ボクシングマンガの名作「あしたのジョー」を原案とし、近未来を舞台にギアを装着して戦う格闘技“メガロボクス”に関わる人々の人間ドラマを描いたオリジナルアニメ『NOMAD メガロボクス2』。その挫折と再生の物語を、ときに熱く、ときに哀愁味たっぷりに彩るのが、ドラマーやトラックメイカーとしてマルチに活躍するmabanuaの音楽だ。
OP・EDテーマと劇伴のすべてを担当した彼と、森山 洋監督の対談を通じ、本作の音楽的な魅力に迫る。

“映画”という共通言語から導き出された音楽的コンセプト

――今作『NOMAD メガロボクス2』では、mabanuaさんが劇伴とOP・EDテーマをトータルで手がけています。これはどのような経緯で決まったのでしょうか?

森山 洋 mabanuaさんには前作(『メガロボクス』)の劇伴を作っていただいたので、今回、その続編を作ることになったときもmabanuaさん以外には考えられず、制作が開始した時点でオファーをさせていただきました。僕らとしては、mabanuaさんは本作の音楽監督と捉えていたので、OP・EDテーマもまとめてお願いできればと考えていたのですが、そのときにはまだビジネス上の都合もあり、OP・EDテーマに関しては判断ができない状況で。そこから制作が進んだ段階でプロデューサーからOKが出たので、幸運にもすべてお願いすることができました。mabanuaさん的には大変だったと思いますが(笑)。


mabanua OP・EDテーマも含めた作品全体の音楽を担当するのは今回が初めてだったので、最初にそのお話をいただいたときは、ワクワク感もあった反面、それ以上に「俺で大丈夫なのかな……?」という気持ちが強くて(笑)。緊張感がありました。ただ、OPテーマ(「The theme of the NOMAD」)もEDテーマ(「El Canto del Colibri」)も、最初は劇伴用に制作したものなので、音楽的な形で作業を進めることができた印象があります。

――そもそも今作における音楽全体のコンセプト、監督が当初思い描いていたイメージはどのようなものだったのか、お聞かせください。

森山 今回は物語が進むにつれて、舞台となる場所やジョーの周りの環境が移り変わっていくので、それに合わせて音楽の構成も変えたいというのが最初のアイデアでした。放浪のテーマから始まって前半はラテン的なテイストのもの、後半は前作で制作してもらった音楽の進化版のようなイメージで三部構成をベースにお願いしました。
そこから、これは前作でもやっていたのですがサンプルとなる楽曲や意向をまとめたテキストをmabanuaさんにお渡ししニュアンスを詰めていった感じです。

――前半のラテンテイストも、監督自身の発案だったのですか?

森山 脚本作業の中でそういう方向に決まったと思います。ラテンと言い切っていいのかわからないですが……。最初にmabanuaさんにお渡しした参考音源のリストには、カントリー調の楽曲や、ギターがメインの少し物悲しいブルースっぽい楽曲もあったりして。その中に「黒くぬれ!」(ザ・ローリング・ストーンズの「Paint It Black」)のスペイン語のカバーがあって……。

mabanua あっ、「Todo Negro」(スペインのロックバンド、ロス・サルヴァヘスによる「Paint It, Black」のカバー)ですか?

森山 そうそう。
僕の中では、そのアレンジの雰囲気がこの作品のテイストに合っているなと思って。そういうところから色々お話ししてイメージを共有していきました。

――mabanuaさんはそれらの参考曲や資料を受け取ったうえで、どのようにイメージを膨らませていきましたか?

mabanua 「Todo Negro」は、よりポピュラーなスタイルが入り込んでいますけど、参考曲全体の印象としては、おおまかにラテンや南米の音楽の要素、トラディショナルな雰囲気が感じられたので、まずはその辺りの音楽の楽器構成だったり、メロディやコード進行のクセみたいなものを分析するところから始めました。

――というのは?

mabanua トラディショナルな要素が入っている音楽を作る場合、それに対してのリスペクトが必要だと思っていて。例えば、サンバとアフロキューバンの音楽というのは、同じラテンの括りではありますけど、使っている楽器の種類が違うんですよ。アフロキューバンはコンガやティンバレスを使いますが、サンバなどのブラジル音楽で使われるのはスルドやクイーカ。
たまにCMとかでサンバなのにコンガを叩いているのを観ると、「それ違うから!」ってなるんですよね(笑)。そこはきちんと作りたいというのがあって。ポップスであれば、別にエレキギターが入っていてもメロディがそれっぽければOKかもしれないけど、トラディショナルの場合は、鍵盤ハーモニカは当時使われていなかったからNGだけど、アコーディオンであればOKだとか。ホーンも、トランペットやトロンボーンはありますけど、サックスは使っていなかったりして。ちょっとマニアックな話ですが、そういう部分を考えたうえで作りました。

――個人的な印象としては、遊牧民・放浪者を意味する「ノマド」という言葉が、作品タイトルや主人公であるジョーの別名に使われていたり、移民の要素が物語の重要な部分を担っていることもあって、ロマミュージックにインスパイアされた部分もあるように感じたのですが。


森山 2話から舞台になるカーサの音楽はその影響もあると思います。バンドワゴン的な雰囲気やブルーグラス、脚本の真辺さんからの推薦でチカーノソウルなど色々な音楽にインスパイアされました。加えて自分もmabanuaさんも映画が好きなので、これも前回と同じく、打ち合わせのときに自分の好きな映画だとか、当時に観ていた映画やドラマの話を色々として。そのほうが共通言語としてイメージを伝えるのが早かったりするんですよね。「ボーダーライン」(※アメリカとメキシコの国境地帯を舞台にした2015年公開の映画。2018年に続編「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」が公開)とか、「ナルコス」(※コロンビアの麻薬組織とアメリカの麻薬取締局捜査官の攻防を描いたNetflixの海外ドラマ)がそうですね。


mabanua 当時、メキシコや南米の文化をテーマにした映画やドラマが多くあったんです。ちょうどその時期に、アメリカで移民問題が改めて取りざたされたり、グラミー賞やアカデミー賞でもヒスパニックの人たちが賞を獲るようになってきて。個人的にも世の中的にも、そういったムーブメントによる影響も大きかった気がします。

――なるほど。あと、前半のジョーが放浪しているロードムービーっぽい雰囲気も含め、例えば「パリ、テキサス」(※ヴィム・ヴェンダース監督による1984年公開の映画。音楽はライ・クーダーが担当)の音楽を思い出したりもしました。

mabanua たしかに「パリ、テキサス」は、音響監督の三好(慶一郎)さんがよく「要は『パリ、テキサス』的な感じなんだけど」と言っていましたね。「パリ、テキサス」とマカロニ・ウェスタンという言葉はよく飛び交っていた気がします(笑)。

森山 そうですね。僕は西部劇のイメージが強かったので。

――言われてみたら「マックのテーマ(M08-a)」はマカロニ・ウェスタンっぽいですね。

mabanua そうですね。

森山 ちょっと情熱的な感じがありますよね。

mabanuaの音楽が『NOMAD メガロボクス2』にもたらしたもの

――mabanuaさんは今回の音楽を制作するにあたり、ご自身のキャリア的にチャレンジングな部分も多かったと思うのですが、手ごたえを感じた楽曲を挙げるとすれば?

mabanua EDテーマの「El Canto del Colibri」は自分がスペイン語で歌ったのですが、本当にちゃんと歌えているのか気になってしまって(笑)。でも、スペイン語監修と歌詞を書いてくれた佐々木誠さんは「これで絶対に大丈夫です」と言ってくれて。そしたら、アニメの放送開始後、スペイン語圏の人たちから「すごく良かった」という反応をいただいたんですね。そこは不安や未知の要素があっただけに、より大きな達成感を感じましたね。

森山 ネイティブでスペイン語を話す方いわく、mabanuaさんの歌は「南米寄りのスペイン語」の発音らしいですよ。

mabanua そこは日本語寄りのスペイン語じゃなかったんですね(笑)。

森山 それくらい自然に聴こえたみたいです。

mabanua 英語と違って発音がわからないんですよね。自分の中ではスペイン語っぽく歌ってみても、「それは発音がネイティブっぽくない」と言われたりして。

森山 スペイン語も場所によって発音が全然違いますよね。

――「El Canto del Colibri」は、ハチドリのモチーフを含め本作のキーになっていますよね。第1話ではチーフ(CV:田中美央)がギターの弾き語りで歌いますし、「チーフのテーマ」「ハチドリの歌」として劇中の様々な場面で使用されます。

mabanua チーフが劇中で弾いているギターも、自分が家で(弦の)押さえ方の動画を撮って監督に送ったんです。だから自分が弾いている手の動きがそのままチーフの動きになっていて。映像を観たら、ちゃんと「ここはDを弾いてる、これはFを弾いてる」っていうのがわかるんですよね(笑)。ストロークの感じもちゃんと再現していただいていました。

森山 でも、僕は音楽については素人なので、曲を聴いているだけだとわからなかったんですが、右手はよく動くけど、コードを押さえるほうの左手は案外動かないことに動画を観てから気づいて。逆の方向から撮ってもらえばもっと画面映えしたのかも……と、あとから反省しました(笑)。

――監督が、映像と合わさったときに特に相乗効果を感じた楽曲はありますか?

森山 どの曲も思い入れはありますが、自分が特にこだわって使ったのは試合中に流れる音楽、曲名で言うと「The Climax」ですね。クライマックスの試合で使用するために発注した太鼓がメインの楽曲なんですが好きすぎて一話からほぼフル尺で使ってしまいました。『メガロボクス』の劇伴は贅沢な作り方をしてもらっていて、劇伴にしては1曲の尺が結構長いんですよ。

mabanua たしかに(笑)。

森山 劇伴というのは基本、ループできるような形で制作することが多いのですが、『メガロボクス』の場合は、1曲の中にイントロ、転調、盛り上がりといった展開のあるものが多くて、この曲も2分半ぐらいあるんですね。ただ、それぐらいの長さの曲を丸々使えるシーンというのは、実際のアニメではあまりなくて。でも、僕は試合のときになるべくこの曲を長くかけたいがために、できる限り試合のシーンが続くようにコンテを切ったりして。この曲に限らず今作は、「この曲をここで使いたいから」という理由から逆算してコンテを描くことが多かったですね。

――mabanuaさんの音楽に影響を受けた部分もあったわけですね。

森山 それはモロにありますね。そのために1曲の構成を長くしてもらったので。

――音楽と映像のセッション的な側面もあったと。mabanuaさんの作った楽曲が作品にどのようなインスパイアを与えたのか、ぜひアニメやサントラを通じて確かめてほしいですね。

mabanua そういえばSNS上では、オイチョの人気がすごいんですよ。タイムラインの半分ぐらいがオイチョになることがあって(笑)。なのでサントラが配信されたら、意外と「he theme of Oicho」の再生数が多くなるんじゃないかと思っていて。

森山 僕もそう思います、あの曲はかわいいですし。僕のお気に入りは「Buzzing」ですね。この曲、たしかmabanuaさんに2パターン出してもらって。本編での使いどころが難しかったですがアンニュイで気怠い感じがいいんですよね。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
PHOTOGRAPHY BY 堀内彩香

●配信情報
「NOMAD メガロボクス2 オリジナルサウンドトラック」

2021年6月28日(月)AM 0:00~配信開始

品番:TMS-109
発売元:トムス・ミュージック
発売形態:配信
価格:配信アルバム ¥2,400円(税込)
配信シングル ¥150円(税込)
配信サイト:iTunes、Spotify等
楽曲数:38曲

<収録曲>
The theme of the NOMAD
Conflict
Determination
Jimmy Gym
The theme of the NOMAD (Unplugged)
El Canto del Colibri (Instrumental)
El Canto del Colibri (Chief Ver.)…作詞:佐々木 誠、歌唱:田中美央
Mourning
Cheerful
The Climax
Antagonist
In Trouble
Buzzing
The theme of Sachio 2
The theme of Sachio 2 (Sollow)
The theme of Oicho
The theme of Liu (Slow)
The theme of Liu
Rosco
Homecoming
Homecoming (Slow)
The theme of Mac (Slow)
The theme of Mac
Carried Away
The March
Disquiet
Irritation
Warm Embrace
Insecure
Dialogue
Dialogue 2
Dialogue 3
Reaching Out
Thaw
Rise Up / Diamond in the Sky…作詞:Michael Kaneko、歌唱:泉りん
El Canto del Colibri…作詞:佐々木 誠、歌唱:mabanua
The theme of the NOMAD (Opening ver.)
El Canto del Colibri (Ending Ver.)…作詞:佐々木 誠、歌唱:mabanua

●作品情報
オリジナルTVアニメーション『NOMAD メガロボクス2』
各配信サイトにて配信中
Blu-ray BOX(特装限定版)7月28日発売

【イントロダクション】
もう一度、夢を生きる――
肉体とギア・テクノロジーを融合させた究極の格闘技“メガロボクス”。
その頂点を決めるトーナメント“メガロニア”に、ギアを着けず生身の体で挑んだボクサー“ギアレス・ジョー”。最下層の地下リングからたった三か月で頂点へと駆け上がり、奇跡の優勝を遂げた伝説のチャンピオンの姿に人々は熱狂し夢を見た。
しかし、それから7年後、“ギアレス・ジョー”は再び地下のリングに立っていた。傷だらけの体にギアを装着し、自ら“ノマド”と名を変えて……。

原案となる『あしたのジョー』は日本における青春漫画の金字塔であり、ボクシングにすべてをかける主人公・矢吹丈の生き様を描いた作品。1968年から1973年まで週刊少年マガジン(講談社)にて連載され、多くの人々の間に共感を巻き起こし、不動の人気を確立した。
その連載開始50周年を記念して、2018年4月より放送されたTVアニメ『メガロボクス』は、『あしたのジョー』の作品世界を再構築し、近未来を舞台にギアを装着して闘う格闘技“メガロボクス”に関わる人間たちの熱いドラマを描き、挑戦的なオリジナル作品として人気を博した。特にセル画風アニメを意識したレトロな画面作りが高評価を受け、米クランチロールが主催する“アニメアワード 2019”では最多となる8部門にノミネートされるなど、国内だけでなく海外ファンからも絶大な支持を得た。

3年ぶりの続編となる本作は、前作のメインスタッフ・キャストが再集結し、更なる結束で新たな物語を紡ぐ。
監督は『メガロボクス』で鮮烈なデビューを果たした森山洋。『LUPIN the Third -峰不二子という女-』『進撃の巨人』『甲鉄城のカバネリ』など数々の話題作でアートワークを担当し、その類まれなビジュアルクリエイティヴの才能は本作でも遺憾なく発揮されている。
脚本には『深夜食堂』をはじめとする映画、ドラマ作品で活躍する、真辺克彦と小嶋健作が再び名を連ね、新たに続く物語を情感豊かに描いていく。
音楽は国内外多数のアーティストとのコラボレーションやプロデュースの他、自身もドラマー、シンガーとして活動するmabanuaが担当。
前作ではブラックミュージックを取り入れた楽曲でジョーたちの生き様を浮かび上がらせたように、今作でも作品に寄り添う確かな音楽を紡いでいる。
アニメーション制作は、TVアニメ『あしたのジョー2』を制作した東京ムービー新社を系譜に持ち、『名探偵コナン』『ルパン三世』シリーズ等を手掛けるトムス・エンタテインメントが前作に引き続き手掛ける。

かつて、”ギアレス・ジョー“が果たした夢。その続きの中で人々は何を見るのか。

【スタッフ】
原案:「あしたのジョー」(原作:高森朝雄、ちばてつや/講談社刊)
監督・コンセプトデザイン:森山 洋
脚本:真辺克彦・小嶋健作
キャラクターデザイン:倉島亜由美
サブキャラクターデザイン:金田尚美
音楽:mabanua
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント
製作・著作:メガロボクス2プロジェクト

【キャスト】
ジョー/ノマド:細谷佳正
南部贋作:斎藤志郎
勇利:安元洋貴
サチオ:村瀬迪与
ほか

(C)高森朝雄・ちばてつや/講談社/メガロボクス2プロジェクト

関連リンク
『NOMAD メガロボクス2』 公式サイト
https://megalobox.com/

『NOMAD メガロボクス2』公式Twitter
https://twitter.com/joe50_megalobox

「NOMAD メガロボクス2 オリジナルサウンドトラック」配信用URL
https://nex-tone.link/A00088509