反応剤リレーにより多様なアジド化合物の合成がより簡便かつ高効率に

2025年10月2日

直接的アジドメチル化法を開発 反応剤リレーにより多様なアジド化合物の合成がより簡便かつ高効率に

 

 

本研究のポイント

・先行研究で確立したN-アジドメチル化反応により得られるN-アジドメチルジスルホンイミド誘導体が、S-アジドメチル化剤として有効であることを発見しました。

・本手法は基質適用範囲が広く、極性官能基が共存する基質にも適用可能です。


・本反応で得られるS-アジドメチル化合物がO-アジドメチル化剤として機能することを明らかにし、反応剤リレーによる多様な基質への展開性を示しました。

 

 

研究概要

 岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科の澤畑凌雅大学院生と、工学部の喜多村徳昭准教授(同研究科、高等研究院 One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター(COMIT)、人工知能研究推進センター兼任)による研究グループは、N-アジドメチルジスルホンイミドを用いたチオールの硫黄原子への直接的なアジドメチル化反応(S-アジドメチル化反応)の開発に成功しました。

 当研究グループは、先行研究において、類例のない窒素原子上での直接的なアジドメチル化反応(N-アジドメチル化反応)を開発しました。本反応によりN-アジドメチルジスルホンイミド誘導体が効率的に得られることを見いだしています。

 今回、4位にトリフルオロメチル基が置換したベンゼン環を有するN-アジドメチルジスルホンイミド誘導体を用いると、様々なチオールの硫黄原子上に直接的にアジドメチル基を導入できることを見いだしました。本反応は、アミノ基や水酸基などの極性官能基が共存する基質にも適用可能であり、メルカプト基選択的に反応が進行します。さらに、本反応で得られるS-アジドメチル化合物が、O-アジドメチル化剤としても機能することが明らかとなり、今後の有機合成や分子修飾への応用が期待されます。

 本研究成果は、現地時間2025年9月11日にOrganic Letters誌のオンライン版で発表されました。

 

 

研究背景

 アジド基は、アミノ基やアミド基、含窒素複素環など、さまざまな官能基や骨格へと変換可能な有用な構造単位です。特に、アジド基に隣接する炭素に硫黄原子が結合したアジド化合物(S-アジドメチル化合物)は、生理活性分子の合成におけるビルディングブロック(※1)として広く利用されています。しかし、S-アジドメチル化合物を対応するチオールから直接合成する手法はほとんど報告されておらず、従来は多段階の工程を経る必要がありました。

 当研究グループでは最近、アジドメチルエステルをアジドメチル化剤として用いた、窒素原子上での直接的なアジドメチル化反応(N-アジドメチル化反応)を開発しました(図1(a))。
この手法はジスルホンイミド誘導体にも適用可能であり、対応するN-アジドメチルジスルホンイミド誘導体を効率的に合成することができます。そこで今回、ジスルホンイミド基が優れた脱離基として機能する点に着目し、N-アジドメチルジスルホンイミド誘導体をアジドメチル化剤として用いた、チオールの硫黄原子上での直接的なアジドメチル化反応(S-アジドメチル化反応)の開発に着手しました。

 

 

研究成果

 溶媒にTHF(※2)、塩基に水素化ナトリウムを用い、2-メルカプトベンゾチアゾールにN-アジドメチルジベンゼンスルホンイミドを作用させることで、室温下において目的のS-アジドメチル化反応が進行することを見いだしました。さらに、反応効率の向上を目指してN-アジドメチルジスルホンイミド誘導体の構造最適化を行った結果、4位にトリフルオロメチル基を有するベンゼン環を導入した誘導体(N-アジドメチル-ビス(4-トリフルオロメチルベンゼン)スルホンイミド)を用いることで、反応性が大きく向上することが明らかとなりました。溶媒と塩基の組み合わせとしては、THFと水素化ナトリウムが最も高い反応効率を示し、これを最適条件として採用しました。最適条件下で、脂肪族および芳香族を含む多様なチオール化合物に対して反応を行ったところ、いずれも良好な収率でS-アジドメチル化合物が得られました(図1(b))。また、アミノ基や水酸基などの極性官能基を有する基質にも適用可能であり、メルカプト基選択的に反応が進行することが確認されました。

 加えて、フェノール類を同様の反応条件に附すことで、フェノール性水酸基のスルホニル化が効率的に進行することも新たに発見されました(図1(c))。

 さらに、チオ糖を用いたO-グリコシル化反応に着想を得て、S-アジドメチル化反応で得られたS-アジドメチル化合物を用いたアルコールの酸素原子上での直接的なアジドメチル化反応(O-アジドメチル化反応)も検討しました。THF中、Cu(OTf)2存在下でフェネチルアルコールにS-アジドメチル-2-メルカプトピリミジンを作用させ、60 °Cに加熱することで、対応するO-アジドメチル化合物を高収率で得ることに成功しました(図1(d))。O-アジドメチル基は水酸基の保護に有用な官能基として知られていますが、これまで直接的な導入法は存在せず、今回のO-アジドメチル化反応の成功は世界初の画期的な成果です。

 これらの成果は、反応剤リレーを活用した多様な基質への展開可能性を示すものであり(図2)、今後の有機合成や分子修飾の新たな手法として期待されます。


 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202509306265-O4-c33c71I4

 

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今後の展開

 先行研究で報告したN-アジドメチル化反応を含め、現在、計算化学を専門とする研究者の協力のもと、各反応の機構解明を進めています。得られた知見をもとに、今後はより温和な条件下で進行するO-アジドメチル化反応の開発を目指します。さらに、S-アジドメチル化合物の酸化体やO-アジドメチル化合物も新たなアジドメチル化剤として機能し得る可能性があることから、反応剤リレーによる展開性のさらなる拡充を図る予定です。

 

 

用語解説

※1 ビルディングブロック

複雑な化合物を構築するための合成パーツ

 

※2 THF

テトラヒドロフラン

 

 

論文情報

雑誌名:Organic Letters

論文タイトル:Direct S‑Azidomethylation of Thiols with N‑Azidomethyldisulfonimides

著者:Ryoga Sawahata, Yoshiaki Kitamura*

DOI: 10.1021/acs.orglett.5c03688

 

 
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