『遠い太鼓』(著:村上 春樹)
◎松村祐二クーリエ・ジャポン 30代 男
□海辺へつれていきたい
「遠い太鼓に誘われて
私は長い旅に出た
古い外套に身を包み
すべてを後に残して
(トルコの古い唄)」
ぼくが『遠い太鼓』を手にしたのは、10年前の真夏の夜でした。
その晩、ぼくは友人につれられて、海に近い千葉の小学校で開かれた盆踊りを見にきていました。
『遠い太鼓』は旅行記です。著者の村上春樹さんが『ノルウェイの森』や『ダンス・ダンス・ダンス』を執筆していたころ、“常駐的旅行者”としてヨーロッパを転々とした日々について綴っています。そこには、ローマやアテネ、クレタやミコノスといった街の名前がつぎつぎと登場します。土地の人々との会話や、買い物や食事といった日常生活を通じて、その街のスケッチが色鮮やかに描かれます。その街の朝日がどんな色をしていたのか、その空気がどれくらい新鮮だったのか、そういったものが伝わってくるような本です。
これは幸運な偶然でしたが、ぼくの旅行計画はギリシアのアテネからフランスのパリまでを1ヵ月かけて移動する、というものでした。
以来、ぼくは長い旅行をするとき、この本を鞄にいれることにしています。マルタやサントリーニといった地中海の街から、コペンハーゲンやヘルシンキなどの北海周辺の都市、台湾やハワイ島といった太平洋の島にも、この本を持っていきました。旅の必需品というわけではありませんが、遠い街にいくとき、とくにそれが海辺の街だったりするとき、ぼくはこの本を一緒につれていきたくなります。遠くはなれた場所から打ち寄せては返す波のように、長い移動のなかのリズムを整えてくれる。そんな旅の伴侶といえるかもしれません。
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- 講談社創業100周年記念「この1冊!」を読む
■執筆した社員
◎講談社社員 人生の1冊
松村祐二【クーリエ・ジャポン 30代 男】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
■本の紹介
◎遠い太鼓

ある朝目が覚めて、ふと耳を澄ませると、何処か遠くから太鼓の音が聞こえてきたのだ。ずっと遠くの場所から、ずっと遠くの時間から、その太鼓の音は響いてきた。
- 『遠い太鼓』
- 著:村上 春樹
- ISBN:9784061853829
- この本の詳細ページ:http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784061853829