「アイドルマスター シャイニーカラーズ」のライブイベント“THE IDOLM@STER SHINY COLORS 3rdLIVE TOUR PIECE ON PLANET / NAGOYA”DAY2が2021年4月4日、日本ガイシホール+オンライン配信で開催された。

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DAY2にはイルミネーションスターズより櫻木真乃役の関根 瞳、風野灯織役の近藤玲奈、八宮めぐる役の峯田茉優、アンティーカより月岡恋鐘役の礒部花凜、田中摩美々役の菅沼千紗、白瀬咲耶役の八巻アンナ、三峰結華役の成海瑠奈、幽谷霧子役の結名美月、放課後クライマックスガールズより小宮果穂役の河野ひより、西城樹里役の永井真里子、杜野凛世役の丸岡和佳奈、有栖川夏葉役の涼本あきほ、アルストロメリアより大崎甘奈役の黒木ほの香、大崎甜花役の前川涼子、桑山千雪役の芝崎典子、ストレイライトより芹沢あさひ役の田中有紀、黛 冬優子役の幸村恵理、和泉愛依役の北原沙弥香、ノクチルより浅倉 透役の和久井 優、樋口円香役の土屋李央、福丸小糸役の田嶌紗蘭、市川雛菜役の岡咲美保が出演した。


公演前映像では、プロデューサーに厳しく発破をかけようとする天井努社長が、事務員の七草はづきにたしなめられる場面があった。一見微笑ましい光景だが、もしかしたら第7の新ユニット・SHHis発表時に流れた回想シーンと関係があるやりとりなのかも?などと考える余地があるのは現在進行系で状況が動いている時期ならではの楽しみかもしれない。

ステージ構成は会場奥のメインステージのみ。上下二段のステージを階段と、キューブ型の昇降リフターが繋いでいる。複数面の短冊型の縦長スクリーンが設定されており、キューブの背景にも小型スクリーンが。複数のスクリーンに渡って動きのあるひとつの映像を投影すると、見る側の脳が間を補完して全体像をきちんと結んでくれるのが面白い。短冊スクリーン間には発光するオブジェクトや照明がぎっちり据え付けられていて、全面スクリーンではできない演出が可能になっている。配信映像ではそこに様々なAR演出が加わって、虚実のあいまいな幻想のステージが繰り広げられる。

ライブの開幕を飾ったのはTeam.Stellaの「プラニスフィア ~planisphere~」。Stella、Sol、Lunaは「シャイニーカラーズ」初のユニットを越境した属性チーム。Stellaには各ユニットのセンターが多く所属しており、名古屋公演ではなんと5/6がユニットセンター(アルストロメリアは大崎姉妹のダブルセンターユニットだが、センターとして稼働する時は甘奈がセンター扱いになることが多い)。まさに綺羅星のごとき構成だが、むしろこうなると1/6が際立つ。
6人目はノクチルの樋口円香を演じる土屋李央で、ステージで歌唱中は“笑わない”という独特のキャラクター表現を貫いて目下爆進中だ。キャストたちがステージにある程度慣れて、魅力的な笑顔がステージに溢れるようになったからこそ成立するギミックと言えるだろう。センターの星々に並んでもその存在感は増すばかりだ。

衣装はビヨンドザブルースカイ。最初の共通衣装であり、左肩から斜めにたすき状に入る黒いひらひらと、スカートの後ろについた黒い布地が目印。空と雲のような色合いの衣装の中で黒のワンポイントが際立っている。この曲では曲中のウィンクが印象的なのだが、ウィンクするよ、するよ……はいした!という感じの黒木と、ここしかないというタイミングでバチコーンとしてくる礒部では流派が違う感じがして楽しい。“目を閉じる”という行為とは逆の意味では、関根のような生粋のセンターは、ライブ中のまばたきの回数すら少ないイメージがある。

Team.Solの「SOLAR WAY」。8人は下手のステージに登場。歌い出し、サイドステージからセンターまで歩む時間の「タメ」をパフォーマンスに織り込んでいる点で、SolとLunaは対極のテイストでありながら一対になっている。セットリスト上の配列という意味では、Solが二番目に入るのは必然な気がする。
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら始まるアイドル歌謡は浮ついた異質さがあって、異質すぎるが故に前後の楽曲との落差を無効化する効果を持っているように感じる。

明るくていたずらな陽性のテイストが、涼本や八巻、永井のような“かっこいいアイドル”を演じる演者のキュートさを見事に引き出している。であれば、この楽曲そのものを体現するようなめぐる=峯田がさらに輝きまくるのは言うまでもない。時代がほんの少し違えばめぐるはセンターオブセンターと呼ばれたタイプなのではないだろうか。

青の一番星を思わせるライトが灯り、越境チームのトリはTeam.Lunaの「リフレクトサイン」。冒頭の群舞のあと、下手から田嶌を先頭に決然と歩いてくる姿のかっこよさについてはDAY1でも書いたが、実は「SOLAR WAY」では光の中、和久井が先頭に立って歩いていたことにDAY2になって気がついた。ユニットの枠を外したチームで、最新のユニットを代表する仲間たちが、凛として先頭に立つ姿は新時代を感じさせる。

“DAY2の”「リフレクトサイン」のポイントとして注目したいのが、アイドルたちがカメラを射抜くまっすぐな眼差しだ。最初にアップになった近藤の凛とした眼差しと目が合って、ドキっとした人は多いのではないだろうか。甜花、摩美々、霧子、小糸、凛世といった、役柄的にはそういうイメージがないアイドルを演じるキャストたちともばしっと目が合う。とにかく正面のあのカメラがターゲット、という意識が全員のパフォーマンスに通っている。

だからこそカメラを殺すショットで北原だけ横を向いていたのには少し心配になってしまったのだが、2番ではきちんと最高の凛々しさを見せてくれた。
いずれにせよ、この意志のまなざしたちは、はっきりとした意図を持って映し出されていたということだ。彼女たちの迷いなきまなざしがどれほどまっすぐで美しかったか、いちばん理解しているのはカメラ越しのプロデューサーたちだろう。

チーム楽曲から、MCを挟まずに全員での「Spread the Wings!!」へ。DAY1と少し違うが、おそらくこちらが本来の構成だろう。メロディアスなピアノによる前奏をつけたスペシャルバージョンのイントロは、22人がステージにスタンバイして、立ち位置を整える間をつなぐものと考えれば辻褄が合う。全員が右手をそっと胸元に当てて片足を引き、薄明かりの中ではばたく瞬間を待つ時間は、涙が出るほど美しい幻想の光景だ。

歌い出し、見守る側も少し緊張してしまう。顔いっぱいを笑顔にした関根、控えめな笑顔で、でも全身の躍動に気持ちを込める近藤、ひとときも留まらないめまぐるしい表情に見入ってしまう峯田……というイルミネーションスターズのソロショットから始まる「Spread the Wings!!」は、このツアーで最後の光景だからだ。美しいARのエフェクトに目を奪われがちだったが、サビでステージに向かってうねるように咲き誇る客席の光の波は、ステージを支える強い意志がこの空間を満たしていることを感じさせた。

オープニング挨拶は、ツアー最初の公演地とは思えないほどハイテンションで、強い想いのこもったものが多かった。だからこそ、誰よりも自然体でふにゃっと「全宇宙のプロデューサーさんに、宇宙規模の感動をお届けします」とコスモ規模の挨拶をしてのけた涼本のスケールの大きさに、“あなたこそ有栖川夏葉そのもので賞”を贈りたい。

ここからのユニットメドレーゾーンは、各ユニットがDAY1で初披露された新衣装で登場。
イルミネーションスターズは3人揃って「Twinkle way」を披露した。

近藤のボーカルのコンディションが、はっきりといい。本番以上の経験の場はないとはいえ、2DAYSでここまではっきり良くなったと言い切れるステージがどれほどあるだろうか。彼女にとってのツアー最終日、本当に大切に歌っているのだろう。3色に塗り分けられたステージの光が、虹の七色となって弾けて広がる。これから始まるツアーの幕開けを、イルミネーションスターズは最高の色彩で彩ってくれた。近藤の歌声はぐいぐいと伸びているのに、気持ちの高まりがこぼれることなくよく乗っている。彼女のパフォーマンスが研ぎ澄まされるほど、関根のきらめきや峯田の表現力も輝きを増していく気がして面白い。

ラストのサビで、近藤と峯田が間に立つ関根を見つめながら歌い、関根がにこにこしながらふたりに視線を返す。そこで3人が歌うのが“心の中でいつでも繋がる 突き進もう 胸が高鳴る世界へ 夢が呼んでいる場所へ”である。駆け寄った3人が指差す先に星を見ながら、上質な物語を読んだ気がした。

アルストロメリアは「ダブル・イフェクト」を披露。
いつもは黒木と前川が天使と悪魔のモチーフの衣装で左右に立つことで並びのバランスがとてもいいアルストだが、3人ともがデザイン違いの新衣装をまとうと一旦その固定観念がリセットされる。

ピンクの羽が舞うなか芝崎の輝く笑顔から歌に入ると、後ろを向いていた黒木と前川がくるりと振り向きながら歌い継ぐ。かなり難解で抽象的な歌詞のこの歌が、翼を失った天使の詩である……ということがすとんと落ちてくるのは、彼女たちの笑顔と歌声の力が大きいように思う。芝崎のロングソロでの彼女の“笑顔を魅せる”ことに特化した画面構成を見ていると、「ダブル・イフェクト」は千雪センター曲とみなしたい。

そして、DAY2の裏テーマである(と勝手に決めた)目線によるコミュニケーションだ。「ダブル・イフェクト」のラストのサビ、動きながら歌う3人が視線を交わしながら歌っていることがわかる。そこに現れるのがサイドカメラだ。センターに入って歌う黒木を、芝崎と前川が挟み込むように歌う姿を一直線上に捉える特異なアングル。「キミ」である黒木はまっすぐ前を見つめたままで、それでも見守る2人の想いと笑顔は変わらない。

放課後クライマックスガールズの「五ツ座流星群」。「THE IDOLM@STER SHINY COLORS 2ndLIVE STEP INTO THE SUNSET SKY」を含めると短期間で4度目の披露となるが、新たな衣装、そして前日のMCを聞くと少し解釈が変わる。自分の場合は、丸岡の衣装が“ヒロイン”であることを意識すると、「ふれふれヒーロー!」といった台詞の解像度が少し上がった気がする。
今回参加できなかった白石演じる園田智代子の役柄は少し曖昧だが、歌詞の流れからすれば「応援する側」。凛世は、今回激闘を繰り広げるヒーローや海賊、カウボーイを応援する役割を一手に引き受けるわけだ。

今回のステージで丸岡は智代子パートの多くを担う。応援だけでなく、スペースカウボーイと丁々発止の掛け合いを見せるのである。洋風のアイドル衣装で大暴れする戦うヒロインの姿は、4人の放クラでしか見られない光景かもしれない。なお、「五ツ座流星群」のラストの“5つのピースで形作る星マーク”について、1人足りない時は「プロデューサーさんが5つめ作ってくれたら嬉しいよねぇ(河野)」とのことなので、でっかいピースを元気に作る心の準備をしておきたい。

アンティーカの「Black Reverie」。DAY1が引いたアングルで“世界”を見せていたのに対して、DAY2は寄ったカメラで“表情”と“個人”を見せる比率が高かった気がする。つまり、両方見なければならない。荘厳なるイントロ、キューブの中で背中を向けて静止する5人。彼女たちが背中でどんな芝居をしていたか、DAY2を見なければわからないのである。

今回のアンティーカの見どころとして、ダンスとサウンドの細かいシンクロがある。その最たる例のひとつがこの曲での成海のソロパートであり、リズミカルなドラムに合わせて彼女が見得を切ると、照明が、音楽が、彼女に追随するように色を変える。まるで成海が空間を支配しているようだ。

名古屋のアンティーカには、個人的には成海と八巻に強い“圧”を感じた。圧倒的な存在力と表現力を兼ね備えた稀有なボーカリストである礒部花凜に並び立ちうる4人となる。それがアンティーカが今乗り越えつつある課題なのではないかと思う。

ライブのベストアクトを決めることは難しい。しかしDAY2のベストシーンを問われたなら、迷わずにストレイライトの「Hide & Attack」を挙げたい。サイバーパンク+和テイストの衣装をまとった3人は、般若、翁、ひょっとこの面でおもてを隠して登場。このシーンはDAY1でも鮮烈だったが、ポイントはそのあと。面を取り去った3人が投げはなった仮面が、回転しながら美しい放物線を描いて消える──。

そのカメラ、どこから持ってきた!?

実物の面を着用すること自体がかなり直前に決まったそうだが、DAY1のあのライブが終わってから約半日の間。どう仮面を投げたらかっこよく見えるか、を役者と大人たちが真剣に相談していたと思うと嬉しくなってしまう。もっともフォトジェニックなユニットが予想を超えてきた時点で、彼女たちの“勝ち”は決まった。衣装や演出がとてもかっこいいので、そのあたりはDAY1レポートを参照してほしい。

ユニットメドレーのトリはノクチルの「いつだって僕らは」。空と水面の色の衣装をまとって、幼馴染4人の関係性を歌う。

関係性は、時間とともに色を変える。歌い出し、広大なライブ会場に染み渡るような和久井の歌声ののびやかさに息を呑む。驚いたのは続く土屋の歌声も明らかにDAY1より質と安定感が増していたことだ。樋口のキャラクターボイスをまとい、抑制した歌い方で“のびやかさ”に進化を感じるのは小さな変化ではありえない。ここまで来たらわかるだろう。良くなっているのは、“ノクチル”だった。それにしても、4人が4人ともこんなに良くなるって、ありえるのだろうか。

彼女たちの初配信ライブである“MUSIC DAWN”から“THE IDOLM@STER SHINY COLORS 2ndLIVE STEP INTO THE SUNSET SKY”までのノクチルは、お互いに作用し合う“円”の関係性だったように思う。水面に水滴が落ちれば、円は一部が欠けることもある。ところが名古屋でノクチルが見せたのは、和久井と土屋、田嶌と岡咲がお互いの存在を響き合わせるような2on2のセッションだった。

それが顕著だったのが田嶌と岡咲で、ふたりは一見、超ハイトーンでキャラクターボイスに特化した声優ならではの歌で表現する点で似ているように見える。しかし田嶌が内面もテンションも全てが歌声に乗る率直さが好ましく感じられるのに対して、岡咲の歌唱の“安定感”から見えてくるのはただただ限りない修練だ。田嶌の全身全霊の想いを込めた歌唱を岡咲が柔らかく受け止めて、ちょっとニュアンスを乗せて投げ返す。

“アイドル”たちが羽化する瞬間を見ている。そんなステージが今、ここにあるのだ。

後半戦はアンティーカの「純白トロイメライ」からスタート。メンバーそれぞれがダンスが高難度と口を揃えた「Black Reverie」の次を受けるステージで、礒部はあえて「成長したアンティーカで、もう1曲」と自らにハードルを課す覚悟を見せた。「純白トロイメライ」は、衣装と密接に結びついた物語性が非常に強い楽曲だ。

黒いリップと攻撃的な衣装をまとった八巻が、間奏で礒部を抱き寄せるように舞踏を踊る。5人全員が演劇のように確固たるキャラクターをまとうことで、舞台はミュージカルに変わる。キャラクターをまとい、物語を演じることは菅沼の独壇場と言ってもいいフィールド。クラウンに扮した成海の表現は、彼女自身の“らしさ”を三峰結華というアイドルに取りこんだように見える。そして彼女たちの色が濃いほど、黒でも白でもない灰色のメイドを演じる結名の存在が際立つ。それでも個性の洪水に存在をかきけされないのは、結名自身が前日と比べてもより深く物語に潜り、より魅力的な表現を見せているからに他ならない。

アルストロメリアの「Anniversary」。DAY1に綴ったのは、記念すべき日の讃歌に秘められた離別の予感についてだった。今日は、その歌唱から見えてきた等身大のアルストロメリアについて書きたい。「Anniversary」という楽曲には、聴くものと歌い手の心を千千にかき乱す不思議な魔力がある。DAY1、芝崎は歌い出しから瞳を潤ませていた。それでも、特別な日をことほぐ歌声は、今日もこんなにもおだやかで、優しく、壮大だ。その言葉のひとつぶひとつぶを噛みしめていると、歌詞の中の世界に重なるように、「アルストロメリア」の物語が浮かんでくる

“護りたい”。その言葉から浮かぶのは、いつもお互いを気遣い、自分より仲間のことばかりを大切にしているアルストロメリアの3人の関係性だ。いつしか、黒木の瞳に涙が浮かぶ。涙をこぼすことをしないのは、大切な曲を歌いきろうとする使命感だろうか。はっとしたのは涙をこらえる黒木のパートを受けた前川の歌声が、より強く、よりふくらみを持ってステージを包みこむように感じられたことだ。妹が頑張っている時にこそ、誰よりも強くなれる。甜花はお姉ちゃんだもんな、という言葉がよぎった。そして心のなかにどんな嵐が吹き荒れても、黒木のパフォーマンスは崩れずに踏ん張る。そこに、前川と芝崎の歌声があたたかく寄り添っていった。

DAY2の落ちサビは、DAY1と少し見せ方が違った。そこにあったのは「リフレクトサイン」で言及した、演者の意志と眼差しをありのままに見せ、伝えるセンターカメラの存在だ。支える者と支えられる者の姿は、むきだしでカメラに切り出された。そこに、3人の関係性、お互いを見守るまなざしを掬いあげる優しいサイドカメラの存在は、ない。泣きたくても、助けたくても、最後は自分が頑張るしかない。それは危うくも強固な演者への信頼だ。

その信頼に、彼女たちは応えた。転調後の壮大なクライマックス、落ちサビのソロパート。姉として、仲間として、センターとして。お互いを支えながら3人の歌声はより強く、美しく。涙の中に咲く花、アルストロメリア。

ノクチルは「あの花のように」を披露。この曲では4人はトロッコに分乗して客席の中へ。“MUSIC DAWN”では誰もいない会場で歌った楽曲を、今度は観客のただなかを泳ぎながら歌う。会場の上空には、ARの不可視の花火が大輪を咲かせる。しかしDAY2は、あくまでも演者が主役。花火大会のような華やかなエフェクトや、会場いっぱいのファンが4人を見つめる姿はあくまで間奏を中心とした副菜として添えられた。

声なき歓声と愛情を受けながら歌う彼女たちから、客席のプロデューサーたちは、どう見えたのだろうか。きっと、それはとても素敵な光景だったはずだ。ノクチルという水面に映る笑顔はあんなにも素晴らしかったのだから。

ひとつ確かなのは、自信と喜びにあふれた彼女たちのパフォーマンスを見て、有観客での初ライブがたった2週間前の新人である……などという絵空事を信じる人は少ないだろうということだ。彼女たちはそんじょそこらの芸能人では太刀打ちできないぐらいの量と密度でアイドルの人生を追体験している、不思議な役者たちだ。

そして、すごいものを見た。ラストフレーズを前に、4人はトロッコからステージに降り立った。ステージの両サイドからセンターを目指しながら、4人が歌い合うラストフレーズは“隣で笑うきみと未来へ向かうよ”。そのとき、土屋が笑った気がした。でもそれは、彼女自身の笑いではなかったと思う。それは、ステージの反対から最高の笑顔で歩いてくる“キミ”の笑顔を示す指示棒だったのではないか。きゅっと唇を引き結んだ土屋は、すぐに目線を切ってまなざしを伏せた。そのラストフレーズを歌う時、樋口円香は誰を見ているべきなのか。誰を見る姿をステージに置くべきなのか。そんなこだわりと情念が見えた気がした。

そして、歌い終えた4人が本当にでたらめに楽しそうで、弾けるようなテンションだったことに救われた気がした。土屋の「『いつだって僕らは』が気持ちよすぎて」という言葉や、岡咲の「お客さんのひとりひとりと目が合わせられて嬉しい」という言葉にも救われた。だって、ずっとその言葉が聴きたかったのだから。

ここからはソロの時間。「シャイニーカラーズ」はユニットを活動の基本単位としてきたため、初のソロ曲披露だ。3周年というタイミングでのソロ初披露、作品に詳しくない人には驚きだろう。配信映像での楽曲紹介時のアーティスト名表記がキャスト名ではなく、アイドルの個人名だったことからも、作品のスタンスが少し垣間見えるかもしれない。

トップバッターの河野ひよりは「ハナマルバッジ」を披露。果穂は身長も高く、小学生なのにしっかりしている、と思われがちなアイドルだ。しかしヒーロー番組を愛する彼女が、愛すべきちんちくりんな小学生であることを我々はよく知っている。ステージに登場した河野は頭上でクラップを打ち鳴らし、無敵な笑顔を見せる。彼女の日常はキラキラした発見と熱いヒーローでいっぱいだ。ステージで表現されるのは特撮やアニメの作られたヒーローとはちょっと違う、ごっこ遊びの中の無邪気なヒーローだ。

たとえば「アンブレラ・ブレード!!」を、河野は本物の必殺技にだって変えられるはずだ。でも、そこに存在するべきなのは雨上がりに傘を振る時の、しぶきの冷たい肌触りだけなのだ。客席に背中を向けたヒップダンスがただぴょこぴょことかわいらしく見えるのも、果穂は小学生だから。

それでいて、“渡り鳥V字に広がる空”のワンフレーズにはぱーっと情景が広がるような展開力があるし、落ちサビにかけては急に本物のヒーローっぽくなるのがズルい。きっと、小宮果穂の日常の中に、地続きでヒーローのようにかっこいい時間もあるのだろう。ソロパートのMCでは、パフォーマンス中は泣かないと決めて、貫いていたという河野が、仲間の涙にふれてもらい泣きする姿があった。

近藤玲奈は「スローモーション」を披露。本公演が近藤が参加するツアー最終公演ということもあり、観客の多くはこの曲が歌われることをわかっていたはず。それでも、ついに来た! 待っていた! という熱が伝わってきた。

メロディアスなピアノとフルート。潔く美しい旋律の中、現れたキューブに一人、立ち尽くす近藤。まっすぐに歌う姿は生真面目で美しい。歌い上げるだけでなく、時にささやくような緩急がある。それがアーティストとしての風野灯織の一面だとすれば、やがて歌詞の言の葉が灯織と近藤の柔らかい部分をあらわにしていく。

鍵になったのは“一人で平気だと思っていたよ”“見守っていてくれたんだね、最初からずっと”のフレーズだろうか。涙の気配の中、頑張れの祈りの中で誇り高く耐えていた近藤は、落ちサビでこらえきれない涙を光らせながら、それでも強く懸命に歌い続けた。ソロMCで、人や仲間のあたたかさで出る涙について語る近藤から出てくるのは、やはり真乃とめぐるの名前だった。ステージを振り返る近藤から、「今日は甘えてもいいですか?」と本音のしずくがこぼれ落ちた。

八巻アンナは「千夜アリア」を披露。白瀬咲耶は175cmのモデルのような長身で、女子高に通う王子様的存在だ。つい、“でも意外にかわいい”といった意外性に舵を向けたくなるところだが、「シャイニーカラーズ」はアンティーカの王子様に超正統のかっこよさへの挑戦を求めた。

八巻が「連れて行くよ…」とあでやかに笑むと、ステージはまたたく間に歌劇場の大階段に変わる。情熱的な低音から熱情を感じさせるボーカルの変化にきっちりとしたメリハリがある。目力で、間奏の赤い光の中で見せたゆったりと雄大な舞で、新しい咲耶を見せようとする意志が伝わってくる。振付に熱意を注ぎすぎて、マイクを少し外してしまった場面は一般的にはミスなのだろうが、本当に生歌で歌っているんだな……と実感できて個人的には嬉しい。キャストたちの歌唱と音響が素晴らしすぎて、時折本当に生歌かわからなくなる瞬間があるのである。

八巻は終盤はライブで歌うには高難度すぎるテクニカルな畳み掛けを、見事に歌いこなしていった。そこから転調を重ねながら、繰り返し畳み掛けていくボーカルの耐久力。この日のためにどれほど練習したのかが痛いほど伝わってきた。ソロMCでは会場が緑に染まるのを初めて見たと初々しく笑っていた八巻だったが、アンティーカでは5人でかっこいいを分担しているが、ソロでは1/1を担うプレッシャーがあったという言葉にはまぎれもない本音と、無事やり遂げた安堵が滲んでいたように感じた。

前川涼子は「また明日」を披露。大崎姉妹の“姉”でありアルストロメリアの“ダブルセンター”である甜花ちゃんは、人生のほとんどを妹の甘奈に依存するダメダメアイドルとして登場するし、その本質はたぶん今だって変わっていない。だが、そんな彼女が“誰かのために”ならどんなに強くなれるのかを、名古屋公演では改めて感じることができた気がする。

ぐっすりとした眠りから目覚めた甜花は、大好きなふたりを探し、見つからないので“ひとりでもがんばるぞ!”と気合を入れて歌い始める。それだけで、甘奈ならいろいろな意味で泣いてしまうのではないだろうか。前川の大きな魅力が“甜花そのもの”のスペシャルな声質であることは言うまでもないが、役者としての強みはそれだけではない。ゆったり、のーんびりと歩く仕草のひとつひとつが歌と合わさった時、そこには大崎甜花がいる。

ぴこぴこしたサウンドの中、カラフルな街を冒険する彼女の後ろに、背景映像が流れていくタイプのアニメエンディングが見えたのは自分だけではないはずだ。ライブが終わりに近づき、楽しい時間がさみしさに包まれ始める時、彼女はかわいらしく手を振りながら「また明日」と呟くのだ。

ラストのユニットブロックはストレイライトの「Destined Rival」から。フロアや会場上空には赤と白のARキューブが敷き詰められ、どこまでが現実の光景で、どこからが仮想の世界か判然としない。キューブエレベーター上でのダンスパフォーマンスには若干の制約があることもあり、和とサイバーパンクをモチーフとした衣装を生かした表現を含めた“静”のパフォーマンス(あくまでストレイライト基準だ)でも魅せてくれた。

はっとしたのは特徴的なフード部を下ろしただけの田中の衣装のイメージの変化で、サイケデリックなマントをまとった彼女がほんの少し身じろぎするような動きが、王者然としてとてつもなく絵になる。間奏でステージに降りたった3人は、めいっぱいロングなダンスソロをリレーで披露。こういう時、先陣を切る北原のダンスに絶対的な信頼がおける安心感ははかりしれない。

ユニットMCでは「Hide & Attack」の仮面について盛り上がったのだが、北原があの仮面はライブが近づいてから「やってみませんか」とスタッフから提案されたことを紹介。それぞれが少しでも良いライブ作品を目指す姿勢が、こんな素晴らしいステージにつながっているのだろう。

放課後クライマックスガールズは最後に「学祭革命夜明け前」を河野ひより、永井真里子、丸岡和佳奈、涼本あきほの4人バージョンで披露した。

どこかユーモラスなイントロと共に、暗めの会場明かりの中で4人がコミカルなポーズを取っているのがうっすら見える。立ち位置は4人を基本に考えた左右対称系だ。「破ッ!!」の掛け声と共に光が駆け抜けると、会場はたちまちのうちにAR映像による学園祭会場に早変わりした。観客がコールを飛ばせない分まで、ARによる物理コールが視覚でもライブを楽しませてくれた。

それにしてもダンスのテンポが早い上に、足元を含めた動きの情報量が多い。個人的な知見だが、ぱっと見た目よりキツいとされるダンスは決まって足元の動きが忙しい。おまけに配信では下半身はあまり見えないから報われないことこの上ないが、そこにこめた“全力!”はたしかなダイナミズムとなって会場を揺らす。放クラ最高速のダンスで、練習でははじめてBPMを落として振付の確認を行なったそうだ。本来なら会場を埋め尽くしたはずの「革命だ!」の大合唱はARのエフェクトにとってかわられたが、ライブの夜明けは、もうすぐそこまで来ているはずだ。

ユニットのトリを努めたのは、3人揃ったイルミネーションスターズの「Happy Funny Lucky」。名古屋公演のユニット曲の“最初と最後”をイルミネが担当した。感傷的になってもおかしくないシチュエーションだが、歌い出しからの3人のスーパーハイテンションと、超高速のめまぐるしいハンドサインがそんな暇を与えてくれない。

胸をとんとん、とするのは“Happy”、腕をぎゅむぎゅむ、とやるのは“Funny”、右手でLの形を作るのは“Lucky”を示すサイン。「シャイニーカラーズ」を先頭に立って引っ張ってきた彼女たちが、これから続くツアーに残した指針は、最後まで「楽しく明るく、ハッピーに!」だった。

歌い終えた峯田が「こんなにライブで最高って思ったの初めてかもしれない!」と興奮すると、近藤も「あたしも本当に心がハッピーでラッキーでファニー! この景色が奇跡だなって思いました」と返す。関根はそのまま乗っかるのではなく、「ほんとだね!」とまず肯定したあと、2人が話したことを含めた想いが3人の中で共有されていることが、歌いながらわかった……という旨を言葉を探しながら誠実に語る。最高の笑顔で歌い踊った3人のイルミネの記憶も一緒にたずさえて、283プロダクションの最初のツアーは進んでいく。

本編ラストナンバーは「Multicolored Sky」。各ユニットが新衣装で勢揃いすると、揃いの衣装や最初のユニット衣装とはまた違った華やかさがある。

思い出せないほど昔にストレイライトの存在が初発表された時、演出を見て、もしかしたらこのコンテンツは虹の七色を目指すのかもしれない、と予感したことをぼんやりと思い出す。イルミネーションスターズ、アンティーカ、放課後クライマックスガールズ、アルストロメリア、ストレイライト、ノクチル。虹の色が6つである時間は、もうそんなに長くはない。

サイドカメラの前に(その向こうのプロデューサーさんの前に)芝崎が陣取ると、笑顔のあまりの華やかさに定点カメラが食いつく。すると、幸村や峯田、周りのアイドルもなんだなんだと集まってきて、即興の撮影会がはじまる。その前を成海のトロッコが何やってんの? とばかりに横切ったりと、下手カメラ周辺はちょっとした渋滞状態だ。全員でステージ中央に整列し直さないといけないタイミングが近づくと、実は面倒見が良いと書いて西城樹里と読む女・永井がそっと芝崎の腰に手を回してエスコートしていった。

この光景はきっと、今だけのもの。六色の虹にだって、他にはないオリジナルな魅力があるはずだ。初ライブから、わずか2年。ノクチルにとっては、2週間。目にも止まらないスピードで駆け抜ける彼女たちは、3週間後の東京公演にどんな色の虹をかけるのだろうか。

最後に、そのヒントになるかもしれない、この日もっとも印象的だったMCのやりとりを紹介して、今回のレポートを締めくくりたい。

<3rdツアーに向けた意気込み/ノクチル(和久井 優、土屋李央、田嶌紗蘭、岡咲美保)>

いつになくテンションの高い和久井。岡咲の「今を、楽しまなきゃ」という言葉を聞いて、和久井の目の色が変わる。土屋が、「アイドルマスター」と「シャイニーカラーズ」の先人たちへの敬意と感謝を不器用に語り、簡単には言葉に出来ないほどの熱量を「気合入れて頑張るぞ! みたいな気持ち」という一見平凡な言葉に込める。岡咲は、前日にステージから見たキラキラを夢見るように話し、「その気持ちよさを忘れてステージに立ったらもったいないじゃない? だから今日は最初から、皆さんと楽しむってことを一番に持って、ここに!」。

田嶌はDAY1で夢みたいに幸せな場所にいたと語ったあと、「この楽しいはずっと続いていくと思うけど、今この瞬間は今しかないので」とはっとするリアリストな一面を見せる。「緊張に負けず、プロデューサーさんと楽しんでいけたらいいなと思っております。楽しみましょう!」という言葉は、自分に言い聞かせているように響いた。和久井は会場を見て感じたドキドキや、田嶌が泣きそうになっていたことを微笑みながら語ると、「胸が一杯になって弾けちゃうんじゃないかと思ったんですけど、私もちゃんと目の前のことを楽しもうって思った。今、この時を楽しもうって気持ちで、今日は頑張りたいと思います」と客席に頭を下げた。

彼女の中の浅倉 透に、炎が灯る音がした。

Text by 中里キリ

THE IDOLM@STER SHINY COLORS 3rdLIVE TOUR PIECE ON PLANET / NAGOYA DAY2
2021年4月4日(日)日本ガイシホール

<セットリスト>
M01:プラニスフィア ~planisphere~(Team.Stella/関根 瞳、礒部花凜、河野ひより、黒木ほの香、田中有紀、土屋李央)
M02:SOLAR WAY(Team.Sol/峯田茉優、八巻アンナ、永井真里子、涼本あきほ、芝崎典子、幸村恵理、和久井 優、岡咲美保)
M03:リフレクトサイン(Team.Luna/近藤玲奈、菅沼千紗、成海瑠奈、結名美月、丸岡和佳奈、前川涼子、北原沙弥香、田嶌紗蘭)
M04:Spread the Wings!!(シャイニーカラーズ)
M05:Twinkle way(イルミネーションスターズ/関根 瞳、近藤玲奈、峯田茉優)
M06:ダブル・イフェクト(アルストロメリア/黒木ほの香、前川涼子、芝崎典子)
M07:五ツ座流星群(放課後クライマックスガールズ(河野ひより、永井真里子、丸岡和佳奈、涼本あきほ)
M08:Black Reverie(アンティ―カ/礒部花凜、菅沼千紗、八巻アンナ、成海瑠奈、結名美月)
M09:Hide & Attack(ストレイライト/田中有紀、幸村恵理、北原沙弥香)
M10:いつだって僕らは(ノクチル/和久井 優、土屋李央、田嶌紗蘭、岡咲美保)
M11:純白トロイメライ(アンティ―カ/礒部花凜、菅沼千紗、八巻アンナ、成海瑠奈、結名美月)
M12:Anniversary(アルストロメリア/黒木ほの香、前川涼子、芝崎典子)
M13:あの花のように(ノクチル/和久井 優、土屋李央、田嶌紗蘭、岡咲美保)
M14:ハナマルバッジ(河野ひより)
M15:スローモーション(近藤玲奈)
M16:千夜アリア(八巻アンナ)
M17:また明日(前川涼子)
M18:Destined Rival(ストレイライト/田中有紀、幸村恵理、北原沙弥香)
M19:学祭革命夜明け前(放課後クライマックスガールズ(河野ひより、永井真里子、丸岡和佳奈、涼本あきほ)
M20:Happy Funny Lucky(イルミネーションスターズ/関根 瞳、近藤玲奈、峯田茉優)
M21:Multicolored Sky(シャイニ―カラーズ)
-ENCORE-
EN1:Resonance+(シャイニ―カラーズ)
EN2:Ambitious Eve(シャイニ―カラーズ)
EN3:シャイノグラフィ(シャイニ―カラーズ)

(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.


関連リンク
「アイドルマスター シャイニーカラーズ」公式サイト
https://shinycolors.idolmaster.jp/
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