翻ると、このバンドと『進撃の巨人』との関係は深く、かまってちゃんは同アニメのSeason 2のEDテーマ曲「夕暮れの鳥」も担当している。そこには原作者の諫山 創がかまってちゃんの大ファンで、彼の希望によってバンド側に楽曲制作が依頼された流れがあるのだ。「僕の戦争」はその第2弾だったということになる。
そして今月、この「僕の戦争」と「夕暮れの鳥」がA/B面となった7インチのアナログ盤が発売されることになり、リスアニ!WEBではかまってちゃんの特集を組むこととなった。その第一回目となる今回は、『進撃の巨人』の楽曲を通してこのバンドに焦点を当てる。登場してくれるのは、の子(vo、g)とmono(key)のオリジナルメンバー2人。曲を聴いて気になっていた人には、ぜひここから神聖かまってちゃんのディープすぎる沼にハマってみてほしい。
「神聖かまってちゃん」と『進撃の巨人』に通ずるものとは?
――というわけで今回、「僕の戦争」と「夕暮れの鳥」がアナログ盤になってリリースされることになったわけですが。
の子 まあアナログ盤になっただけで、全然別に、何もないですね!CDになろうがアナログになろうが、形が変わっただけ。でもファンからはマテリアルとして、物として欲しいという意見がやっぱりあるので。僕もCD世代なんで、そこの価値はわかりますけど。
――こうして今になって出る背景としては、やはり「僕の戦争」が大きく支持されたことがあるわけですが。今この曲については、どう思ってます?
の子 この曲は出来て1年経って、ライブでもガンガンやってきて……やり飽きた、って感じ(笑)。
mono わははははは!
の子 ぶっちゃけ(笑)。いや、違うんです!コロナになって、2部制のライブ(1日2回公演)になりまして、こっちも気ぃ遣って1部と2部、どっちも「僕の戦争」やろうって決めてやったものの、それがどんどん足枷になって……(笑)。
――(笑)。もうちょっと前向きなこと言ってください。
mono まあね。短期間でかなりやったからね。
の子 俺も動きがずっと同じだし。パフォーマンスの。
――でもやっぱり生で聴くと盛り上がるよね。monoくんはこの曲をライブでやってて、どうですか?
mono いや、やっぱりテンション上がりますよ!あと、ピアノのフレーズがすごく良いんですよね。ここ最近で、すごいお気に入りの曲です。
――お客さんも「待ってました!」みたいな感じになってるもんね。そして今回のアナログ盤では、ジャケットで2曲それぞれ、諫山先生のイラストが使われていますね。
の子 あっ、はい、諫山さんにジャケットを描いていただき。今回も描いていただいて、ほんとにありがたいですね。
mono ありがたいですね。
の子 昔からアーティストにも愛されるバンドなので、そういう縁でアニメのタイアップをいただいてたり、色々して。なんか……頑張ってこう!って。仕事を。
――そもそもこの2曲とも諫山先生サイドからオファーがあって生まれたわけですが、それ以前からかまってちゃんのメンバーは『進撃の巨人』が好きでしたよね?
の子 あ、はい。
mono そうですね。
――それはですね、10年ぐらい前、僕がたまたま楽屋にいたときに、みんなが『進撃の巨人』の話をしてたのを覚えてるんですよ。まだアニメ化される前で、コミック版の話題をね。「こないだの回はああなったけど」って。
の子 ああー。それ、ちばぎん(ベース/去年1月にこのバンドを脱退)がいたときですね、彼は楽屋でそんな話をしてるので。
mono そうだね。なるほどなるほど。
――そう、ちばぎんくんが主に話してた記憶がある。
の子 そうだと思いますよ。諫山さんが言ってくれたんですけど、ニコニコ動画で……僕、セーラー服着て「踊ってみた」みたいな動画上げてて。その一風変わった「踊ってみた」動画で諫山さんが知ってくれたことがきっかけなんですよ。
――それから諫山先生がかまってちゃんのファンになって、自分のアニメ作品に起用するようスタッフにお願いされたらしいですね。
の子 だから、やっぱ投げとくのはほんと大切だなって。なんでもいいから。
mono 誰が見てるか、わかんないもんねぇ。
――で、依頼が来たのが2016年の終わり頃なのかな。それが「夕暮れの鳥」となったわけですけど、そのときにどんなオファーがきたか覚えてます?
の子 エンディング(で使用する曲)って言われたんだっけな?とりあえず、そういった話がきまして、おっ!と思って。で、曲作って、みたいな。もう、たったそんだけですけど。
――諫山先生がブログで書いてらっしゃったのは、「コンクリートの向こう側へ」みたいな感じの曲をリクエストしたという話なんですけど。
の子 ああ、でもそれは今回もそうですし。諫山さんからそういう感じっていうお話がありましたね。まあ特有の世界観の楽曲があるんで、うちらには。
――の子くんはどういうイメージで「夕暮れの鳥」を書いたんですか?
の子 ……でも結局、神聖かまってちゃんの新曲として書いてますね。こう言っちゃあ元も子もないんですけど。それは……やっぱり『進撃の巨人』の場合って、作品の世界観とか、そういったものが(かまってちゃんの楽曲と)通ずるところがあるんで、すごくやりやすいんですよ。「夕暮れの鳥」の時もそうですし、「僕の戦争」もそうなんですけど、神聖かまってちゃんの新曲として書いて、それでもう、繋がるんですよ。実際、マジで。むしろそういったところからしか(依頼が)こないというのはあるけど。通ずるから最初からこのバンドにきてる、というのはあるわけで。
――(笑)。なるほど。つまり依頼してくるほうが……。
の子 もう、わかってるんで。そこで「こういう雰囲気で」みたいなものは受け取って、それで搾り出して作った、みたいな感じですね。
――たしかに「夕暮れの鳥」の時も、かまってちゃんのファンには違和感がなかったと思います。シューゲイザー的なサウンドだし。ただ唯一、あるとしたら、英語歌詞ということくらいじゃないですかね。
の子 ああー!そこはちょっと……あれですね。あんまり良い思い出じゃないですけど、締め切り1週間前で「英語にしてくれ」って言われて。僕ら、ツアー中で、ビジネスホテルでそれを言われて、もう頭きて!それは覚えてます。こんな良い曲できて、締め切り1週間前で、歌詞を英語にしてくれって。それで僕、勢いでGoogle翻訳使って。アプリの。
――そうなんだ?英語詞にするのに?
の子 そうなんです。だって1週間でやる感じだったんで。それで歌詞、英語にして。ただ、タイトルは「夕暮れの鳥」にしました。だから「夕暮れの鳥」の歌詞は、ちゃんとした英語じゃないんですね。どこか間違えてんですよ。
――Google翻訳経由だからね(笑)。ということは、日本語バージョンでも出来上がってたってこと?
の子 そうですね。元々は日本語の歌詞で作ってまして、それをGoogle翻訳にぶち込んで、みたいな。それで無理やり英語にした記憶がありますね。
――そこは海外のファンもアニメを観るから、それでスタッフ側も英語がいいと思われたのかな?
の子 いや、雰囲気ですね。「そういったものが欲しい」「英語とか」みたいな。だから今回の「僕の戦争」はそういう経験を踏まえたうえだったんで、最初から翻訳家をつけて英語にしようって。これは僕からの提案で、そうして歌詞を作ったんですよ。
――今回も英語でという話だったんですか?
の子 いや、そういったのはなかったんですけど。前回の苦い経験があるから最初から英語で、タイトルは日本語でっていう。そこは自分の中で決めてやってましたね。
神聖かまってちゃんみたいなものがこうなってるのは、まだ救いはあるんだなって。(の子)
――そして「僕の戦争」については、何と言っても聖歌隊がフィーチャーされて、非常に分厚いサウンドになっているわけですが。
の子 そうですね。聖歌隊は常々使いたいと思ってたんですが、今回お金がいっぱい入ったんで。やっぱりお金ですよ。
――(笑)。制作費が出たってことですね。
の子 制作費ですね。悲しいこと言いますけど、やっぱお金ですよ。制作費!今までも聖歌隊使いたいって言ってきたんですけど、そこはお金の、予算の問題があって。でも今回の『進撃の巨人』はめちゃくちゃ出るんで、もうふんだんに使って。やりたい放題やったって感じですね。
――で、この曲は後半で、日本語の歌詞になりますね。
の子 そこはシーンを一気に変えてる、ような……変えてるようで変えてないっていう狙い。もう完全な狙いですね、それは。やっぱり神聖かまってちゃんの新曲として書いてるんで、そこも英語の歌詞なんですけど、フタを開けてみたら全部繋がってるっていうか。
――そこがすごいですよね。この構成は最初から考えたんですか?
の子 いや、流れですね。色々考えて、流れで(音のアイデアを)ぶち込むだけぶち込んで、みたいな。
――monoくんは「僕の戦争」に最初、どんな印象を持ちました?
mono 単純に(主題歌として)ハマるだろうな、という気はしました。アニメの内容というか、(ストーリーの)どこら辺からというのは聞いてはいたので、ウォーッ!っていう感じじゃないだろうなというのは、なんとなく予想していて。
――じゃあ、あのイントロの民族音楽っぽいフレーズもあった?
mono はい、もう。その雰囲気だったと思います、たしか。
――の子くんには、実際に聖歌隊や菅や弦が絡んでいくとすごい曲になっていくだろうな、という感じはありました?
の子 それはもう、自信はありましたね。うん、けっこう。
――なるほど。で、それだけの曲になりましたね。今でも色んなところで聴くもんね、この歌。
の子 まあ、そうですね、色々。テレビでも。ありがたいですよね。TikTokでも、ネット上でも、どこでも。野球選手も使ってくれてるみたいで……塩見泰隆(東京ヤクルトスワローズ所属の外野手)選手?ありがたいです。
――あ、そうそう!僕も神宮球場に野球を観に行ったら、彼がバッターボックスに入るときにこの曲が流されて、「おお、使われてる!」と思って。
の子 ありがたいですよ。だからこうして『進撃の巨人』というデカいものを通して、また神聖かまってちゃんが世界に知られていってるのは、僕からしても面白いですね。で、そういう世の中であることがまた嬉しかったりします。神聖かまってちゃんみたいなものがこうなってるのは、まだ救いはあるんだなって。俺も楽しいですし……さっきもお祭りって言いましたけど。別に神聖かまってちゃん、やってることって、ずっと変わんないんですよ。これからも変わんないと思いますし。軸となるものは……表現したいものとかはありますけどね。で、それがゆえに、なかなか理解されないところが今でもあったり、ファン減らしたり、色々あるんですけど。それでも今の現状は面白いですね。
――monoくんはどう思います?色んな方面からこの曲へのリアクションがあると思うんですけど。
mono いやぁ、単純に『進撃の巨人』ってすごいんだなって、改めて思いましたよ。で、その力はもちろんですけど、今回本当に良いものができたなって思うんで。だから、言い方は悪いですけど、そんなに驚いてはいないですね。「だよね」とは思いましたよ。
――それだけ自信があるものが出せたということですね。で、さっきも話にあったけど、僕も『進撃の巨人』とかまってちゃんの世界には通じるものがあると思うんですよ。ご本人たちとしては、それはどういう点だと思います?
の子 うん、まあ普通に……パッと脳内に浮かんだのは、いじめられっ子、とか。スクールカースト下の下の下、とか。そこで叫んでる、とか。こう言うと、『進撃の巨人』のファンタジーとは対を成すことを言ってるようにも聴こえるかもしれないんですけど、そうでもなくて。(『進撃の巨人』は)ダークファンタジーはダークファンタジーなんですけど、スクールカーストなり何なりの、リアル社会にあるものが……上手くあると思うんですよ。諫山さんの表現に関しては。その表現というところで合致してるんだと思います。実際それで諫山さんが僕らの音楽を好きになってくれたのも、当然ありますし。僕がニコニコ動画でああいう奇抜なことやってるのが出会いのきっかけだったのも、そうだと思いますし。なんか絶妙なところで線が繋がってる感じはあるんじゃないですかね。
――うんうん、なるほど。monoくんはどうですか?
mono やっぱり復讐的なところがあるのかな、と。イメージとしてね。『進撃』もそういうところがあると思うし。共通点はそこかな、って。
――そうですね。それプラス、僕が感じるのは、作品に緊張感があって、その抑圧されてるなかで大切なもの、かけがえのないを見出そうとしたり、こちらはそれで生きていることを実感できたり、というところも通じるんじゃないかなと思います。
の子 ありがとうございます!……うん、表現してる側はゲロ吐いてるような感じなんですよ。溜まりに溜まって、バーッ!て出てるっていう。メンヘラの爆発みたいな、病んでる人のウワーッ!って感じですね。そういうタイプで、(諫山先生と)似てるところがあるなって、僕も思います。そういうスレスレな感じというか……僕の、自分の経験から言えば、結局それは人間性なんですよね。それが血となり何となり、という感じの。
――はい。それが脈々と自分たちの音楽にも生きていて。
の子 それは昔からそうですね。だからそこがまた、時が経って、僕も10年20年やってきて、どういう変化があるのかと言えば……客観的に見て、神聖かまってちゃんとか自分の曲とか……良い感じに成長してってんだな、と思いますけどね。自分の創作面に関しても。それはスキルであったりなんですけど。それはアーティストとして、単純に思います。今回の「僕の戦争」なんかも特にそうですけど、そういうものを出せてるんで。
――そうですね。そう思います。
の子 うん。それでも根底は変わってないんですよ、やっぱり。「学校に行きたくない」とかを作った10代の時のああいったものは……「ロックンロールは鳴り止まないっ」でもいいんですけど。だから根底は変わらないなかで、広がった……という言い方は、自分ではあれなんですけど。
の子 でも……わかんない。悪く言えば、上手くなった、とかもあるのかもしれないですね。あんまり考えたくはないですよ、自分では。その時に、動物的にやってるのが一番なんで。
――はい。それはこっちの係ですから。
の子 そうですね。そう、ツッコミじゃないので。ボケるのはこっちなんで。漫才で例えればボケ側なんで。でも自分でも日々、ツッコミ側というか……冷静に見てますけどね、当然。はい。
――だから成長はしてるけど、でも貫かれ続けてるものはあると思います。そこは、の子くんの業(ごう)というか、変わらないところ、変えられないところなのかなと。で、それがあるからこそ、やり続けてると思うんですよね。
の子 まあ、そうですね。それは(自分個人の)人生としてもあると思いますし……神聖かまってちゃんとしても、人生としても、色々あると思いますね。これ以外にないですからね、もう。人生、もはや。
――その部分をこの「僕の戦争」のジャケットの諫山先生のイラストは、すごく表してると思うんだよね。教室の絵で、そこで戦いがあって、それはまさにかまってちゃんらしさでさ。
の子 良いですよね、改めて見ても。シュールで。笑っちゃいましたもん。
mono (笑)。ビックリはしたけどね。
――こうしてレコード盤になると喜ぶファンも多いんじゃないでしょうか。
の子 レコード盤は初めてなんですかね?うちら。レコードって今はみんな、飾るとか……流行ってるんでしたっけ?プレイヤーってみんな持ってるんですかね?
――持ってる人も多いけど、持ってない人も多いと思いますよ。で、レコードをアイテムとして持っていたいという。
の子 ああ、アイテムとして。やっぱり飾るとかなのかな。
――良いと思いますよ。そういう楽しみ方も。
の子 うん、良いと思います。僕らはお金が入れば、何でもいいんで(笑)。
――そして、この曲のMVが今作られてるところなんですよね?
の子 それ、ちょっと見たんですよ。いやあ、すごかった。今回もラビットマシーンさん(MVクリエイター/近年はYOASOBIのビデオも制作)に頼んでるんです。前回の「るるちゃんの自殺配信」のアニメーションのビデオを作ってもらって、ものすごく良かったので。
の子 そこでアニメーションと楽曲との親和性が高いってわかって。今回のも、良いな!と。
mono すごく、良い感じでした。
の子 でも曲発表して、もう1年経ってますけどね(笑)。まだMV出さねーのか!いつまで「僕の戦争」で引っ張るんだこいつらは!って言われるかもだけど。いや、こっちだってそんなつもりもないんだけど(笑)、ここまできたら時期はちゃんと見て、狙って出そうかなって考えてます。
PHOTOGRAPHY BY 山本マオ
TEXT & INTERVIEW BY 青木 優
●リリース情報
神聖かまってちゃん
「僕の戦争 / 夕暮れの鳥」
2021年11月27日(土)発売
予約ページ(海外通販共通)はこちら
形態:7inch アナログ盤
価格:¥2,420(税込)
品番:CMRS148
<収録曲>
side-A 「僕の戦争」(アニメ「進撃の巨人 The Final Season」 OPテーマ主題歌)
side-B 「夕暮れの鳥」(アニメ「進撃の巨人 Season 2」 EDテーマ主題歌)
関連リンク
神聖かまってちゃんHP
https://shinseikamattechan.jp/
神聖かまってちゃんTwitter
https://twitter.com/kamattechaninfo