3億年前の世界最古のタコと考えられていた化石が、実はオウムガイの仲間だったことが判明した。
ギネスブックにも掲載された有名な化石を最新技術でスキャンしたところ、岩の中にタコにはないはずの歯が隠されていた。
英国レディング大学の研究チームが化石の内部を調べたところ、死後の腐敗でタコそっくりの姿に変わっていたことがわかったのだ。
この発見により、タコが地球上に現れた時期は、以前に推定された約2億万年に戻った。
この研究成果は『Proceedings of the Royal Society B[https://royalsocietypublishing.org/rspb/article/293/2068/20252369/481251/Synchrotron-data-reveal-nautiloid-characters-in]』(2026年4月8日付)に掲載された。
世界最古のタコの化石は本当にタコなのか?
アメリカ・イリノイ州のマゾン・クリークで見つかったポールセピア・マゾネンシス(Pohlsepia mazonensis)という3億年前の化石は、長い間「世界最古のタコ」だと考えられてきた。
マゾン・クリークはシカゴから南西に約80kmの場所にある世界有数の化石の産地で、約3億1100万~3億600万年前の地層が露出している。
2000年、ジョアンヌ・クルーセンドルフ氏とピーター・ドイル氏がこの化石を分析し、学術誌『Palaeontology』[https://palass.org/publications/palaeontology-journal/archive/43/5/article_pp919-926]に論文を発表した。
化石には8本の腕、2つの目、墨袋と思われる構造が確認でき、タコに共通する特徴が揃っていた。
この発見によりタコの起源はそれまでの定説より約1億5000万年さかのぼる3億年前となり、ギネスブックにも「世界最古のタコ」として掲載された。
しかし当初から、一部の研究者たちはこの分類に疑問を持っていた。
化石は岩の表面に見える形だけで判断されており、内部構造を確認する手段がなかったからだ。
最新のスキャン技術で化石の中の微小な歯を発見
イギリス・レディング大学のトーマス・クレメンツ博士率いる研究チームは、シンクロトロンイメージングという最新技術を使って岩の中に封じ込められた化石を再分析した。
加速器の中で光速に近い速度まで加速された電子が進路を曲げられるとき、強烈な光が生まれる。
この光は病院のX線の数十億~数兆倍も明るく、岩のような密度の高い物体の内部を破壊せずに精細に透視できる技術だ。
調査の結果、化石が封じ込められた岩の中から「歯舌(しぜつ)」と呼ばれる器官と、嘴(くちばし)の構造が見つかった。
歯舌とは軟体動物だけが持つリボン状の摂食器官で、表面に細かい歯の突起が規則正しく並んでおり、食べ物を削り取るように食べるために使われる。
タコの歯舌は1列あたり7個か9個の歯を持つが、この化石の歯舌には11個の歯が並んでいた。数だけでなく形も、タコよりオウムガイ類のものにはるかに近かった。
さらに、タコの証拠とされてきた墨袋とおぼしき構造を調べたところ、墨袋であれば必ず伴うはずの色素成分メラノソームがまったく見つからなかった。
腐敗した死体がタコそっくりの姿を作り出していた
なぜこの化石はタコと間違われるほどタコに似ていたのだろう?
クレメンツ博士はその原因を、死んだ後の腐敗によるものだと説明している。
化石になるまでの数週間、海底の泥の中で腐敗が進んだことで本来の殻が失われ、柔らかい組織が溶けて形が崩れた。
その結果、偶然にもタコの腕や墨袋があるように見える姿に変わってしまったのだ。
さらに研究チームが同じマゾン・クリークで見つかっている他のオウムガイ類の化石と比較したところ、歯舌の形と数がパレオカドムス・ポーリ(Paleocadmus pohli)という既知のオウムガイ類のものと一致した。
ポールセピア・マゾネンシスは独立した種ではなく、パレオカドムス・ポーリの標本だったのだ。
「世界で最も有名なタコの化石は、実はタコではなかったのです。化石になる前に数週間かけて腐敗していたオウムガイの近縁種であり、その腐敗こそがまるでタコのように見せていた原因だったのです」とクレメンツ博士は述べている。
タコが地球に現れたのはジュラ紀だった
この発見でタコの進化の歴史は大きく修正されることになった。
ポールセピア・マゾネンシスがタコの証拠から外れたことで、タコが地球上に初めて現れた時期はジュラ紀、恐竜が全盛期を迎えていた約2億年前まで後退する。
タコとイカなど10本腕の仲間との分岐も、中生代に起きたと考えられるようになった。
一方でこの化石は、オウムガイ類の軟組織が保存された化石としては世界最古であることが確認された。
それまでの記録をおよそ2億2000万年更新する発見だ。
オウムガイは現在も海に生きており、古代からほとんど姿を変えていないことから「生きた化石」とも呼ばれる。
今回の化石は、そのオウムガイの祖先が3億年以上前にすでに存在していたことを示している。
References: ‘Oldest octopus’ fossil is no octopus at all, scans reveal[https://www.eurekalert.org/news-releases/1122545]











