「いろんな挑戦や決意が詰まった記念すべき一枚に」――結城アイラが2021年4月28日に14thシングル「Blessing」をリリースする。約3年半ぶりのシングルは、自身が初めて作品音楽プロデュースを担当するTVアニメ『聖女の魔力は万能です』のOP主題歌が表題曲に。
編曲にも初参加するなど新境地を開いたこの1枚がどのようにして生まれたのか、制作を振り返ってもらった。

【画像】「Blessing」ジャケ写


“隙間を作ること”の大切さを知った「Blessing」
――初めてアニメ作品の音楽プロデュースを担当されたということで、その点に関しては振り返ってみていかがですか?

結城アイラ 歌手として何かの主題歌を歌わせていただくときとは違って、作品や楽曲に関するいろんな打ち合わせに参加させていただけて。劇伴を作られている音楽担当の黒田(賢一)さんともイメージを共有しながらそれぞれの音楽を作っていったので、初めて経験することがたくさんあってとても勉強になりました。新境地でしたね。

――先に音楽プロデュースのオファーがあって、そのあとOP主題歌も、ということだったんでしょうか。

結城 そうですね。「音楽プロデュースやってみませんか?」「OP主題歌を歌ってみませんか?」という感じでお声がけいただきました。

――原作からはどのような印象を受けましたか?

結城 会社員だった主人公のセイちゃん(小鳥遊 聖)が”聖女”として突然異世界に召喚されてしまうところから始まるんですけど、とっても優しくて前向きな作品で、自分の好きな世界観だなという印象でした。

――セイとともに聖女として召喚された女の子はなんと「アイラ(御園愛良)」という名前で。

結城 そうなんですよ!『ときめきトゥナイト』の(真壁)愛良ちゃんが好きなので「アイラ」という芸名にしたんですけど、漢字も同じでびっくりしましたね。すごく運命的なものを感じますし、親近感があるからこそ、「アイラちゃん、素敵なキャラクターだとといいな」「大変なことに巻き込まれないといいな」と思いながら読み進めていました(笑)。

――では「Blessing」について、作詞だけでなく共作曲・共編曲も担当されていますが、どういった流れで制作されていったんでしょうか?

結城 O P主題歌ということで、アップテンポの爽やかな楽曲を想像したんですけど、それを監督にお伝えしたら「そうじゃないんです、バラードにしたいんです」とおっしゃられて。
「意外だな」と思いつつ、洋楽の参考楽曲をいくつかいただいて、イメージを繋げる作業から始まりました。そこから、タイトルを決めて、ピアノを弾きながら言葉を乗せていって、自分の中でアレンジの方向性もある程度固めたうえでコライトしている矢野(達也)さんと相談して詰めていきました。

――作詞と作曲は同時進行なんですね。

結城 作詞だけさせていただくときって、「この言葉が使いたいけどメロと合わないから別の言葉にしよう」っていうことがたくさんあるんですよ。でも、実際に歌いながら同時に作っていくと、言葉を優先してメロディのほうを変えることができるので、これが私にとってはすごくやりやすい方法です。作る順番についても、サビから作ったりされる方もいらっしゃると思うんですけど、私はAメロから順に作るのが大好きで。普段は「Bメロまでスムーズだったのにサビが出てこない!」っていうパターンが多いんですけど、この曲はきれいにサビまで駆け抜けることができました(笑)。曲ができていくスピードは速かったですね。

――楽曲の全体像としてはどのようなイメージでしたか?

結城 ワンシーンを思い浮かべて、そこから曲や詞のイメージを膨らませていくことが多いんですけど、この曲は「木漏れ日の中に大切な人がいて……」という光景を思い浮かべていました。「聖女だから言葉使いはきれいにしたいな」「夜のイメージじゃないから、朝の光かな?」「セイちゃんはすごく真っ直ぐで前向きな女の子だから、淀みのない世界観にしたいな」ということを考えながら作っていました。

――特にお気に入りのフレーズなどはありますか?

結城 「願いが 祈りが 惑う心 打ち消してくれる」が気に入っています。私たちが生まれる前から人はみんな、自分ではどうにもできないことに出会ったときは願ったり、祈ったりしてきたと思うんですよ。
このコロナ禍でも、マスク、手洗い・うがいといった感染対策以外にできることと言ったら、「早くもとの日常に戻りますように」って願うことぐらいしかなくて。そんな今の世の中と、「誰かのために祈り、それが魔力となって人の傷を癒やし……」というこの作品でリンクする部分があるなと思いながらこの詞を作りました。

――作曲に関しては、何か大事にされていたことはありますか?

結城 「隙間を作ること」ですね。バラードって、歌うときに何もごまかせないじゃないですか(笑)。そういう不安もあってか、音の隙間を埋めたくなってしまって、最初はコーラスやハモをたくさん入れていたんですよ。でも、できたデモを聴いてみるとガチャガチャしていて……。怖かったしものすごく勇気が必要だったんですけど、隙間を作りました。これは新たな学びでもありましたね。

海外からの「歌ってみた」動画にも期待!?
――共作曲・共編曲の矢野さんとは、ミニアルバムでもご一緒されていました。

結城 駒形友梨ちゃんに歌詞を書かせていただいたとき、いくつかの楽曲を矢野さんが作編曲されていて、それがすごく素敵だったんです。なので、前回のミニアルバムでセルフカバーした「Paradeが生まれる」(5次元アイドル応援プロジェクト『ドリフェス!R』より)で初めて矢野さんに編曲をお願いしたんですけど、それも本当に爽やかでとっても素敵な仕上がりにしてくださって。機会があったらぜひまたご一緒したいと思っていたところで今回のシングル制作が決まったので、さっそくお声がけさせていただきました。


――アレンジ面については、ピアノとストリングスがメインのところに、Bメロから少し打ち込み感が出てくるじゃないですか。デジタルサウンドが入ってくるところがすごく良いなと感じました。

結城 実は、最初はもっとクラシカルなアレンジになる予定だったんですよ。でも、矢野さんとやり取りを重ねるうちに、「打ち込み感を出したほうが作品の世界観に馴染むんじゃないかな」と思って。例えば『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のような戦いや人の死を扱う作品だったら、クラシカルなオーケストラってすごくマッチすると思うんですけど、『聖女の魔力は万能です』は「スローライフ」「日常」というイメージの作品なので、最終的にはそういう方向性になりました。

――レコーディングはいかがでしたか?

結城 歌に関しては、1番はわりと落ち着いているものの、後半で張り上げるところが出てくるので……。「結城アイラさんにとっては過酷な曲を作ってしまったな」「ごめん」って思いながら歌っていただいた感じです(笑)。

――作曲する段階では、歌いやすさは気にせず……?

結城 メロディの美しさとか、歌詞の乗りの良さを優先して、レコーディングのときどうなるかはあまり考えずに作っていましたね。ほかの作家さんたちはきっと歌いやすさも考えて作曲されているんだろうなと思うと、今までお世話になった作家さんをリスペクトする気持ちがぐんと増しました。

――これまでに提供を受けた楽曲は歌いやすいものが多かったんですか?

結城 そうですね。息継ぎができないとか、音域がすごく広いっていうことはあまりなかったので、歌いやすい曲を作ってくださっていたんだなぁと。この曲、キーが低いところはめちゃめちゃ低いし、高いところはかなり高いんです。
何回も歌うと声が枯れてしまいそうなので、ライブのときはリハは適当にやって本番で頑張るタイプの曲かもしれません(笑)。

――「Blessing (English Ver.)」が5月26日に配信限定でリリースされますが、英語バージョンはどういった経緯で作ることになったんでしょう?

結城 もともと英語の曲が好きなんですけど、この楽曲も、洋楽を意識した部分があるので「きっと英詞も合うだろうな」と思って。それと、外国の方にもこの楽曲の良さを伝えたかったんです。というのも、「Blessing」の歌詞ってすごく抽象的なんですよ。監督から「セイちゃんの気持ちに寄りすぎてもいけないし、わかりやすすぎてもいけないし、ちょっと抽象的な感じがいい」というリクエストがあったので、主語をはっきりさせていなくて。でも、そういう歌詞って直訳を見ても意味がわかりづらいと思うんですよね。なので、Joelleさんに英訳をお願いして、具体的でわかりやすい英語詞にしていただきました。

――Joelleさんとはいつ頃から関わりが?

結城 梶浦由記さんのライブでご一緒したのがきっかけですね。それ以降、作詞しているときによくLINEで「この英語で大丈夫かな?」という相談をしていて(笑)。快くお返事をしてくださるのでちゃんとお仕事という形でご一緒したいなと思い、『Leading role』ではミュージックビデオ用の英訳をお願いしました。今回、仮歌も「このままリリースしていいんじゃないか」と思うぐらいのクオリティで歌ってくださって……。海外の方たちもこれをカバーしてくれたらすごく素敵だと思うので、「歌ってみた」動画がたくさん上がるのを期待しています(笑)。


――4月28日(水)21時からYouTubeチャンネルで「Blessing」のミュージックビデオがプレミア公開されますが、ミュージックビデオはどのような仕上がりになっていますか?

結城 日本の自然の良さ、春夏秋冬を感じられるような映像になっているんじゃないかな、と。このミュージックビデオも皆さんの癒やしになればと思っています。森や海で撮影してきたんですが、なかなか人と会えなくなってしまった今、スタッフさんたちと一緒にいられたり、1年ぶりに海へ行けたりしたことに、ロケ中は私自身も癒やされていました。

――内容については何か希望を出されたんですか?

結城 今回はすべておまかせでしたね。楽曲のイメージから作っていただいて。実はそのあとに見せていただいたアニメのOP映像もミュージックビデオと同じような世界感だったので、アニメとミュージックビデオ、それぞれの監督に楽曲だけで同じイメージを持っていただけたのはとても嬉しかったです。

――OP映像から「ミュージックビデオはこんな感じなのかな?」と想像できるということですね。ちなみに、結城さんがもし異世界に転生するとしたら……?

結城 私はきっと、セイちゃんみたいに転生してもお仕事をしちゃうタイプなんですけど……。でも、最近はオンラインゲームにハマっているので、不思議な世界観のところに行ってみたいですね。馬とか乗りたいです。ふふふっ(笑)。

――オンラインゲームというと。


結城 『フォートナイト』です。今プレイできるシーズン(チャプター2シーズン6)はマップが原始的で、狼や恐竜が周りを走っていたりするので、そういう世界も楽しそうだなって。

――プレイするきっかけは何だったんですか?

結城 もともと旦那さんがずっと一人でやっていたんですよ。それを見て「面白そうだな」と思って私も自粛期間中に始めて、今はディスプレイを2台並べてプレイしています(笑)。コロナが流行りだしてから、『ファイナルファンタジー』のリメイクを買って楽しんだり、『ぷよぷよ』とか『パネルでポン』みたいな大好きなパズルゲームをやったりしていたんですけど、オンラインゲームって一度やり始めたら「アップデートするだけでずっとプレイできるなんて!」「これは一生やっていられるんじゃないか」ってなるじゃないですか(笑)。すっかりハマってしまいました。

“朝”と”夜”が恋をしたら……
――そしてカップリング曲の「トレノワール」についてですが、このタイトルは造語ですよね。

結城 そうですね。フランス語でtres(トレ)が「とても」、noir(ノワール)が「黒」を意味するので、直訳すると「とても黒い」になります。

――「Blessing」とは打って変わって(笑)。

結城 そうなんですよ(笑)。「Blessing」が朝のイメージだったので、カップリングは夜のイメージで作りたくて。それで、『聖女の魔力は万能です』は欧風なところがありますし、個人的にフランス語が入った曲を作ってみたかったので、このタイトルになりました。

――「夜」を直接的には表現しなかった。

結城 フランス語で「夜」はnuit(ニュイ)って言うんですけど、それだとあんまり歌にならないなと思って(笑)。この曲も先にタイトルを考えてから、「”朝”と”夜”が恋をしたら」というイメージで作っていきました。朝が夜を照らそうとすると、夜には朝の顔が見えなくなっちゃう。だから二人は結ばれなくて、背中合わせの状態でいるしかないけど、その背中に感じる温かさは二人にとっての愛なのかもね、っていうちょっとファンタジーな世界観です。

――制作的にはそういうストーリーを作りながら、詞とメロディも作って、ということなんですよね。

結城 はい。自分で言うのもあれですけど、妄想力がすごいですよね(笑)。「朝と夜は同時に存在できないけど、二つともないと成り立たない」っていう歌詞なんですけど、これは人の持つ「光と影」にも通じるところがあって……。明るい部分しか持っていなかったら人の痛みがわからないので、影の部分も必要だと思うんです。その両方のバランスが取れていてこそ真っ直ぐに歩いていけるんじゃないかなって。聴いてくださる方にもいろいろなことを想像してもらえたらなと思っています。

――こちらのレコーディングでは、「Blessing」のような過酷さはなく?

結城 すごく歌いやすかったですね。ただ、これは「Blessing」もそうなんですけど、落ち着いた大人の女性として聴かせたかったので、今まで歌ってきたキーから半音ないしは1音下げているんですよ。低いトーンで歌を安定させる、表情を出すという部分での難しさはありました。

――歌い手・作り手・プロデューサーとして、これまでに活動されてきた全ての要素が入った一枚になったかと思いますが、この制作を通して何かやりたいことは生まれましたか?

結城 これ、すごく大事で。今まで「やってみたい」と言ったことは全部叶ってるんですよ! ふふふ(笑)。

――言霊ですね。

結城 そう、言霊はあると思っているので。今回、『聖女の魔力は万能です』のED主題歌「Page for Tomorrow」でも作詞・共作曲・共編曲を担当させていただいたんですけど、サウンドプロデュースしているNOAちゃん(NOW ON AIR)の楽曲でここまで作らせていただいたのは初めてなんですね。曲を書いて、それを歌ってもらって、「自分が書いた曲をどなたかに歌ってもらって自分には出せない世界観を実現したい」という思いが生まれました。やっぱり自分で作った楽曲なので、「こう歌ってほしい」みたいなイメージがはっきりあるんですよね。事前に1時間ずつプリプロをして、コーラスの歌い方も含めてディレクションにすごく熱が入りました。NOAちゃんに歌ってもらったからこそ新芽のような瑞々しさ溢れる楽曲になりましたし、コライトもすごく楽しかったので、いろんな方とコラボしたり、いろんな方に私が作った楽曲を歌ってもらったり、みんなが楽しくなれることをやっていきたいです。

――ライブをやりたいとか、そういった願望もぜひお聞かせいただければと思います。

結城 ライブについては、秋頃に何かできたらなと考えているところです。あとは、YouTubeチャンネルを開設したので……! 自分の楽曲についてはもちろんですが、提供させていただいた詞や曲についてのお話もそこでしていけたらいいなぁと思っています。チャンネル登録よろしくお願いします!(笑)。

INTERVIEW & TEXT BY 友安美琴(セブンデイズウォー)

●リリース情報
TVアニメ『聖女の魔力は万能です』OP主題歌
「Blessing」
4月28日発売

価格:¥1,200+税
品番:LACM-24099

<CD>
1.Blessing
作詞:結城アイラ 作曲・編曲:結城アイラ, 矢野達也
2.トレノワール
作詞・作曲:結城アイラ 編曲:石川智久
3.Blessing (Off Vocal)
4.トレノワール (Off Vocal)

●作品情報
TVアニメ『聖女の魔力は万能です』
放送中

AT-X 毎週火曜 23:30~
リピート放送:毎週木曜 11:30~ / 毎週月曜 17:30~
TOKYO MX 毎週火曜 24:30~
MBS 毎週火曜 27:00~
BS11 毎週水曜 24:00~

【スタッフ】
原作:橘由華 『聖女の魔力は万能です』(カドカワBOOKS刊)
原作イラスト:珠梨やすゆき
監督:井畑翔太
シリーズ構成:渡航
キャラクターデザイン:石川雅一
音響監督:立石弥生
音響制作:ビットグルーヴプロモーション
音楽:黒田賢一
音楽プロデュース:結城アイラ
音楽制作:ランティス
アニメーション制作:ディオメディア
製作:「聖女の魔力は万能です」製作委員会

【キャスト】
セイ(小鳥遊 聖): 石川由依
アルベト・ホーク: 櫻井孝宏
ヨハン・ヴァルデック: 江口拓也
ユーリ・ドレヴェス: 小林裕介
ジュード: 八代拓
アイラ(御園 愛良): 市ノ瀬加那
カイル・スランタニア: 福山潤
エリザベス・アシュレイ: 上田麗奈
エアハルト・ホーク: 梅原裕一郎

(C)2021 橘由華・珠梨やすゆき/KADOKAWA/「聖女の魔力は万能です」製作委員会

関連リンク
結城アイラ ランティスレーベルサイト
http://www.lantis.jp/artist/yuukiaira/

TVアニメ『聖女の魔力は万能です』公式サイト
https://seijyonomaryoku.jp/
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