてこなかった理由もここにある。

 そして孵化した幼体は「早成性」だったと考えられている。

 早成性とは、生まれた直後から目が見え、自力で動き回り、自分でエサを食べられる状態で生まれてくることだ。

 ニワトリのヒナがその代表例で、親の保護をほとんど必要としない。

 リストロサウルスの幼体も同様に、孵化直後から捕食者を避け、自力でエサを探し、素早く成長して繁殖できたと考えられる。

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絶滅後の地球を支配した唯一の動物

 親の手を借りずに育つ子、乾燥に耐える大型の卵、軟らかくて作りやすい殻。これらの生存戦略が組み合わさることで、リストロサウルスは個体数を素早く回復させていった。

 競合する草食動物も大型の捕食者もほとんどいない三畳紀前期の地球で、リストロサウルスは陸上脊椎動物の実に90%以上を占めるほどの存在となった。

 地球の歴史上、単一の属がこれほどまでに陸上動物を独占したのは、後にも先にもこの時代だけだ。

 この発見は古生物学の枠を超え、現代の環境問題にも深く関わるものだとブノワ教授は語る。

過去の生物がいかに地球規模の激変を乗り越えたかを理解することは、現在の種が進行中の環境ストレスにどのように応答するかを科学者が予測するうえで役立ちます。

この発見は古生物学の画期的な成果であるだけでなく、現在の生物多様性や気候変動の問題にも深く関わるものです(ブノワ教授)

References: Ancient survivor reveals its secret: First-ever egg of a mammal ancestor discovered[https://www.eurekalert.org/news-releases/1123310]

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