再起動開始、その第一声は――。
この日の会場であるSpotify O-EASTの1Fフロアは、黒崎の復活を待ち望んだファンでパンパン。しかし開演を待つファンの多くは、コロナ禍で声が出せないということもあってか、会場BGMが鳴るなかでも独特の静けさがあるというか、何か緊張した空気感というものが、筆者たちがいる2階席まで届いてくるようだった。O-EAST特有の広いステージ上にはバンドセットが広く配置されている。そして何より目を引いたのは、ステージ後方にある巨大なスクリーンだ。会場が暗転すると、そのスクリーンにはヴァイタルサインのような信号が映し出され、心臓の鼓動のような音が鳴り響く。それが実際に何を意味するかはわからないが、まるで彼女が活動を停止せざるをえなくなったあのときからヴァイタルが回復していくその過程を示しているようにも感じられる。そして映像がアンティークなパソコンの再起動画面へと変わる頃には、会場に鳴る心音が早くなっていく。そして文字通りの再起動が完了したことを示す“REBOOT”というタイトルが映し出されるなか、黒崎がステージに登場、「LIMIT BREAK」のイントロダクションが鳴らされた。注目すべきは、その“第一声”である。
言葉ではなく、歌で伝える“これまで”のこと
まるで一瞬の出来事のような2曲を終え、最初のMCへ。そこで黒崎は「最後まで……ついてきてくれますか!」と何度も観客を煽っていく。久々のライブでありながらいつも通りの黒崎という印象のコンパクトなMCを挟んだあとにはスマートフォンゲーム「とある魔術の禁書目録 幻想収束」の主題歌「JUNCTION」へ。スクリーンには「とある魔術の禁書目録 幻想収束」の映像が大きく映し出される。続く、ダンスもクールにキマる「刹那の果実」では『グリザイアの果実』が、ヘビーな「SCARS」では『HELLSING』……と、この日の派手な映像演出もまた会場の盛り上がりに大きく貢献していた。そうしたアニメ作品とのコラボを経たあとは、2019年発表のアルバム『Beloved One』から「A.I.D」へ。
まるでドキュメンタリーのような彼女の生き様を観た、そんなエモーショナルなブロックのあとは、バンドインストを挟んでEDMゾーンへと一気にシフトチェンジする。衣装も身軽にキュートな猫耳をつけての「Love 〇 JETCOASTER」「Peko♡Peko♡Peach♡」を笑顔でプレイ。一気に華やかなムードのなか、バンドメンバーとの和気あいあいとしたトークを挟んで、今度は再びアグレッシブなパートへ。ストゥールに腰掛けて赤い布を振り回しながらの「Red Alert Carpet」、ステージ中央に置かれたシンバルを一心不乱に叩きながらアグレッシブに歌を乗せる「UNDER/SHAFT」、そして続く「X-encounter」でのデジタルサウンドに乗せて躍動感溢れる歌唱を聴かせるパフォーマンスは強烈の一言。MCでは有観客でのライブができなかった期間の苦悩を話しながら、「去年は皆さんにたくさんの心配をおかけしました。でもこの通り……MC噛んだりしますけど、元気に過ごしています。待っていてくれたみんなのおかげです、本当にありがとう」とファンに感謝を述べた。そして「私にとっての始まりの曲」を告げてから、デビューアルバム『H.O.T.D.』から「君と太陽が死んだ日」を鳴らす。
絶望から生まれた新たな“作品”
そして観客の手拍子のあとにスタートしたアンコールでは、いきなりの新曲の披露となる。しかもそれは、彼女が原作・原案を手がけた音楽劇「ジェイド・バイン」主題歌「Singularity」だ。サウンドとしては実に黒崎真音らしい、ストレートなアニソン的と思わせるメロディアスな1曲。ライブ映えするそのサウンドに、初披露ながら客席も再び盛り上がりを見せる。そうした新曲披露のあと、黒崎は客席に背を向け、スクリーン上に映し出された「ジェイド・バイン」のキービジュアルを感慨深げに見つめていた。そのあと絞り出すように「……やっと発表できました」と口にした。そして「ちょっとゆっくり話していい?」と言って、観客に「ジェイド・バイン」が生まれた経緯を語り始めた。9月に倒れ、病院で意識を取り戻したあとの自身の姿を鏡で見たとき、「もう……終わらせよう」と思ったのだという。そうした絶望のなかで、彼女が自らを取り戻すように始めたのが、創作活動だった。
誰しもが彼女の現在、そしてその先を案じる時間が過ぎ、そのあとに訪れた歓喜の瞬間。そこに至るまでの壮絶さというのは筆舌に尽くし難いものがあっただろう。しかし彼女はそこで折れることなく前を向き、そしてその絶望も抱えながら再生の道を歩んだ。そうした道程を観客に1つ1つ伝えるようなセットリストだったこの日――そこに見えたものは、未来へと続くひと筋の光だ。
PHOTOGRAPHY BY 中村ユタカ
TEXT BY 澄川龍一
<セットリスト>
MAON KUROSAKI LIVE2022『-REBOOT-』
2022年7月31日(日)渋谷Spotify O-East
01. LIMIT BREAK
02. Gravitation
03. JUNCTION
04. 刹那の果実
05. SCARS
06. A.I.D
07. “lily”
08. Chocolate_Cosmos
09. Black bird
10. 体温-I’ll be by my side forever-
11. LOVE ○ JETCOASTER
12. Peko♡Peko♡Peach♡
13. Red Alert Carpet
14. UNDER/SHAFT
15. X-encounter
16. 君と太陽が死んだ日
17. VANISHING POINT
――ENCORE――
18. Singularity
19. Wishful☆Garnet
20. メモリーズ・ラスト
●上映情報
黒崎真音 原作・原案
音楽劇「ジェイド・バイン」
公開期間:2022年11月17日~11月23日まで
会場:シアター1010(東京都足立区千住3-92 千住ミルディスI番館10F)
詳しくは「ジェイド・バイン」公式サイトをチェック
●関連リンク
黒崎真音 公式サイト
https://nbcuni-music.com/maon/
黒崎真音 公式Twitter
https://twitter.com/kurosakimaon
黒崎真音 公式YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCN6iYFwpTn1s2bgJgvIjdYQ
黒崎真音 公式ブログ
https://ameblo.jp/kurosakimaon/
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