思わず目を疑うようなニュースが報じられた。政府が北大西洋条約機構(NATO)に派遣されている女性自衛官のブログの一部を削除したのだ。



 さらにこの女性自衛官は今年度の防衛白書原案で「活躍する女性自衛官」のひとりとして紹介されていたのだが、これもこのブログが原因で問題になっているらしい。

 そのブログとは、在ベルギー日本大使館のホームページで公開していたもの。政府が問題としたのは、この女性自衛官がラディカ・クマラスワミ氏と会食したことを記述したことだった。

 すでにお気づきの方も多いと思うが、ラディカ・クマラスワミ氏は、1996年に国連に報告された「クマラスワミ報告」を書いた法律家。この報告書のなかでクマラスワミ氏は、昨年「朝日新聞」問題で焦点となった故・吉田清治氏の著作を引用していることから、政府はクマラスワミ氏に修正を要請している。ようするに政府は、自分たちに都合の悪い人物をブログで取り上げたことに怒っているのである。

 しかし、これは異常な話だ。たしかに、この女性自衛官はクマラスワミ氏のことを書いていたが、たんに会食をしたときの様子を書いているだけ。NATOの活動を紹介するブログなのだから、その本部を仕事で訪問したクマラスワミ氏について書くことはいたって普通の話だろう。

 政府は、この自衛官がクマラスワミ氏と会食したことを「光栄」と書いたことが問題だと言っているらしいが、クマラスワミ氏は、国連事務次長や国連事務総長特別代表なども歴任してきた要人。そんな相手と会食したことを「光栄」と表現するのは、通常の外交儀礼だろう。

 しかも、ブログの文章を読むと、この女性自衛官は「もてなしの気持ちだけでもお伝えしたいとテーブルに星や季節の花の折り紙を置」くと、クマラスワミ氏は「ちゃんと日本の物だと気づ」き、さらには「自分もアジア出身(スリランカ出身)だから、NATOで日本人が勤務していることに親近感を持った。
日本にはジェンダー分野で将来アジアを引っ張る立場を期待している」という言葉をかけられたという。そうしたふれあいをもって、女性自衛官は「とても穏やかで徳が感じられる方」と、素直な感想を述べているだけである。このブログの文章に、政治的な記述など見当たらないのだ。

 そもそも、政府が目の敵にしている「クマラスワミ報告」にしたって、例の吉田証言を取り上げているのはたった300字。多くの証言のうちのひとつにすぎず、吉田証言を疑問視する秦郁彦氏の話も合わせて紹介している。

 そうした国連報告にムキになって修正を求めるだけでなく、「彼女と会った」というだけのブログにまで口を出して削除させるとは、これは「検閲」以外の何物でもない。自民党内部で「大使館ホームページで公開する以上、国際社会からは政府の公式文書とみられる」などという批判があったというが、公式であればなおさら安倍政権の偏執的な歴史修正主義体質を国際社会に印象づけることになるだけだ。国内向けのネトウヨ思考が国際社会でも通用すると本気で思っているのか。NATOの本部も、さぞ、日本はクレイジーだと思っていることだろう。国際的にそういう悪い印象を与えるという想像力も働かないほど、いまの政府はネジが外れているのだ。

 だが、政府による"検閲"は、これだけではない。一昨日行われた衆院平和安全法制特別委員会でも、野党は今月始めに防衛省に「イラク復興支援活動」活動状況についての内部文章の開示請求を行ったが、渡されたのは文章のほぼすべてが黒く塗りつぶされたシロモノだったことを訴え、正しい情報開示を求めた。
しかし、自民党はこうした追及を「特定秘密保護法」を盾にうやむやにし、強行採決に突入したのだ。

 言論弾圧に検閲......。安倍政権の異常性は、今後さらに増幅していくのだろう。
(水井多賀子)

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