「自分の中で、『ようこそ実力至上主義の教室へ』の1年生編をしっかりと締めくくりたい、という想いは強くありました。これまで手掛けてきたことで期待されているのも感じますし、『よう実』におけるZAQを全部置いていこうという気持ちでした」(ZAQ)

今回の『3rd Season』でオープニング主題歌を担っている「マイナーピース」は、2017年にスタートしたアニメ『よう実』において全オープニング主題歌3曲(第1期はエンディング主題歌では作曲も)を 担当してきたZAQだからこそ生み出せた総決算かつ完結編的楽曲となっている。
またカップリングには、ZAQ史上最高の癒し&励ましソングで、「ZAQの日」(毎年3/9開催を予定している主催ライブ)のテーマソングとして作った「39」を収録。『よう実』に対して、ファンに対して、ZAQがその身からあふれ出す想いを1枚に収めた。

INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司

ZAQのやりたいことをすべて受け入れてくれるのが『よう実』
――1年生編完結となる『3rd Season』ですが、オープニング主題歌のオファーを受け取ったとき、どのような楽曲にしようと考えましたか?

ZAQ やっぱり、これまでの2作でオープニング主題歌を書いた私だから出せる曲に、という責任感は感じていて。だから、1期はヒロインの堀北(鈴音)にポイントを当て、2期では主人公である綾小路(清隆)の気持ちに焦点を当てるところが大きかったですけど、今回はその先、綾小路とライバルである坂柳(有栖)とのバトルを表現した曲になっていて、二人の目線や、そことはまた違うメッセージを入れるといった総括的な曲にしました。アニメ制作サイドからも、1期と2期の流れを汲んだ曲と歌詞に、というお話はいただいていたので、歌詞に「蝶」を入れるとか、「旅人として生きた 地球って部屋 踊るゲームの先」の部分とか、昔の曲から引っ張ってきているところはあります。

――1期の「カーストルーム」や『2nd Season』の「Dance In The Game」を思い起こさせる部分ですね。
サビから始まるというところも共通しています。


ZAQ 同じリズムで終わる、というのもそうですね。『よう実』モードにスイッチを入れて、その枠の中で構成していきました。曲の中でピアノとアコギがめちゃくちゃ暴れるというのも3曲で共通しているところですけど、3期は敵の姿が見えてきたことで不穏な主人公だった綾小路が自分のマキャベリズムを隠さなくなってくるところもあって、彼のしたたかな狂気が外に出てくる感じも出したいと思いました。なので、ハッとするグルーヴをいっぱい入れて、今までで一番ハイテンションな曲にしています。

――歌詞でも「集は個に勝り 個は集になった」は『3rd Season』ならではの部分ですね。


ZAQ 名言っぽいことを言っていますよね(笑)。

――最初に手を付けたのはどこからだったんですか?

ZAQ 最初の最初はタイトルなんですよ。1期から「~○ー○」、しかも最後はう行で終わる、という音にこだわりたくて。で、「ピース」を思いついたんですけど、ピース(=平和)って『よう実』に全然合わないんですよね(笑)。だからどうしようかとも思ったんですけど、チェスのイメージが浮かんで、「マイナーピース」ってタイトルをつけたところから展開していきました。マイナーピースって「ナイト」や「ビショップ」のことなんですけど、最初に動かして死んでいく駒のイメージがあって。
『3rd Season』では蹴落とし合いや退学者が出てくるところがあるので、駒をポイントに歌詞は広げていきました。楽曲は、「カーストルーム」がアシッドジャズ、「Dance In The Game」がラテンジャズだったので今回もジャズをベースにしつつ、ホーンセクションといった今までにない要素を入れたビッグバンドロックジャズに決めました。ただ、構成は「カーストルーム」と「Dance In The Game」は同じとお話しましたけど、3分以内に収まる曲にはしたくて。

――それはなぜ?

ZAQ 最近の子たちは耳が速くて、ワンコーラス聴いたら次に飛ばしてしまう傾向があるので、短く終わる中でインパクトを残すものを詰め込んだ曲にしたかったんですね。決して時代に迎合したとかではなく(笑)。

――「Dance In The Game」のときも「カーストルーム」を踏まえた楽曲作りをされていましたが、構成面で縛りを設けるというのは自分で自分の首を絞める的な難しさはないですか?

ZAQ それが『よう実』に関してはないんですよ。
私が作っていて一番かっこいいと思えることをやらせてもらえるので。例えば、「駆け引きの世界へ ようこそ」の「そ」は私の大好きなディスコードにしていて、あえてキーとは違うナインスの音で歌っているんですけど、そこに不気味さを込められるのが『よう実』なんですよ。その気持ち悪さを受け入れてもらえるんですね。作りながら「王道のヒーロー物や美少女物では許されないだろうな」「でも『よう実』ならできる」といつも思っているんですよね。それをかっこいいと思ってくれるファンがいっぱいいるので、フォーマットを決めても『よう実』ならまったく苦ではないです。その中でZAQは自由にやらせてもらっているから。
正直、『よう実』の曲ならいくらでも書けると思います、はい。

――箱は小さくても自由に踊れるクラブみたいな気持ち良さが。

ZAQ それこそ、『よう実』の舞台である高度育成高等学校について「カーストルーム」で「制限的自由の中で 君はどう生きるのかって問われたみたいだ」と歌ったんですけど、縛りが私にとっての「制限的自由」なんですよね。めちゃくちゃ「」(カギカッコ)があるんだけどこの中では何をやってもいい、という感じなので。アニメサイドの方も、愛なのか信頼なのか放置なのかわからないですけど、「ZAQさんの好きにやってください」と言ってくださるので「はーいっ!」って言いながらイケイケで書いています(笑)。

――先ほどの、ディスコードが大好きと仰いましたが、ZAQさんが修学したクラシック音楽にはない観点かと感じました。
そこに魅力を感じたきっかけはあったのでしょうか ?


ZAQ ビッグバンドジャズのオムニバスCDとかをよく聴くんですけど、彼らこそ制限的自由の中でやりたい放題やっていて。始まり方と終わり方だけが決まっている中でめちゃめちゃ暴れて超外しまくる、というジャズセッションとかが大好きなんですよね。それをJ-Popの下に成り立たせるためにコードはかっちり決めましたけど、そういった方向性で作っていきました。

――そういった点でもビッグバンドジャズテイストな曲なんですね。確かに「マイナーピース」の展開はジャズセッション的な楽しさが入っています。そもそもどう転ぶかわからない展開、というのはZAQさんの曲全体の特徴かもしれませんが。

ZAQ そう、わからないし、めちゃくちゃな中身なんだけどなんか成り立っている、というのがいいんですよね。って自分の曲のことですけど(笑)。要は、自分がそういうものが好きということで。だから、もっとアニソンにも広げていきたいという気持ちも強いですね。

ライブに来た人が幸せな気持ちを持って帰れるライブに
――もう少し構成の話をお聞かせください。曲の長さを単に短くするのではなく、次々と違うパートが耳に飛び込んでくる構成とし、 新鮮さが持続する展開になっています。曲頭もサビ始まりと思わせながら、サビに向かうと後半に違うメロディが現れる。ただ、激しい部分とそうではない部分を行ったり来たりしながらも、最後はサビに戻ってくるような、違う道を通ってきても同じ場所に行き着くような構成になっていますね。

ZAQ あ、そうです。転調もしているのに帰ってくるのは一緒の場所になっています。

――最高にグルーヴの利いた構成かと思いますが、どのような意図が隠されているのか、もう少し詳しく教えてもらえますか?

ZAQ 今回はパズルみたいなところがありましたね。流れで作るというのではなく、各パートを一つずつ作って、それを後からはめていくという感じでした。だから、サビとイントロ、間奏でグルーヴが違うし、サビも前後半でグルーヴが変わっていますし。結構パッチワークしてて(笑)。ただ、コードはぐるぐる回っていても、基本的にテーマは一つだけなんですよ。1番の頭、1番と2番の間、2番と落ちサビの間と間奏の全部に入っているタッタッタッタターターターというアレだけです。今回は、転調とかも関係なく、すべての間奏を同じテーマで収めるというところに挑戦してみました。今までは、毎回違うソロが来る、みたいなことをしてたんですが、全部を同じリフにしてみたくて。新しいフレーズを作ってDメロにすることもせず。

――だから、一聴しただけでは覚えられないような構成なのに、一本筋が通っている感じを受けるんですね。

ZAQ でも、そこはミュージシャンの力が大きいと思います。編曲が私の打ち込みだけのままだったら継ぎ接ぎに聴こえていたと思うんですけど、ミュージシャンが通して弾いてくれたことで、一息で聴こえてくるように成り立っているんですよね。本来は違う色のものを組み込んでいても。

――レコーディングメンバーは「Dance In The Game」と全く同じ布陣ですが、どのような意図があったのか教えてもらえますか?

ZAQ ゆーまおさんはとにかくドラムが斬新で面白くて。タムのフィルのアイデアもたくさん持っているので、「そこは3連符にしてなかったんだけど、そっちの方がかっこいい!」みたいなことが結構ありましたね。田辺(トシノ)さんは超歌うベースを弾く人なんですけど、ご本人も超自由人でベースがあっちこっち行くんですよ。「そこはギターの領域なのでもっと下のオクターブでお願いします」みたいなやり取りもあって。歌ったり踊ったりする自由な感じが欲しくていつもベースをお願いしています。堀崎(翔)さんは単純にリズムキープがすごい方で、アコギのキレの良さが半端じゃないんですよ。今回も、ドラムの四つ打ちのキックの上でアコギがタイトに鳴っているという軸が欲しかったので、堀崎さんのカッティングが輝くようなディレクションにしました。

――自身のピアノとボーカルはそのあとにレコーディングされるんですよね?

ZAQ そうです。ボーカルはディレクターが入りますけど、いつもピアノは家で完結させていて。やっぱり、奇跡のように生まれたギターのリフに対して、ハモる感じでピアノを弾きたいので、そのやり方にしています。ピアノは、「Dance In The Game」とやっぱり同じ感じなんですけど、MVでピアノシーンを撮りたいと思ったので、不可能じゃないレベルの演奏にしようと思いました(笑)。ぐるぐるぐるぐるするピアノだと、練習しないと弾けないので。グリッサンドですごく下がった後の次の音がめっちゃ高いとか。なので、自分が一番気持ちいい状態で弾きながらも抑えつつ、サビの後半ではピアノのコードを見せる形にしましたけど、ピアノが目立つところ以外では他の楽器のレンジを邪魔しないようにしています。ライブでやるときもピアノ一本で成立できるように、難しいパッセージを入れすぎないようにしました。

――MV撮影はいかがでしたか?

ZAQ 楽しかったですね。実写でMVを撮るのが2020年以来ということもあってすごく緊張してましたけど、監督さんとダンサーさんの信頼も出来上がっていたし。ダンサーさんには、音ハメがすごく良くて、愛のある振付をつけてもらえたし、芝居やコンテンポラリー的な部分でもめちゃくちゃ指導していただけたんですよ。チェスの駒の持ち方とか。MVの中では「支配者」という役柄を演じていたんですけど、「駒をこう眺めたら怪しいです」「ニヤッとしてみたらどうでしょう」みたいに表情管理もしてもらえて、すごく勉強になりました。ダンサーさんと仲良くなれて、リリイベも一緒にやれたらいいね、みたいな話をしていました。



――ダンサーありのリリイベは見たいですね。「マイナーピース」は昨年末の『KURUIZAQ』で披露されましたが、ステージで歌ってみての感想は?

ZAQ アンコールで歌ったのでヘトヘトだったんですけど、伸びしろがある曲だとは思いました。いつも、お客さんのノリを見ながら今後どういうステージングをしていこうか考えるんですけど、サビ後半ではコールもできそうだと思いましたし、お客さんもすごくノってくれたので、難しいけれどもZAQの曲の中では歌っていて気持ちいいランキングの……5位には入ると思います。