日本時間10日未明、「今世紀最大級の金融スキャンダル」とも言われるパナマ文書の詳しい情報が、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)のホームページ上で公開された。パナマ文書には日本企業や著名人の名称や住所などが多数記載されていて、その一部はすでにICIJ加盟社の共同通信などが報じている。
そのからくりはいったいどうなっているのか。だが、日本のある新聞社が、これに対して唖然とするような姿勢を見せた。
そう、国内最大の発行部数を誇る、あの読売新聞だ。なんと読売は、10日付夕刊とウェブ版で、配信のパナマ文書の報道に関して、こんな「おことわり」掲載したのだ。
〈読売新聞は、「パナマ文書」に記載されている日本の企業や一般個人を、現時点では匿名で報道します。〉
見ての通りだ。読売は、タックスヘイブンを使って租税回避を行っている日本企業や個人について、"実名で報じません"と堂々と宣言してしまったのである。
一応、読売は〈政治家や官僚など公職に関わる個人、公共団体の利用〉や、〈今後の取材によって、悪質な課税逃れや、脱税などの違法行為が判明した場合〉は実名報道にするとしているが、そんなことは報道機関として当たり前だろう。むしろ、注目すべきはこんな言い訳をしていることだ。
〈各国の税制は異なり、日本の企業や一般個人がタックスヘイブンを利用していても、国内で適正に納税していれば、税法上、問題視することはできません。〉
読売新聞は今、タックスヘイブンが世界的な問題になっていることを知らないのだろうか。
それを"タックスヘイブンを利用していても問題にならない"と言い放つとは、もはや、税金逃れ企業を全面擁護したいとしか思えない。
たしかに、読売新聞といえば、これまでも富裕層の立場を擁護し、格差助長政策、金持ち優遇政策の旗振り役をつとめていきた。だが、それにしても、今回のパナマ文書に関する報道姿勢は過剰すぎる。
そもそも、読売のパナマ文書への消極姿勢は、10日の"匿名報道宣言"だけではない。パナマ文書に記載されている企業名が少しずつ明らかにになってからすでに一ヶ月がすぎようとしているが、この間、読売は紙面で一切の企業名、個人名を報じていない。
しかも、今日の夕刊を見ると、読売は「パナマ文書 課税逃れ否定『投資』『信用低下、心外』」などと見出しを立て、タックスヘイブンの問題のすべてを矮小化するような擁護記事を展開。そして、宣言通り、パナマ文書に記載のあった企業の名前を、記事では「通信事業会社」とか「千代田区の大手商社」「ネット通販会社経営者」などと変えていた。さらにICIJのデータベースの画像にまでモザイクをかける徹底ぶりだった。
「読売のこの徹底した方針は、上層部のツルの一声で決まったようです。理由はいろいろあるようですが、ひとつは、広告対策ではないかと言われています。日本の大企業の多くは、タックスヘイブンを利用して税金逃れをしており、財界はマスコミのパナマ文書報道に猛反発している。
この読売の姿勢に対しては、ネット上でも「読売には新聞としての価値ないよもう」「一事が万事、全てに信憑性なし」「報道しない権利万歳」「さすが政府広報紙、安倍ちゃん新聞」「すげえな読売クオリティ。もう笑けてくるわ」などの声が上がっている。中には、読売新聞の関連会社の名前もパナマ文書に記載されているのではないか、幹部が関係しているのではないか、などと訝しむ声さえ上がっている。
まあ、さすがにこれはないだろうが、しかし、"匿名報道宣言"で、あからさまに大企業を優先し、読者の知る権利を無視した様を見せ付けられると、そういう風に見られてもいたしかたがあるまい。
法制度上で適法か違法か以前に、富裕層と一般層の是正すべき不平等の実態を白日のもとに晒す、パナマ文書。どうやら、それは同時に「日本最大の新聞社」の化けの皮をも剥ぎ取ってしまったようである。
(宮島みつや)