アメリカの水族館で暮らす33歳のゼニガタアザラシは、黄色いアヒルのおもちゃに夢中だ。一緒に水遊びをしたり、寄り添って、愛情たっぷり抱きしめる姿は、世界中の人々を癒している。
オランウータンのぬいぐるみに対し、母親のように愛着を示す日本のサルのパンチくんも世界中で人気を集めているが、動物と動物型のおもちゃのコンビネーションは、人間をメロメロにさせる魔力をもっているようだ。
33歳のアザラシの大切なアヒルのおもちゃ
マサチューセッツ州ボストンにあるニューイングランド水族館には、「レッゲエ」という名の33歳のゼニガタアザラシが暮らしている。
ゼニガタアザラシは体全体に古銭のような丸い斑紋が並ぶことから、その名がついた中型のアザラシだ。
レッゲエの大親友はアヒルのおもちゃだ。
水面に浮かぶアヒルを追いかけ、キスをするように鼻先をくっつけたり、寄り添ったりする姿は、見る者の顔を思わずほころばせる。
アヒルが遠くへ流れていきそうになると、そばで見守るスタッフがそっと向きを戻してやる。
レッゲイはとても穏やかで人懐っこい性格で、アヒルと一緒にいる姿を多くの人に注目してくれることをうれしく思っているようだと、スタッフのリズ・ウェイトさんは語る。
レッゲイにアヒルのおもちゃを与えた理由
このアヒルのおもちゃは、水族館のスタッフが取り組む「環境エンリッチメント」と呼ばれる活動の一環としてレッゲイに与えられたものだ。
環境エンリッチメントとは、飼育下の動物が野生本来の行動や思考力を発揮できるよう、生活環境に刺激や工夫を加える取り組みのことをいう。
水族館ではアザラシたちを対象に「ファインド・イット!」という訓練を定期的に行っている。
やり方は、スタッフが展示エリアにアヒルなどのおもちゃを置き、アザラシに探させる。
レッゲエは優れた視力で水槽の中を見回し、アヒルを見つけ出す。
このとき、目だけでなく、ヒゲを使って触れて確かめたり、体をぶつけて感触を楽しんだりすることもある。
アザラシのヒゲは非常に敏感で、水中の振動や水流の変化を察知できる精密なセンサーの役割を果たしている。
訓練にはもう一つ大切なルールがある。
アザラシが参加したくないと感じたときは、参加しなくていいということだ。
スタッフはこれを「チョイス・アンド・コントロール(自分の意思で参加を選ぶ権利)」と呼んでいる。
強制ではなく、自分の意思で動くことがアザラシのストレスを減らし、心身の健康につながると考えられているからだ。
レッゲエは、アヒルとの訓練を重ねるうちに、アヒルに対して特別な親しみを持つようになったという。
水族館の鰭脚類(アザラシ・アシカ・セイウチなどひれ状の足を持つ海洋哺乳類のグループ)担当のパティ・レナードさんは「他のおもちゃよりも、アヒルに対して特別な好意を持っているように思います」と話す。
訓練を通じて生まれた愛着が、レッゲエとアヒルの「友情」へと育っていったのだ。
野生のアザラシは常に食べ物を探し、好奇心を持って海の中を泳ぎ回っている。
飼育下ではその体験が限られてしまうので、動物たちの知的な能力を十分に発揮できる環境を作ることが大切なのだという。
アヒルのおもちゃはレッゲエにとって、野生で生きる本能を呼び覚ましてくれる友人でもあるのだ。
ゼニガタアザラシの生態と長寿の秘密
ゼニガタアザラシは北大西洋と北太平洋の沿岸に広く生息する中型の海洋哺乳類だ。
体長はオスで150~200cm、体重は70~170kgほど。黒地に白い丸い斑紋が並ぶ体の模様が、日本の古いお金「寛永通宝」の形に似ていることから、ゼニガタアザラシという和名がついた。
食性は多様で、タコやイカなどの頭足類、エビなどの甲殻類、アイナメやヒラメなどの魚類を季節や海域に応じて柔軟に食べ分ける。
潜水能力も高く、通常は数分間の潜水だが、深いところでは水深427mまで潜り、30分近く水面に上がらないこともある。
野生のゼニガタアザラシの平均寿命は、オスで約20~25年、メスで約30~35年とされている。
33歳のレッゲエはすでに野生のオスの平均寿命を大きく超えた、いわば「超長老」だ。
飼育下では手厚いケアや定期的な健康管理のおかげで、40年前後生きる個体もおり、記録に残る最高齢は47.6歳にのぼる。
天敵であるシャチやサメの脅威がなく、栄養バランスの整った食事と獣医による医療ケアが受けられる飼育環境が、アザラシの寿命を大きく伸ばしている。
ニューイングランド水族館には現在5頭のゼニガタアザラシが暮らしており、いずれも飼育下で生まれ、互いに血縁関係のある個体たちだ。
スタッフは毎日アザラシたちと向き合い、身体的なケアだけでなく、心の健康も守るための訓練を続けている。
レナードさんは「魚を渡して終わり、ではありません。一日を通じてアザラシたちの心を動かし続けることが、私たちの仕事です」と話す。
レッゲエとアヒルの友情は、そうした日々の中で育まれていったようだ。
動物と動物型おもちゃのコンビは人間の心を溶かす
千葉県にある市川市動植物園では、2025年7月に生まれたニホンザルのオス、パンチくんが、世界中から注目を集めた。
漫画「ルパン三世」の原作者・モンキー・パンチにちなんで命名されたパンチは、生まれた翌日から母親に育児放棄され、飼育員による人工哺育で育てられた。
子ザルは本来、生まれたときから母親にしがみついて育つ生き物だ。
母親のいないパンチくんにも、しがみつける何かが必要だった。
飼育員がさまざまなおもちゃを試した結果、パンチくんが最も気に入ったのが、IKEAのオランウータンをかたどったぬいぐるみだった。
パンチくんはこのぬいぐるみ「オランママ」を慕い、不安を感じると抱きしめ、危険を察知すると盾にして後ろに隠れた。
ぬいぐるみに甘えながらも懸命に群れに溶け込もうとするパンチくんの姿は、SNSを通じて国内外に広まり、「#がんばれパンチ」のハッシュタグとともに世界中から応援の声が集まった。
動物はそれ自体がすでに愛らしい存在だ。その愛らしい生き物が、自ら動くことのできない動物のおもちゃに、一途な愛情を向ける純粋さは、人間の心を溶かしにかかってきてるよね。











