メリオダスをはじめとした〈七つの大罪〉の活躍により、人間と女神族、妖精族、巨人族ら四種族が魔神族と争った聖戦が集結し、平和を取り戻した世界で、〈七つの大罪〉たちはそれぞれの道を歩んでいた。しかし平穏な日々の中にあった彼らの前に妖精族と巨人族の軍勢が!率いるのはかつて姿を消した二代目妖精王・ダリアと巨人の名工・ダブズ。
彼らの目的は一体なんなのか。再び混沌へと向かう大地に、〈七つの大罪〉が立つ。7年の時を掛けて完結したアニメ『七つの大罪』。その先の物語が綴られる『劇場版 七つの大罪 光に呪われし者たち』が大ヒット上映中となる今、エリザベスを演じる雨宮天に話を聞いた。

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――アニメ『七つの大罪』のテレビシリーズが一度完結しましたが、デビューしたての頃からエリザベスを演じてこられて、雨宮さんにとって彼女はどんな存在になっていますか?

雨宮天 もし7年前にエリザベスと出会い、その声を担当させていただいていなかったら、今とは違う役者になっていたんじゃないかな、というくらいエリザベスから与えてもらったものは大きいなと感じます。エリザベスを演じたいと思いはしたものの、まさか自分がこの役に決まるとは思いませんでした。明らかに自分とは性格が似ていなかったですし、「エリザベスがどうしてこのシーンでこういう言葉を選ぶのだろう」ということが1回では共感できないことがあって。そこを一つひとつ、理解していく作業がすごく大きかったと思います。それを繰り返してきたおかげで、私になくてエリザベスが持っているものを少しずつわかるようになりました。役者として私を成長させてくれた存在だと思います。何が似ていないって、私はそんなに愛情が深いタイプじゃなくて……(笑)。母性のないタイプなので、特に自分に近い人になら愛情を注ぐことはできますが、エリザベスの愛情って広くて、博愛や慈愛の心が強いので、それは自分にはない部分で難しかったです。
でも『七つの大罪』ってエリザベスだけじゃなく、みんながそれぞれの愛の形を持っていて、それをすごく伝えてくれる物語なので、エリザベスや大罪を通して愛の形や表現方法をすごく学びました。

――『劇場版 七つの大罪 光に呪われし者たち』の製作決定を聞いたときのお気持ちを教えてください。

雨宮 前に一度劇場版があったので、また劇場版があることを想像もしていなくて「2回も劇場版になるんだ!?」とすごくびっくりしました。前作も鈴木央先生が物語を描き下ろしてくださったので、もしかしたら今回も描き下ろしかなと思い、ストーリーが楽しみでした。

――事前に“こんなストーリー”というのはご存知だったのでしょうか。

雨宮 ふわっと噂で。原作の最終話の後の、描かれなかった話をやる、ということは少し経ってから聞きました。

――テレビシリーズが最終回を迎えましたが、劇場版の収録とテレビシリーズの収録って時期としても重なっていたと思います。それぞれに時間軸の違う物語を演じるにあたって意識をしたり、整えたものはありましたか?

雨宮 劇場版の映像をいただいた時点で絵がほぼ完成に近い状態だったので、キャラクターの感情がわかるような形でした。なので、その表情からエリザベスがずっと楽しそうな様子が見て取れたので、考えるまでもなく、長年の戦いや自分の心にあったものが晴れて開放されて、やっとメリオダスと一緒に心から楽しめる状況になったんだなということがすごく伝わってきました。たとえば、なにか問題が起こっていそうだからみんなでそこに向かおうというときも、その先で何かがあるわけだからシリアスに構えても良さそうなんですけど、その移動中ですらエリザベスがちょっと楽しそうなんですよ。だからきっとその解放感みたいなものはこの劇場版でしか見られないエリザベスなのかなって思うんです。
大きな戦いを経たからこそ出るルンルン♪なエリザベスなんだろうな、と思いました。

――序盤の、2人きりで思い出の地を巡っているところなんて、かなりプライベートモード全開な感じですよね。

雨宮 そうですよね。だからなんの緊張や構える気持ちもなく、ただ穏やかにメリオダスと話をして、常にルンルン♪で。「♪マーク」がつくような雰囲気があるというのは新鮮な感じがしました。

――これまで緊張感のあるなかでエリザベスを演じてきて、その後のタイミングのリラックス感というのはご自身で演技プランとして持っていかれたのでしょうか。

雨宮 まず台本をチェックする前に、軽く映像を流しながら「何分何秒にセリフがはじまる」といったタイム取りをするんです。もうその時点で表情から(エリザベスの様子が)伝わってきたので、プラン立てするまでもなかったです。表情に導かれてお芝居ができた感じでした。

――テレビシリーズに続いて、原作になかったシーンが劇場版として描かれるということで、その劇場版の中での印象的なシーンや、大切に演じたシーンはあったのでしょうか。

雨宮 やっぱり最高神とエリザベスが会話をすることが、今までは全くなかったので、そのシーンは台本をいただいたときから楽しみで。それは演じる楽しみというよりも早く劇場版で見たいなという楽しみがすごくありました。
でも自分が大切に演じようと思ったシーンは、最高神というよりはもっと身近な、エリザベスの愛する存在であるメリオダス、そして父上であるバルトラとの会話のシーンでした。

――そんな中で苦労したシーンというと?

雨宮 やはり最高神とのシーンは苦労しましたね。そもそもの存在として、サイズ感が違うんです。物理的に大きな存在だから、まずはエリザベスの話し方としても1対1で近い距離で話しているようですけど、呼び掛けるようなしゃべり方になっていて。でもその言葉の中には今までの積年の想いみたいなものもあるので、その感情を乗せるのが難しかったです。遠くに呼び掛ければ掛けるほど、繊細な感情を乗せるのは難しくなりますし、最高神に対してエリザベスが長くしゃべっているシーンもあるんですが、ずっと同じトーンだと聞いている人もだれてしまうし、エリザベスの伝えたいことが何かわからなくなってしまいます。大切なことがいっぱい詰まっている長セリフなんですが、どこを一番伝えたいかを組み立てることも考えました。現場でもディレクターの方と相談しながらやらせていただいたシーンなので、その場面は苦労しました。

――今回の劇場版のアフレコでの共演者の皆さんとの時間はどのような様子でしたか?

雨宮 劇場版のアフレコは完全に梶さんと2人きりで、自分たちがしゃべっているシーンをかいつまんで録っていくような収録スタイルでした。そんなに雑談の場面があったわけではないんですけれども、その中でメリオダスとエリザベスが2人だけになって、メリオダスを膝枕しながら会話するシーンがあるのですが、そのシーンのテストを終えたときにすぐに梶さんが「今のセリフの言い方、すごく良かった!」と言ってくださって。「すごく愛情を感じた」と本当に心から思ってくださったことが伝わってきたので、それがすごく嬉しかったです。わたしにとっては愛情の表現は自分の中でずっと大きな課題で壁だったので、それを劇場版の最後の最後で表現でき、梶さんの心からの言葉として聞けたことがすごく嬉しくて。
大事な思い出になりました。

――梶さんはメリオダスとゼルドリスの二役でしたが、収録を近くでご覧になってどのように感じていらっしゃったのでしょうか。

雨宮 私との収録の前日に、梶さんはゼルドリスとしてゲルダ(甲斐田裕子)と録っていて、翌日にメリオダスとしてエリザベスと録っていました。なので、私としては今回の劇場版の見どころの1つとして、本編や原作には描かれていなかったゲルダと二人きりのときのゼルドリスの表情が楽しみです。私が映像をチェックした時点ですごく目がキラキラとした少年のような様子で、なおかつゲルダに甘えている様子もあったので、どういうふうに演じたんだろう、どんなシーンになっているんだろうというのはすごく楽しみにしています。

――ご自身の部分の収録しか知らないとなると、現時点で「ここを見てみたい」「このシーンのセリフを聞きたい」というものもあるかと思います。新しいキャラクターもいますし、ゼルドリスとゲルダのシーン同様に楽しみにしている場面を教えてください。

雨宮 メリオダスとゼルドリスが一緒に戦う場面は、どちらも強いですし、きっとかっこいいと思うんです。共闘シーンは楽しみですし、最高神とエリザベスのシーンも一緒には収録していないのでどんなふうになっているのか、早く観たいです。

――今回の劇場版以前にも梶さんとはお芝居のお話を色々とされてきたと思いますが、印象に残るお話などはありましたか?

雨宮 どういう話の流れだったかは覚えていないのですが、全然つたない新人の私の演技などに対して、梶さんは「下手だ」とか思うことができないそうなんです。なぜならそれは自分には絶対に出せない声を出しているから。「自分とは違う声を出しているだけでもすごいと思うし、新人のときにしかできない演技があるし、その人にしかできない表現というものが絶対にあるから下手とか上手いとかよくわからない」って梶さんがおっしゃったときに、なんて素敵な人なんだろうと思いました。
それも1つ、梶さんを尊敬する大きな理由になっています。それは私が新人の頃、何年も前に伺ったお話なんですが、忘れられないくらい深く残っています。梶さん含め、私からしたら周りはほぼ全員が先輩の方々でしたが、皆さんがとても和気あいあいとした現場の雰囲気を作ってくださったので、私も新人である自分なりのエリザベスを演じることができたと思っています。変に委縮せず、いい緊張感といい居心地の良さの中でやることができたというのは大きかったかなと思います。

――その新人の頃から7年に渡ってエリザベスを演じてこられたわけですが、この『七つの大罪』がテレビ、そして劇場版で一つの終わりを迎えるなか、改めて『七つの大罪』という作品の魅力を教えてください。

雨宮 『七つの大罪』は魅力が多すぎるので、どれを伝えれば良いのか……。でも、だからこそ老若男女、どの方にも刺さるんじゃないかと思っています。大人の人にも刺さるのはやはり『七つの大罪』が深い愛の物語で、色んな戦いはあるけれどもこちら側にも敵側にもそれぞれ根底には愛があるんだな、というところがすごく共感できたり刺さる部分なんだろうと思います。そして、子供に刺さる理由としてはとにかくかっこいいですよね。戦闘シーンがすごく決まっていて、キャラクターの技もそれぞれの個性を活かしたものが多いので素敵だなと思います。それに、女性ならカップリングの中での、恋人にしか見せない表情をみせるという素敵さもあるので。幅広く色んな方に支持されると思いますし、そこが魅力だと思っています。
私自身もすごく好きな作品です。

――ストーリーがハッピーエンドへと向かっている今ですが、最初の頃と印象が変わってきている部分はありますか?

雨宮 最初の頃は戦いもそこまで激しくなくて、戦っている聖騎士も面白い人が多くて。要となる物語はありながらも、わりとみんなの雰囲気が柔らかかったんです。エリザベスとメリオダスの絡みも昔の方が色々あったので(笑)。ギャグ要素がすごく多かったんですが、やっぱり〈十戒〉が出てきてからはシリアスな展開になっていって。そうするとキャラクター一人ひとりの持っているドラマもより深く掘り下げられていくので、話が重くなるぶん、一人ひとりの心の奥底のストーリーもたくさん見えてきました。感情移入して没入して涙を流したりするのはやっぱり後半の方が強かったかなと思います。

――その『七つの大罪』に於いては、エリザベスを演じるだけではなく、“アーティスト・雨宮天”として主題歌もご担当されてこられています。物語にご自身に寄り添ってきた感想を教えてください。

雨宮 「誓い」から始まり、「Regeneration」、そして今はオープニングの「永遠のAria」を歌わせていただいてますが、そのときそのときのエリザベスの心情というのは楽曲に大きく反映させてもらっていますし、私もその時々の感情を込めて歌わせていただいています。たとえば「誓い」が流れるタイミングでは、エリザベスの中でのメリオダスへの愛おしさや優しい気持ちがすごく強いエピソードでしたし、「Regeneration」になるとエリザベスがより成長をして、自分でも立ち上がれるような強さを得て、そして「永遠のAria」では今までを振り返って総括するような戦いも滲むなかでの、根底には愛情があって、守り抜きたいんだという意思が込められていたり。『七つの大罪』の物語に合せてもいますし、歌う身としても演じさせてもらっているエリザベスのことを考えながら歌ったので、それが良い形でそれぞれの曲の表情として出ていたらいいなと思います。

――さらに今回の劇場版の主題歌は岡野昭仁さんによる「その先の光へ」です。こちらの曲の印象を教えてください。

雨宮 私もコーラスとして参加させていただいたのですが、この曲は澤野弘之さんが作ってくださいました。鳴っている低音なのか使っている楽器なのか、澤野さんの音楽という感じをすごく感じるんです。澤野さんの楽曲からはいつも大地の存在を感じるのですが、音としては低くて重いものを感じるんです。そこに岡野さんの力強さはあるけれど軽やかな歌声が乗っていて。そのマッチングがすごくかっこいいなと思いましたし、『七つの大罪』としても劇場版としてもすごくピッタリな楽曲で。この物語の最後に流れると思うと、胸が熱くなるな、と感じます。

――コーラスされての感想を教えてください。

雨宮 劇場版の主題歌で私たちの声を入れる、というアイディアを聞いたときはすごく嬉しかったです。実際はほかの方の声も混ざるので、それほど聴こえてくるわけではないと思いますが、気合を入れて臨みました。劇場でも聴きたいです。

――そんな7年の想いも詰まる今回の『劇場版 七つの大罪 光に呪われし者たち』ですが、雨宮さんの個人的な見どころを教えてください。

雨宮 私としては国王バルトラとのシーンが好きです。エリザベスを演じている私からしても、最高神はエリザベスの母親ではあるけれど、本当のエリザベスの家族は血が繋がっていないけれど父上であるバルトラだと思っていて。その2人のシーンは全然派手さはなく、本当に普通の会話をしているだけなんですが、そこですごくお互いへの愛情を感じられるんです。私にとってはそこが本当に好きなシーンなので、個人的にはそこ“も”観てほしいです。

――劇場版を楽しみにしている皆さんへ最後にメッセージをお願いします。

雨宮 一回目の劇場版のときから『七つの大罪』は本当に劇場映えすると思っていました。今回も前作に負けないくらいのかっこいい戦いのシーンもありますし、それと一緒に『七つの大罪』のテーマである愛の物語がそこかしこに散りばめられています。本編では描かれていない、たとえばメリオダスとゼルドリスの兄弟愛も深く描かれていれば、エリザベスとバルトラの親子愛。決して派手ではないシーンにもすごく大切な愛の物語が詰まっているので、そこをぜひ観ていただけたらなと思います。

INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
PHOTPGRAPHY BY 草刈雅之



●作品情報
『劇場版 七つの大罪 光に呪われし者たち』

公開中

【スタッフ】
原作:鈴木 央『七つの大罪』(講談社「週刊少年マガジン」)
監督:浜名孝行
脚本:池田臨太郎
アニメーションキャラクター設定:西野理惠(作画組)
美術監督:空閑由美子
色彩設計:桂木今里
撮影監督:近藤慎与
3D監督:大嶋慎介
編集:小野寺桂子
音響監督:若林和弘
音楽:KOHTA YAMAMOTO / 澤野弘之
主題歌:岡野昭仁「その先の光へ」(SMEレコーズ)
制作:スタジオディーン
製作:「劇場版 七つの大罪 光に呪われし者たち」製作委員会
配給:東映

【CAST】
梶 裕貴 雨宮 天 久野美咲 悠木 碧 鈴木達央 福山 潤
髙木裕平 坂本真綾 杉田智和 中村悠一 神尾晋一郎
川島 明(麒麟) 井上裕介(NON STYLE) / 倉科カナ

© 鈴木央・講談社/2021「劇場版 七つの大罪 光に呪われし者たち」製作委員会


関連リンク
『劇場版 七つの大罪 光に呪われし者たち』公式サイト
https://7-taizai.net/
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