劇伴などを中心に活躍する作曲家・澤野弘之によるボーカルプロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]が、通算4作目のニューアルバム『iv』を3月3日にリリース。その先行配信楽曲として話題を集めていたのが、ReoNaをゲストボーカルに迎えたSawanoHiroyuki[nZk]:ReoNa名義の楽曲「time」だ。
澤野が劇伴音楽を手がける人気アニメシリーズの最新作『七つの大罪 憤怒の審判』のEDテーマでもある本楽曲は、どのようにして生まれたのか? 二人に話を聞いた。


澤野弘之がReoNaの歌声に惹かれた理由
――まずは澤野さんが今回、ReoNaさんにお声がけした経緯についてお聞かせください。

澤野弘之 遡ると2018年頃、前作のアルバム『R∃/MEMBER』を制作していた時期にReoNaさんがSACRA MUSICからデビューされることを知りまして、YouTubeに上がっていた洋楽のカバー音源をチェックしたらすごくかっこよかったので、そのときからいつかご一緒できればと思っていたんです。で、今回、新しいアルバムを制作するにあたってお願いしました。

ReoNa ありがとうございます……! YouTubeには18歳の頃に歌った音源なども上げているので、そんなときのものまでチェックしていただけていたとは思わず……。

――その頃だとガンズ・アンド・ローゼズ「Sweet Child O’ Mine」のカバーなどをアップしていましたね。

ReoNa はい。最初にYouTubeにアップしたのが「Sweet Child O’ Mine」で、その次に「The A Team」(エド・シーラン)や「Knockin’ on Heaven’s Door」(ボブ・ディラン)をカバーさせてもらって。

澤野 今回お願いしようと思って改めてチェックしたときに、ヴァネッサ・カールトンの「A Thousand Miles」のカバーが印象に残って。僕の曲は英詞が多いので、英語の楽曲に対するアプローチの仕方がすごくいいなあと思ったんですよね。

――逆にReoNaさんは、澤野さんに対してどのような印象をお持ちでしたか?

ReoNa 私が中学生ぐらいのときに『進撃の巨人』のアニメ放送が始まって……。

澤野 えっ! あの頃まだ中学生だったんですね(苦笑)。


ReoNa その頃から澤野さんのお名前は存じ上げていたのですが、デビュー前の2017年に“MUSIC THEATER 2017”というライブイベントで初めてステージを拝見して、そこで改めて楽曲のパワーに引き込まれてしまって。そのときに披露されていた「Into the Sky」などの楽曲を繰り返し聴くようになった経緯があるので、澤野さんからお話をいただいたときは「まさか……!」という気持ちでした。私はゲストボーカリストとしてほかのプロジェクトに参加させていただく経験も初めてなので、ものすごくドキドキしました。

――澤野さんはReoNaさんの歌声のどんな部分に惹かれたのでしょうか?

澤野 僕がボーカリストの方にお声がけするときは、声の魅力を一番に考えるんです。ReoNaさんはA・Bメロなどで優しくささやくように歌うときの、ハスキーという言い方をしていいかわからないですけど、綺麗な声質も魅力的ですし、そこからサビで力強く歌うアプローチを含め、1つの楽曲の中でコントラストを出してくれる声だと思っていて。素晴らしい歌声の持ち主だと思います。

ReoNa ありがとうございます……!

新たなアプローチが「time」にもたらした化学反応
――今回のSawanoHiroyuki[nZk]:ReoNa名義によるコラボレーション楽曲「time」は、TVアニメ『七つの大罪 憤怒の審判』のEDテーマでもありますが、どのような流れで制作されたのでしょうか?

澤野 元々は自分のアルバムのために制作を進めていたなかで、『七つの大罪』のタイアップのお話をいただいて、それが上手く繋がった感じです。ただ、タイアップのお話をいただいた段階では、まだ作詞の作業を行っていなかったので、(作詞を担当した)cAnON.さんには『七つの大罪』のテーマを踏まえたうえで歌詞を書いていただきました。

――では、この楽曲を作り始めた当初イメージしていたのは?

澤野 僕は基本的に海外のサウンドが好きで、これまでタイアップ曲を作るときはロックをベースにエレキギターを前面に出したアッパーな曲にすることが多かったんですけど、今回のアルバムではシンセのサウンド感や打ち込みのグルーヴを前面にした楽曲でアプローチしていきたいなと。より自分の作りたいサウンドを追求した感じですね。そこにReoNaさんの洋楽に通じる歌声が合うと思ったし、自分の楽曲をいい意味で幻想的に広げたり、グルーヴ感を強く押し出してくれるかなと思ってお願いしたところがあります。

――ReoNaさんがこの楽曲を最初に聴いたときの印象はいかがでしたか?

ReoNa ネイキッドといいますか、音数が絞られたサウンドのなかで、サビのインパクトを含めすごく盛り上がりのあるメロディの楽曲だったので、そのうねりのようなものを自分の声で表現するために、どんなアプローチをすればいいのか色々思考錯誤しました。
ReoNaとしてこの歌をうたうのは、すごく新鮮な気持ちでした。

――たしかにReoNaさんが普段歌っている楽曲は、バンドサウンドやアコースティックなアレンジが多いので、打ち込みを中心とした今回の「time」はその流れとは違うテイストの曲調ですよね。

澤野 そこは自分のなかでもやりたかった部分で、ぶっちゃけReoNaさんご自身の楽曲と同じ方向性のサウンドで歌ってもらっても一緒にやる意味がないと思ったんです。せっかくご一緒するのであれば、ReoNaさんのファンの方にも違った印象を楽しんでもらえる形になればと思っていましたね。

――歌のレコーディングはいかがでしたか?

澤野 最初のボーカルチェックの段階で何も言うことがないぐらい素晴らしくて、「流石です!」としか思わなかったですね、本当に。

ReoNa とんでもないです……! それこそ私は普段のレコーディングとは違う環境でRECやディレクションしていただいたので、最初は「ダメ出しされたらどうしよう……」とか、色んな想像をしながら当日を迎えたんですけど……。

澤野 僕がどんな人間なのかもわからないですもんね。そしたらただ歌を聴いて喜んでいるだけのオッサンだったっていう(笑)。でも、僕はそれぐらい楽しかったです。楽曲が自分のイメージしていた以上のものになっていくのを目の当たりにしていたので、素直に楽しんでいました。

――ReoNaさんはどのようなアプローチで歌われたのですか?

ReoNa 作詞のcAnON.さんにもお越しいただいていて、英語のニュアンスを持ちつつ、日本語とのギャップがないように注意しながら歌いました。澤野さんの楽曲は耳に入ったときにスッと馴染む印象があるので、それを私の声でどう表現すればいいかを考えながら、すごくドキドキしながら歌わせていただきました。


――個人的にはサビの後半で歌が二重に展開していくところが印象的でした。後ろのつぶやきのような歌い方が、どこか魔法の詠唱のようでもあり、ある種『七つの大罪』の世界観ともシンクロするような印象を受けまして。

澤野 それは多分ReoNaさんの歌声やパフォーマンスがあって、そういう聴こえ方がしたのが大きいと思いますね。

ReoNa 裏で別の言葉をささやくようなアプローチは今まで挑戦したことがなかったので、レコーディングのときは歌い方の強弱をご提案させていただいたり、ニュアンス感も考えながら歌いました。実際重なったものを聴くと、それこそ詠唱じゃないですけど、不思議な空気感になったと思います。

――歌をダブルで録ったり、他のサウンドやアレンジと合わせて立体的に聴かせる手法は澤野さんの得意とするところですが、それは歌い手の方の魅力を引き出す工夫であったり、自分自身の好きなサウンドを追求した結果だったりするのでしょうか?

澤野 それは両方あると思います。最初はサウンドアプローチ的なことを考えて作っていくのですが、それをやることでボーカリストの声がより際立つので、最近はクセになってますね(笑)。ハモリもよくつけるんですけど、それも特別意識しているわけではなく、単純にそのサウンドが好きでやっている感じで。でも割とそういうアプローチのほうが、ご一緒したボーカリストの方からも「コーラスの重ね方が独特」とおっしゃっていただくことが多いです。


二人が語る『七つの大罪』の魅力と楽曲とのシンクロ
――歌詞は『七つの大罪 憤怒の審判』のタイアップを受けて作られたとのことですが、ReoNaさんは歌詞からどのような印象を受けましたか?

ReoNa 私自身、元々『七つの大罪』のアニメや原作に触れていたので、まず「time」という曲名を見たときに、メリオダスやエリザベスが時間の呪いみたいなものに縛られていることを思い浮かべて「なるほど!」と思いました。ただ、澤野さんの楽曲は言葉を音として届けている印象が強いので、歌うときはもちろん意味も意識しつつ、1つの音として楽曲のなかに溶け込んでいくように意識しました。

澤野 素晴らしいですね。
僕は自分でも歌詞を書くことがありますけど、基本は音の響きを重視していて、メロディに対してどういうサウンドを当てているかを気にしているんですよね。ReoNaさんはその面でもすごく考えて歌ってくださってることを感じて、ありがたかったです。

――ReoNaさんは以前から『七つの大罪』のアニメをご覧になっていたんですね。

ReoNa はい。アニメが始まった当時は高校生だったんですけど、それこそ『七つの大罪』コラボがきっかけで始めたゲームもあったぐらいで、ガチャでバンを当てて喜んでいました(笑)。自分がアニソンシンガーになる前から好きで観ていた作品に、まさかこういう形で関わらせていただけるとは思っていなかったです。

澤野 マンガから入ったんですか?

ReoNa アニメが先でした。周りのアニメ好きの人がみんな観ていたので、私も観てみようと思ったのが最初で、アニメが終わったときに続きのお話が気になってコミックを読み始めました。

――澤野さんはTVアニメ第1期から今回の最終章『七つの大罪 憤怒の審判』に至るまで、ずっと劇伴を担当していますが、『七つの大罪』シリーズの劇伴を制作するにあたって大切にしていることはありますか?

澤野 今回のクールに関しては、僕は過去に作った曲のアレンジをしたぐらいで、基本、新規の楽曲に関してはKOHTA YAMAMOTOくんが作っているんですけど、ベースとなる第1期の音楽を作るときは、プロデューサーの方から「イギリスっぽい音楽」というお話をいただいたんです。なので「ゲーム・オブ・スローンズ」や「ロード・オブ・ザ・リング」といった海外のファンタジー作品みたいな、オーケストラベーシックのサウンドが求められているところなのかなと思い、打ち込みは多用せず、生楽器寄りで作っていきました。まあ、結果的に「time」は打ち込みバリバリですけど(笑)。

――ただ、「time」のややダークなシンセのテイストは、今回の最終章の世界観ともマッチしているように感じました。


澤野 たしかにそうかもしれないですね。でも、そこをよりマッチするようにしてくれたのは、ReoNaさんの歌声の影響もあると思います。どこか祈りに通ずる部分のある歌声とか。

ReoNa 今回は音の響きもものすごく意識しながら歌いましたけど、そのなかでも一つ、「そばにいたい」といった切実な部分の感情を乗せながら歌いました。それとエンディングアニメを観たとき、エリザベスが私の歌に合わせて歌ってくれていて「すごい!」と思ったんですけど、実際に絵と合わさることで聴こえ方が変わったので、これまでずっと劇伴を作ってこられた澤野さんの楽曲が、一個の歯車として『七つの大罪』と噛み合ったことをすごく感じました。

――ちなみに推しキャラはいますか?

ReoNa ホークちゃんがかわいいですよね。最初の頃は残飯処理係だったのが、まさかあんな展開になるとは思ってもみなくて。だんだん煉獄とか十戒みたいなところにお話しが展開していくなかでも、戦闘力は高くないのに、全然死なないホークちゃんの屈強さはすごいなと思って(笑)。すごく愛らしいです。

――澤野さんもよければぜひ……。

澤野 僕ですか!?(笑)。メリオダスは梶(裕貴)さんが演じているというのもありますし、最強の主人公というのは子供の頃から憧れるキャラクターなので、好きですね。
あと、同じく最強という意味ではエスカノールも。普段はめちゃくちゃ弱いのに、変身したら最強になる設定って、小学生男子とかは大好きじゃないですか。そこは大人になった今見てもかっこいいなあと思います。

――『七つの大罪』は少年心をくすぐる作品ですものね。

澤野 大人が観ても「子供の頃はこういう作品を楽しんでたなあ」と思い返しながら楽しめる作品だと思います。

ガンズ、ネコ、メイド喫茶!? MV撮影の裏話と二人の意外な接点
――今回の楽曲「time」はMVも制作されていて、お二人も出演しています。MVはどんなコンセプトで制作されたのですか?

澤野 監督には最初、ボーカリストをフィーチャーした内容にしてほしいとお伝えしたんです。そこから監督が色々考えてくださって、光による描写をコンセプトに、ライトやCG映像を駆使したスタイリッシュな映像に仕上げてくれました。ReoNaさんは結構色んなカットを撮ったんですよね。

――お二人が背中合わせでパフォーマンスしているカットも印象的でしたが、撮影はいかがでしたか?

ReoNa 最初は澤野さんと二人で撮らせていただいたのですが、現場はすごく暗くて、自分たちがどういう状態で映っているのか想像できないぐらいだったんです。でも、モニターに映った絵を観たときに、ダークなかっこよさが出ていて、出来上がりがすごく楽しみでした。私は目だけ、口だけ、顔半分だけ、後ろ姿だけなど、部分部分のカットもたくさん撮っていただいて。実際に完成版を観させていただいたら、すごくかっこいいなと思いました。

澤野
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