我々の目が今の形になるまでに、想像を超えた進化の旅をたどってきたことが明らかになった。
スウェーデンとイギリスの共同研究によれば、脊椎動物の目は6億年前、顔の両側に2つ、頭のてっぺんに1つ、合計3つの目を持つミミズのような生物に起源があるという。
その生物が顔の2つの目を失い、頭のてっぺんの「1つの目」だけになった後、再び左右2つの目として復活した末に、今の私たちの目ができあがったというのだ。
そして機能を失った「1つの目」の名残は、今も私たちの脳の中に生き続けているという。
この研究成果は『Current Biology[https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(25)01676-8]』誌(2026年2月23日付)に掲載された。
脊椎動物と無脊椎動物の目の成り立ちを調査
私たち人間のほとんどは、毎日当たり前のように目を使っているが、その成り立ちについてじっくり考えたことがある人は少ないだろう。
実は脊椎動物(魚・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類など、背骨を持つ動物)の目は、昆虫や甲殻類、頭足類など、背骨を持たない無脊椎動物の目と、根本的に異なる構造をしている。
脊椎動物の目の網膜(もうまく)は脳から発達するのに対し、昆虫やタコの目は頭部の皮膚側から発達するのだ。
なぜ脊椎動物と無脊椎動物の目は作られ方が違うのか。
その謎を探るべく、スウェーデンのルンド大学とイギリスのサセックス大学の共同研究チームは、両者を含む現生動物36の主要グループを対象に、目と光を感じる細胞の位置と役割を徹底的に調査した。
脊椎動物と無脊椎動物の共通先祖はミミズのような生物
6億年前の海には、顔の両側に2つと頭部中央に1つ、合計3つの光感知器官を持った小さなミミズのような生物がいた6億年前の海には、顔の両側に2つと頭部中央に1つの目の役割を果たす光感知器官を持った小さなミミズのような生物がいた。これが脊椎動物と無脊椎動物の共通祖先だ。
やがてこの共通祖先から2つの系統に分かれた。
活発な生活を続けた系統はそのまま無脊椎動物へと進化し、元々の3か所の光感知器官を今も持ち続けている。
一方、海底に潜り込んで水中を漂うプランクトンをこし取って食べる「ろ過摂食」という生き方を選んだ系統が、脊椎動物の祖先となった。
動き回る必要がなくなったことで、顔の両側の2つの目はエネルギーの無駄となり、進化の過程で失われた。
しかし動かない生活でも昼か夜かを知り、上下の方向を把握することはまだ必要だったため、頭部中央の光感知器官は生き残った。
こうしてこの器官は頭のてっぺんに小さな「1つの目」として発達した。研究チームは一つ目になった祖先を、ギリシャ神話に登場する一つ目の巨人になぞらえて「サイクロプス」と呼んでいる。
これが私たち脊椎動物の目の起源だ。
この結論に至った理由は、研究チームが現生動物36グループを調べた結果、ほとんどの動物で目の役割を果たす光感知器官が顔の両側2か所と頭部中央の1か所に存在することがわかったからだ。
1つの目から左右2つの目が再び生まれた
「1つの目」だけを持つ状態になった脊椎動物の祖先だが、その海底生活は数百万年のうちに終わりを迎えた。
再び活発に泳ぐ生活へと戻ったことで、体の向きを素早く把握し、迫ってくる捕食者を察知するための高性能な目が必要になったのだ。
そこで進化が採った解決策は、頭のてっぺんに残っていた「1つの目」を作り変えることだった。
その両側に「眼杯(がんぱい)」と呼ばれる小さなおわん状の構造が形成され、やがて左右に分かれて頭部両側へと移動し、新たな左右2つの目となった。
これが現在の私たちが持つ顔にある2つの目である。
視覚の喪失と再獲得は6億年前から5億4000万年前の間に起きたと研究チームは結論づけている。
この「一度捨てて作り直した」進化の回り道が、脊椎動物の目が昆虫やタコの目と根本的に異なる理由だったのだ。
ルンド大学の感覚生物学の名誉教授、ダン・エリック・ニルソン氏は、脊椎動物の網膜は脳から発達したが、昆虫やタコの目は頭部の皮膚から生まれた理由がようやく理解できたと語っている。
我々の脳に今も残るかつての目の痕跡
かつて頭のてっぺんにあった「1つの目」は完全に消えたわけではない。
その名残が松果体(しょうかたい)として今も私たちの脳の中に存在している。
松果体は睡眠ホルモンのメラトニンを分泌する小さな器官で、多くの脊椎動物では頭部中央の透明な皮膚を通じて光を直接受け取る機能を持っている
ニルソン名誉教授は、6億年前の祖先の一つ目が今の私たちの睡眠を調節する能力につながっているとは、まったく驚きだと述べている。
ただし人間を含む哺乳類では、松果体はすでに光を感じる機能を失っている。
初期の哺乳類が夜行性で昼間は隠れて生活していたためだと考えられており、光の検出という役割はより高性能に進化した両目が引き継いだ。
脊椎動物の目は、3つから1つへ、そして2つへと姿を変えながら進化してきた。
頭のてっぺんにあった1つの目は、人間を含む哺乳類では光を感じる機能をすでに失っているが、松果体として脳の中に今も存在し続けている。
6億年前の祖先の目の名残が、毎晩私たちを眠りへと誘っているのだ。
収斂進化によりタコやカタツムリも脊椎動物と同じ目を持つ
目の構造には大きく2種類ある。昆虫やエビなどの甲殻類が持つ、無数の小さなレンズが集まった複眼と、人間などの脊椎動物が持つ、単一のレンズで像を結ぶカメラ型の目だ。
面白いことに、脊椎動物とは別の進化の道をたどったタコやカタツムリも、同じカメラ型の目を独立して進化させた。これを収斂進化(しゅうれんしんか)という。
異なる進化の道をたどった生物が、同じ問題を解決するために偶然同じ構造にたどり着いたのだ。
しかし外見が似ていても中身は大きく異なる。
私たちの網膜には100種類以上の神経細胞があるのに対し、タコやカタツムリにはわずか数種類しかない。この網膜の複雑さは、思考や記憶を担う大脳皮質に匹敵するほどだ。
脊椎動物にとって目と脳の進化は切り離せない関係にある。左右2つの目が生まれたことで複雑な行動が可能になり、それが認知能力と大きな脳の発達を促した。
ニルソン名誉教授は、「目がなければ私たちは単に目のない人間になるのではなく、そもそも脊椎動物という生き物自体が地球上に存在しなかっただろう」と語っている。
References: Evolution of the vertebrate retina by repurposing of a composite ancestral median eye[https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(25)01676-8] / Our modern vision evolved from an ancient one‑eyed worm creature[https://theconversation.com/our-modern-vision-evolved-from-an-ancient-one-eyed-worm-creature-278120]











