fhánaのメジャーデビュー10周年を記念したスペシャルライブ「fhána 10th Anniversary SPECIAL LIVE “There Is The Light”」が、10月7日、東京・LINE CUBE SHIBUYAで開催された。約3時間、全23曲(メドレーで披露された楽曲をカウントに入れると全26曲)のミュージックジャーニー。
そこにはバンドがこれまで辿ってきた歩みと、大きな転換期を経て新体制としての意欲に満ちた今この瞬間、そしてこの先に向けた期待のすべてが詰まっていた。彼らが事前に宣言していた通り、“fhánaの過去・現在・未来を祝福する”特別な一夜の記録を、ここにお届けする。

TEXT BY 北野 創

音と光が織り成す圧倒的な光景!fhánaのライブバンドとしての凄み
ライブは、バンドのこの10年の軌跡を辿るオープニングムービーで幕を開けた。ステージ前面に大きく張られた紗幕に投影される、fhánaがメジャーデビューから積み重ねてきた珠玉の作品たちのタイトルと共に辿る彼らの歩み。その時間の厚み、バンドが様々なタイアップ作品やふぁなみりー(※fhánaのファンネーム)と出会うことで築き上げてきたキャリアの歴史が、改めて実感される。そして紗幕が上がると、ほぼ暗闇のステージに、ランタンのような灯を持った佐藤純一(Key、Cho)が姿を現す。彼は薄暗いステージを慎重に進みながら、やがてキーボードの置いている場所まで辿り着き、静かに音を奏で始める。その優雅な音色が紡ぐのは「Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~」のメロディ。彼らのライブでは欠かせない楽曲だ。そこに同じく灯を手にしたkevin mitsunaga(サンプラー、etc)が現れて、グロッケンの演奏で加わり、楽曲がサビの部分に至ると、towana(Vo)もまた灯を携えて登場。いつもとは違うピアノと鉄琴だけの簡素だが美しいアレンジ、3人だけの演奏と歌が、新しいfhánaの世界へと誘う。

そしてストリングスの流麗なイントロが鳴り響き、ステージが一気に明るくなると、旅の始まりを告げる歌「World Atlas」がスタート。
ギターに中西(HoneyWorks)と本多 秀(インナージャーニー)、ベースに前田恭介(androp)、ドラムスに河村吉宏という、新体制のサポートメンバーと共に奏でる躍動感に満ちたサウンド、そしてtowanaがフラッグを片手に振りながら響かせる伸びやかなハイトーンボイスによって、世界は光に包まれる。オーディエンスもクラップしたり、グッズのフラッグを左右に振ったりしながら、お互いの“出会い”を祝福し合うかのようだ。そのゆったり心地良いグルーヴから、アップテンポな「コメットルシファー ~The Seed and the Sower~」で一足飛びにギアを上げると、間髪入れず「tiny lamp」に突入。ツインギター編成によってたくましさを増したバンドサウンドが、会場に爽やかな熱気を注いでいく。そして現時点での最新シングル「Runaway World」へ。fhána史上最もロックと言っても過言ではない本楽曲が、バンドのタフな演奏、観客による盛大なクラップとコールによって、完全無欠のロックアンセムへと変貌していく。サビ後半の“君を守ると決めたら チカラが沸き上がるよ”のフレーズではkevinと共に観客も大合唱し、towanaのひと際パワフルな歌声とラリーの応酬。元々熱い楽曲ではあるが、ライブでの化けっぷりに驚かされてしまった。

ここで佐藤の簡単な挨拶を挿み、「今日は最後までfhánaの音楽の旅をお楽しみください」と告げると、早々に次の楽曲「いつかの、いくつかのきみとのせかい」へ。ステージ後方の幕が上がって大きな照明装置が姿を現し、光の演出と共に優しくもどこかセンチメンタルな景色を広げていく。さらにドラムの4カウントから始まったのが、バンドのメジャーデビューを飾った1stシングル表題曲「ケセラセラ」。その切なく胸を締め付ける旋律、towanaの可憐なパフォーマンスが、甘やかな気持ちを呼び起こす。
そして「僕たちがメジャーデビューする前、10年以上前に作ったこの曲を聴いてください」(佐藤)との言葉に続いて、今夏にリリースされた10周年ベストアルバム『fhána Best Album「There Is The Light」』にて新録された「true end」を披露。シリアスな響きを持ったこの楽曲、今回のライブでは特に照明演出による魅せ方が素晴らしく、まるでバグったように激しい明滅を続けるライトが、誰にも抗うことのできない時間の奔流を思い起こさせるなか、ステージ中央で直立して歌うtowanaの姿が、“時の河”を超越してそこに在り続ける存在のようで、圧倒的な世界観を作り上げていた。

続く「現在地」では、佐藤もギターを手にしてトリプルギター編成に。towanaが佐藤のそばに近寄って向き合いながらパフォーマンスする一幕も。そこから「little secret magic」に雪崩れ込み、さらにアグレッシブさを増したギターサウンドが会場のボルテージをさらに引き上げる。そのロックの衝動全開なパフォーマンスに、ライブバンドとしてのfhánaの新たな一面を見ることができた。ちなみに「現在地」と「little secret magic」はどちらもfhánaのギタリストだった元メンバー・yuxuki wagaが作曲した楽曲。彼の楽曲を含めたうえで10周年ライブを組み立ててくれたことに、嬉しさを感じたふぁなみりーも多かったのではないだろうか。

その後のMCパートで、この10年を歩んでこれたのは、ふぁなみりーの支えがあってこそと、改めて感謝の気持ちを言葉にして深くお辞儀するメンバーの3人。そしてここからはバンド史上初の試みとなるメドレーへ。まずはミラーボールが七色の光を投げかけるなか「虹を編めたら」をワンコーラス披露すると、続いてライブの鉄板曲「Hello! My World!!」で客席からクラップと「ヘイ!ヘイ!」という熱い掛け声を引き出し、「ワンダーステラ」では赤色のライトが鮮烈な景色を描くなか激しくも美しい音を叩きつける。それらシングル表題曲の連打に続く形で、towanaとkevinの2MCによるラップチューン「GIVE ME LOVE~fhána Rany Flow Ver.~」をドロップ。
この10年でラップもこなすライブの盛り上げ隊長となったkevinが楽しそうにステップを踏む姿につられてこちらも思わず笑顔になってしまう。その流れでバンドメンバーの紹介となり、各々がファンキーなソロを披露すると、ラストはkevinがラップをかまして「Say Ho!」「Say fhána!」「Say ふぁなみりー!」とコール&レスポンスで盛り上げる。

そんな賑やかなメドレーから繋がるように、煌びやかなイントロに導かれて始まったのは「Relief」。メンバー紹介の間に衣装を着替えてステージに戻ってきたtowanaが、4つ打ちの高揚感溢れるリズムとエモーショナルなサウンドに乗せて、しなやかで力強い歌声を会場全体に響き渡らせる。さらに楽曲とシンクロした照明演出の美しさ。fhánaのライブは以前から照明に対する深いこだわりが感じられたが、今回のライブのサブタイトルが“There Is The Light”だったことからもわかるように、この日は新たな次元に突入した印象で、特に「Relief」での音と光が織り成すスペクタクルは、筆舌に尽くしがたいものがあった。

その音と光の果てに連れていかれるような圧倒的な体験から休まる暇もなく、そこからシームレスに「愛のシュプリーム!」に突入。kevinが再びマイクを握ってステージ前に躍り出すと、towanaとスピーディーな掛け合いラップを畳みかけてオーディエンスを煽情。サビではkevinのダンスに合わせて観客も踊ってLINE CUBE SHIBUYAがダンスフロアに早変わりする。至上の愛に溢れたステージングで沸くなか、kevinが「皆さん、まだ元気はありますよね!一緒に“chu chu yeah!”してもらっていいですか?」と呼びかけて、今やfhánaの一番の代表曲となった「青空のラプソディ」へ。誰もが期待していたであろう最高の流れに会場は大興奮。kevinがステージ狭しと動き回って煽るなか、サビではお馴染みの振付をみんなで踊り、Dメロでは掛け声やクラップで熱狂する。
この日一番と言える盛り上がりと一体感が、幸福な景色を作り上げた。さらに続けてダメ押しとばかりに「divine intervention」を披露。バンドの鋭くも疾走感溢れる演奏と同期して瞬く青いライトの鮮烈さ、これだけのエネルギッシュかつ高難度な楽曲を立て続けに歌唱しても、まるで疲れを感じさせないどころか、さらに眩しさを増していくtowanaのクリアボイス。圧巻とも言えるパフォーマンスに、fhánaの地力を感じ取ることができた。

fhánaとふぁなみりーの光に溢れた未来、10周年の先に待っているもの

fhánaとふぁなみりーの光に溢れた未来、10周年の先に待っているもの
「いやあ、怒涛ですね」(佐藤)、「びっくりしたよね?」(towana)と語るメンバーたち。なんでもセトリ会議でやりたい楽曲候補が30曲以上もあったため、できるだけ多くの楽曲をやるために今回はメドレーにも初挑戦したという。そして佐藤は、この10年の活動のうち数年はコロナ禍によりライブでファンと直接会えない、もしくはファンは声が出せない時期があったことを振り返り、「そんな時期があったからこそ、ふぁなみりーのみんなと作ったこの曲を演奏しようと思います」と語る。その楽曲は「Choir Caravan with fhánamily」と「Ethos」。前者はコロナ期間中に、ファンから募集したコーラス音源を重ねて作られた楽曲だ。その分厚いコーラスに包まれた荘厳な幕開けに連なる「Ethos」では、不安の闇を切り裂くような光の演出、そしてtowanaの真っ直ぐ突き刺さる声の力が、希望の未来を見せてくれる。特にラスサビ、赤い光のアラートのような明滅から、一気に真っ白な光に包まれる流れは清々しいほどの解放感を感じさせるものだった。

そしてキーボードの印象的なイントロが奏でられた瞬間、客席から歓喜の声が上がったのが「君という特異点」。
彼らのメジャー1stシングル「ケセラセラ」のカップリングに収められた、それほど頻繁に披露されているわけではないが、ライブでのファン人気の高い楽曲だ。虹色のライトがステージを照らすなか、爽やかだけどエモーショナルな、fhánaらしい楽曲が会場の気持ちを1つに高めていく。ラストはtowanaがフラッグを手にして、みんなで「ラララ~♪」と歌いながら、今ここで出会えた喜びを確かめ合った。そして、それまでの華やかな照明演出とは違って、必要最低限のシンプルなライトが逆に楽曲の世界観を抽出してみせたのが「The Color to Gray World」。それによってtowanaのイノセントな歌声もより強調された印象で、徐々に力強く色づいていく表現も含めて、心が洗われるような名演だった。

長い旅の果て、この日のライブの本編ラストを飾ったのは、「whight light」。彼らの大きなライブの大切な局面で披露されることが多い、ふぁなみりーにとっても特別感のある楽曲だ。佐藤によるピアノのイントロから始まり、鈍いギターサウンドが空気を震わせると、ステージの背面に備え付けられたライトが煌々と燈り始める。あまりにも強く白い光に、ステージと演者の区別もつかなくなるような、すべてがホワイトライトに飲み込まれてしまったような世界。そのなかで淡々と、あるいはエモーショナルに紡がれる音の波。閃光のように輝くtowanaの歌声。音と光の粒子に包み込まれたようなサイケデリックな感覚に、彼我の境界も溶けていく。
ラストは再び佐藤が奏でるピアノの音だけになり、深い余韻を残して白い光は消失した。

アンコールは、fhánaの未来を示す楽曲からスタートした。それは「Last Pages」。12月22日にリリースされるアドベンチャーゲーム「ONE.」のEDテーマとして制作された、ライブ初披露となる彼らの新曲だ。透明感のあるシンセサウンドが期待を高めるなか、夜明けのように白んでいくステージにメンバーたちの姿が浮かび上がり、スクリーン前面の紗幕に投影されたリリックビデオと共に、ドラマチックかつピュアな歌がfhánaの新しい物語のページを開いていく。その後のMCで佐藤は「ONE.」への思い入れの強さについて説明。fhánaは名作ゲーム「CLANNAD」のファンだった佐藤、kevin、yuxukiが意気投合して結成されたことで知られるが、「ONE.」の原作ゲームとなる「ONE ~輝く季節へ~」は「CLANNAD」のメインスタッフの麻枝 准や、fhánaがEDテーマを担当したTVアニメ『天体のメソッド』に原案・脚本で携わった久弥直樹がシナリオを手がけた作品であり、佐藤としても今回のタイアップはとても感慨深いものなのだと語る。そしてここで同ゲームのOPテーマとなる新曲「永遠という光」も初披露。こちらは仄かにセンチメンタルな香りが立ち昇りつつも、明るく美しいメロディーが際立つエモーショナルなナンバーに仕上がっており、まさに“光”を感じさせるような清廉さが感じられた。

ここで紗幕が上がり、fhánaのメジャーデビュー前からの持ち曲である「光舞う冬の日に」を歌唱。この楽曲もライブに足繁く通うふぁみなりーにはお馴染みのもので、特にサビでtowanaが指で星の形を描く振付は、多くのファンが同じ動きをして気持ちを1つにしていく。しかもこの日だけの特別な演出として、間奏でステージの上空から雪が降ってきて、towanaは手をかざして舞い散る雪を受け止める。fhánaとふぁなみりーの思い出に、また美しい1ページが刻まれた。

その後のMCで、彼らは12月20日にメジャー1st EP『Beautiful Dreamer』をリリースすること、そして同作のリリースを記念してバンド初のアジアツアー(韓国・台湾・東京の3公演)を行うことを発表。EPにはアンコールで歌われた「永遠という光」「Last Pages」を含む6曲が収録されるとのことで、まさにfhánaの新しい未来を約束するものとなる。そしてメンバーそれぞれ、「こうやってライブに来てくれる皆さん、応援してくれる皆さんがいなければ、10年迎えられなかったので、本当に感謝しかないです」(kevin)、「この居場所を見つけられたことが、私の人生にとって宝物だし、“True Rute”だなって思います」(towana)、「今日は10周年の記念でしたけど、15周年、20周年、30周年も、こうして合流して、共に祝いあいましょう。僕たちfhánaとふぁなみりーの旅路に光あれ」(佐藤)とファンに感謝の言葉を伝えると、いよいよこの日の最後の楽曲へ。ラストは「Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~」。冒頭で記したように、彼らのライブには欠かせない楽曲であり、晴れやかなメロディと歌声に乗せて届けられるのは、この広い世界でお互い巡り合えたことの奇跡だ。サビではバンドメンバーや客席も一緒になってジャンプして、誰もが“君”と“僕”の出会いを喜び合う。fhánaの音楽が連れて行ってくれるのは“憂鬱の向こう側”であることを、そして彼らの行く先にはたくさんの光が溢れていることを証明して、10周年記念ライブは大団円を迎えた。

<セットリスト>
1. Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~(There Is The Light Ver.)
2. World Atlas
3. コメットルシファー ~The Seed and the Sower~  *『コメット・ルシファー』OPテーマ
4. tiny lamp  *『ぎんぎつね』OPテーマ
5. Runaway World  *『逃走中 グレートミッション』OPテーマ
6. いつかの、いくつかのきみとのせかい  *『僕らはみんな河合荘』OPテーマ
7. ケセラセラ  *『有頂天家族』EDテーマ
8. true end
9. 現在地  *作曲:yuxuki waga
10. little secret magic  *2ndアルバム『What a Wonderful World Line』収録
11. メドレー(虹を編めたら ~ Hello! My World!! ~ ワンダーステラ ~ GIVE ME LOVE)
12. Relief  *2ndアルバム『What a Wonderful World Line』収録
13. 愛のシュプリーム!  *『小林さんちのメイドラゴンS』OPテーマ
14. 青空のラプソディ  *『小林さんちのメイドラゴン』OPテーマ
15. divine intervention  *『ウィッチクラフトワークス』OPテーマ
16. Choir Caravan with fhánamily ~ Ethos
17. 君という特異点  *1stシングルのカップリング
18. The Color to Gray World  *2ndアルバム『What a Wonderful World Line』収録
19. whight light

EN1. Last Pages  *『ONE.』EDテーマ
EN2. 永遠という光  *『ONE.』OPテーマ
EN3. 光舞う冬の日に
EN4. Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~

●ライブ情報
fhána 10th Anniversary SPECIAL LIVE “There Is The Light”

開催日:2023年10月7日(土)
会場:東京LINE CUBE SHIBUYA (渋谷公会堂)

関連リンク
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