『政治はケンカだ! 明石市長の12年』(著:泉 房穂/鮫島 浩)
◎ケンカ市長大いに語る
泉房穂という名前にピンとこなくても、明石市の暴言市長といえば「あぁ、あの人」と思い当たるだろう。本書は「前」市長となった彼が、いかにして議会、政党、役所、宗教・業界団体、マスコミと闘ったかを語ったものだ。
播州とは兵庫県の南部、赤穂~姫路~明石の瀬戸内海沿岸と、その内陸部。そこに住む播州人の一般的イメージは、言葉が悪く気が荒い。かくいう私もそうで、播州人をよく見知っているが故に言うのだが、播州人は人との距離感の保ち方が雑なのだ。もちろんすべての播州人がそうではないと力説したいが、「泉房穂」的な口の悪いオジサンはいる。確実にいる。
「人から嫌われたくない」なんて思ったことはない。
本人は本当にそう思っているのだろうが、あえてそういう悪びれたことを言うところ。
言い争いになると、突然言葉にドライブがかかるところ。
ザッツ播州人! 道路の拡幅工事に伴うビルの立ち退き交渉をめぐり、担当職員に投げつけた「火つけてこい」という暴言も、さもありなん(もちろんこの暴言は明らかなパワハラで、許されざることだ)。
まずは泉房穂のプロフィール。そこからして「えー、これは本宮ひろしの漫画のキャラですか?」と思うほど、波瀾万丈だ。
明石市の西部にある小さな漁村の貧しい家庭に生まれ、「金持ちとは喧嘩するな」という親に育てられる。障害を持った弟がいて、障害者を弾こうとする学校に違和感を持ち、それはやがて「冷たい社会を優しい社会に変えたい」という思いに変わる。そして小学5年生にして、明石市長になる目標を持ったという。
私は故郷・明石のことを心から憎み、心から愛してるんです。誰よりも明石について知っているからこそ、まだ消えない理不尽に対して、誰よりも強い憎しみを抱いている。
その後、東大で学生運動に参加しながら、ポーランドのレフ・ワレサが率いる民主化運動や、チェコのヴァーツラフ・ハヴェルらによる民主化革命に触れて「民衆の力」を知る。大学を卒業してNHKに就職したのち、テレビ朝日(『朝まで生テレビ』の番組スタッフだった)へ。
◎明石で試みられた政治の進化
「政治は結果」というのが私の政治哲学です。マスコミの取材も色々受けますけど、私としては一番わかってくれてるのは、やっぱり市民。なぜかというと、市民は実際に明石市で暮らしてるから。生活してるからこそ、リアリティを持って政治を見ているし、明石市が実際に変わったことを体感している。
その言葉どおり、泉房穂は政党や団体の支援を受けていないにもかかわらず、圧倒的ともいえる市民の支持を得た。それは「誰ひとり取り残さないやさしいまちづくり」という、いささか美し過ぎる理念に、さまざまな条例や施策でしっかり肉付けを行ったからだ。その支持があったからこそ、理不尽で不合理な慣習がまかり通る議会や、口利きを求める議員とケンカができた。しかし市民の支持があったとしても、どうしてそこまで突っ張っていられたのか? それは泉房穂が「市長とはいかなるものか」を語る部分で腑(ふ)に落ちた。
なぜ私が市長になる道を選んだかというと、市民から直接選ばれる自治体の首長は、かなりの権限がみとめられているからです。わかりやすくいうと、総理大臣ではなく、むしろ大統領に近い。
「日本は議院内閣制である。地方もまたそうである」ぐらいにふんわり理解している私は、「市長は大統領に近い」という言葉に驚いた。泉房穂は、決して議会を軽視していたわけではないとしながらも、『社会契約論』のルソーを引き、政府の作り方やあり方にはいろいろな可能性があり、議会はその中の一つの知恵でしかないと語る。ロックの間接民主主義、モンテスキューの三権分立もまた絶対に正しいわけではなく、大きな失敗を避けるための一つの仮説でしかないと。政治は本来、市民生活に奉仕することを最優先とし、定型はなく、繰り返されるトライ&エラーのもとで進化するものであるはずだ。市長としての12年間、泉房穂は暴言市長と言われながら、明石で政治の進化を試みていたのではないか?
市長は大統領に近い。その考え方だけを切り取ると、権力の暴走を懸念する声が上がっても不思議ではないと思う(それについても、泉房穂はきっちり言及している)。地方政治という点では、大阪維新の会と比較したくもなる。この本を読んで、そうした視点を持つのは自然だし、非常に健全だ。そう、泉房穂という政治家には、「有権者としてひとこと言わせてくれ」と思わせる、なにか“挑発力”とでもいうべきものがあるのだ。それは独自のビジョンも語る言葉も持たず、政党の看板を背負って選挙に勝った/負けたを繰り返す政治家には望むべくもない。
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■レビュワー
◎嶋津善之
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。
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■本の紹介
◎政治はケンカだ! 明石市長の12年
こころ優しき社会は闘争の先にこそ実現する!
閉塞しきった日本の政治を、たった一人で変えた男の記録。
「冷たい社会を優しい社会に変える」──10歳にして決意し、47歳で市長となった泉房穂。
議会、政党、宗教団体、市職員、マスコミ……利権まみれの敵に囲まれる四面楚歌のなかで独り「ケンカ」を挑み市民の圧倒的支持を得た。
閉塞ニッポンを救う「覚悟と秘策」がここにある。
誰一人見捨てない「人新世の政治論」誕生!
本書は「実践の書」であり、同時に「希望の書」である
(主な内容)
●故郷の明石を誰よりも愛し、誰よりも憎んだ
●わずか69票差で勝った市長選挙
●口利きをしてカネをもらう市議会議員
●初めて明かす「政治家引退」の真相
●橋下徹くんに言われて反省したこと
●市役所のドン・副市長という存在
●都道府県は不要どころか害悪
●時代に取り残された新聞に未来はない
●子育てに注目が集まるのを嫌がる男たち
●市民は「テレビのウソ」に気づいている
●「誰一人見捨てない社会」を目指して
「人から嫌われたくない」なんて、思ったことはない──泉房穂
- - 主書名:『政治はケンカだ! 明石市長の12年』
- - 著:泉 房穂/鮫島 浩
- - ISBN:9784065318997
- - この本の詳細ページ:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784065318997