「週刊文春」(文藝春秋)のスクープで暴露されたレコード大賞の買収問題は、芸能界に想像以上の衝撃をもたらしているようだ。
何しろ、文春には、"芸能界のドン"といわれてきた周防郁雄社長が率いるバーニングプロダクションが三代目 J Soul Brother所属事務所「株式会社LDH」にレコ大買収工作の見返りとして送付した1億円の請求書のコピーが掲載されていたからだ。
そんな中、今週発売の「週刊現代」(講談社)11月26日号に"ドン"周防社長本人が登場した。ノンフィクション作家・田崎健太氏の連載ルポ「ザ・芸能界」の特別編というかたちでインタビューに応じたのだが、周防社長が週刊誌のインタビューに出るのは前代未聞である。周防社長はいったいレコ大疑惑にどう釈明するのか。
ところが、だ。インタビューは最後までレコ大疑惑に触れられることは一切なく、大半は周防社長の思い出話に終始するものだった。
ある芸能関係者はバーニング側の思惑についてこう推測する。
「さすがの周防さんも今回の「文春」報道には困り果てていた。そこに「週刊現代」から取材のオファーが来たので、「文春」の報道で広まったダーティなイメージを払拭するために取材を受けたんでしょう。実際、インタビューは昔話のように見せて、バーニングの版権ビジネスがいかに正当なものかを弁明するものですしね」(芸能関係者)
一応、インタビューは次号に続くとなっており、次号でレコ大問題に触れる可能性はあるが、周防氏のこの調子をみると、踏み込んだ釈明が語られるとはあまり思えない。
ただ、興味深いのは、このインタビューで、周防社長が自らのビジネスの正当性を語っているつもりが、結果的にはその"強面のフィクサーぶり"を証明するようなエピソードもポロリと口にしてしまっていたことだ。
たとえば、そのひとつがサザンオールスターズの「音楽出版権」をめぐる問題だ。
バーニングは自社タレント以外の多くの楽曲の音楽出版権を傘下の「バーニングパブリッシャーズ」で所有しているのだが、その中に、サザンの大ヒット曲「勝手にシンドバッド」「いとしのエリー」などデビューから初期の5曲が含まれている。
サザンは大手芸能プロのアミューズ所属で、アミューズは自前の音楽出版会社をもっているのに、なぜバーニングが初期の5曲だけ音楽出版権を持っているのかは謎に包まれてきた。"周防社長が何らかの圧力をかけた"などと囁かれてきたが、これについて周防社長がこんな経緯を語ったのだ。
そもそも周防社長がデビュー前のサザンを知ったのはビクターのディレクター東元晃氏からサザンの歌5曲を聞かされたことだった。
〈「5曲聞いたら全部良かった。中でも気に入ったのが『勝手にシンドバッド』でした。『この曲でいきましょう!』と言った」〉
すっかりサザンを気に入った周防社長だったが、しかし既に所属事務所は決まっていたという。しかし周防社長は諦めなかった。
〈「それはないでしょう――そんな感じで、1時間ほど粘って、東元さんが彼らを誰に預けることにしたか聞き出したんです」〉
そして聞き出したのがホリプロ社員だった奥田義行氏と歌手の井上陽水が立ちあげた「りぼん・なかよしグループ」という会社だ。周防社長は面識のあった奥田氏に連絡をとった。
〈「奥田君はぼくより1つ年下なんです。
その後、周防氏はアミューズの大里洋吉氏(現・代表取締役会長)に電話をしてサザンのアミューズ入りを決定させる。こうした経緯からサザンのデビュー後5曲は「バーニングパブリッシャーズ」でもつことになったのだという。
しかし、これ、周防社長はまるで自分がサザンを見出したかのように語っているが、今もバーニングがよくやっている「強奪ビジネス」そのものではないか。弱小プロダクションですでに売れ始めているタレントに目をつけて、わずかな金額で「タレントを譲れ」と迫る。だが、弱小プロはバーニングからこのオファーを出されて断ったら、どんな報復を受けるかわからないから、絶対に断ることはできない。それをまるで自分の手柄話のように語るのだから、やはりドンはこのやり方が当たり前のビジネスだと考えているのだろう。
しかも、周防社長の話はここからサザンの所属するアミューズへの批判になっていくのだが、これもすごい。
実は、当初、周防社長はサザンの版権をずっと所有できるつもりでいたのだが、サザンの大ヒットでアミューズから弁護士を通して版権を返して欲しいと内容証明が届いたのだという。
〈「実は大里君は、ぼくが奥田君に5000万円払ったことを知らない。ただ、弁護士まで頼んで喧嘩してもしかたがないと思ったので、それ以降のサザンの曲は、音楽出版権を持っていません。
アミューズからは、ぼくが出した運営資金は返してもらっていません」〉
この運営資金というのは、アミューズへの出資と運営資金のこと。
〈「ぼくは資金は出すけれど、2人の連名だとこちらにも欲が出るかもしれないし、君もやりにくいだろう、ぼくの分も持っていてくれという約束をしたんです。文書はありません。口約束です」〉
これ、税法上問題なんじゃないの?という気もするが、とにかく、周防氏にしてみると、サザンをアミューズに入れるための5000万円も出した、アミューズ自体の資本金も半分は出している、運営資金も出した。だからサザンの版権を持っているのは当然だと。しかも、これにはさらなる後日談があった。
〈アミューズが株式上場したときも、何の挨拶もなかった。大里君が上場して、豪邸を建てた、という話を聞いたから、当時の役員に『アミューズに、10億円貸してくださいと言って来てくれ』と行かせました。見事に断られてしまいましたけれどもね〉
周防社長は、一連の経緯を語ることでサザンの版権所持を正当化しようとしたのだろうが、すでにサザンの最初の5曲の音楽出版権をもっていることで、バーニングは相当な利益を得ているはず。それなのに、さらに10億円を要求するとは......。
しかし、これこそが周防社長率いるバーニングのビジネスのやり方なのだろう。
「レコード大賞の買収工作も同様です。正直、いま、レコード大賞に1億円を払うような価値はない。しかし、バーニングの方が『レコ大を獲らせてやる』と売り込んでくるので、つきあいのある事務所は断れない。そのあげく音楽出版権をとられたり、巨額のプロモーション費用を払わされるんです」(前出・芸能関係者)
しかし、周防社長は気がついていないかもしれないが、このビジネスのやり方はもうそろそろ限界に来ているのではないか。実は「文春」によるレコ大買収問題追及は第二弾、第三弾が用意されているようなのだ。
「先日の「文春」報道では、バーニングへの工作費は1億円でしたが、実は1億円どころか、その倍以上の2、3億円が動いていたといわれています。しかも、現在「文春」が取材を進めているネタはもっと決定的なもので、これがハジけたら、さすがのバーニングもただではすまないのではないかといわれています」(スポーツ紙芸能記者)
もし決定的な疑惑が出てきたら、バーニングから接待饗応を受けてきたテレビ局員やスポーツ紙記者たちはどうするのだろう。やはり、これまでどおり、「Bはタブーだから」とだんまりを決め込むのだろうか。
(時田章広)