昨年は『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)で、サブカル界のみならず、いよいよお茶の間の人気者となった星野源。女性週刊誌では、少し珍しい彼の青春時代を深掘りする企画が多く立てられたが、そのなかでしばしばクローズアップされたのが、埼玉県飯能市にある私立校「自由の森学園中学・高等学校」出身であるということだ。



 星野源という俳優にミュージシャン、さらには文筆業までこなすという時の文化系スターを生み出した自由の森学園とは、いかなる学校なのか。

 自由の森学園は1985年の創立以来一貫して学力偏重の画一的な教育にアンチテーゼを唱え、「定期テストを行わない」「数字で成績をつけない」など、独特な教育方針をとっていることで有名な学校。長男が通っていた縁もあり、菅原文太が理事長を務めていた時期もある。

 そんな自由な校風ゆえ、卒業生はバラエティに富んでおり、SAKEROCKの元メンバー(星野源、浜野謙太、田中馨、伊藤大地、野村卓史)はもちろん、永積タカシ(ハナレグミ、元SUPER BUTTER DOG)、日暮愛葉(SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER)、タレントのユージ、『ブラック・ラグーン』(小学館)の著者である漫画家の広江礼威、『北の国から』(フジテレビ)でおなじみの吉岡秀隆など、クリエイティブな職種を選ぶ人も多い。

 星野自身は、ウェブサイト「日経ビジネスオンライン」(2012年12月4日付)に掲載されたCMプランナー・澤本嘉光との対談で、出身校の特殊な校風をこのように語っている。

「自由の森は、中高一貫の学校なんですけど、雰囲気は大学みたいなんですよ。私服だし、中学は単位が必要ないので、授業に出なくても卒業できるという。本当は授業には出なきゃいけないんですけど」
「授業に出ないと、もちろん先生は怒るんですけど、僕は授業中にずっと、ギターの練習とか芝居のけいことかをやっていたので」

 自由の森学園では主要5科目を中心に据えた詰め込み型の序列教育ではなく、自分自身で考える力を生徒に身につけさせることを目標にしており、前述した通り、一般的な学校で行われる定期テストはなく、授業を受けた生徒が書いたレポートに教師がコメントを添えて返すかたちで学習進度の区切りを付けている、という。

 さらに表現教育に重きを置いているところも特徴的で、音楽は中学から高校まで6年間必修、美術でも一般的な絵画の授業のみならず、大工や染織といった分野を選ぶこともできる。卒業生にクリエイティブな職種の人が多いのも、こういったところに理由があるのだろう。

 ただ、星野源は同じ埼玉県出身とはいえども、川口市の出身で飯能市とはかなり距離がある。片道2時間もかけて通学していたらしいが、それでも自由の森を選んだのには、こんな理由があった。


「すごく内気な子供だったんです。小学校のときに内気すぎて、親が、「これで普通の公立中学に行ったら、いじめられるかもしれない」と心配したんですね。小学校のとき、若干ちょっといじめもあったので、それで神経性の腹痛によく罹って、通学路の途中までしか行けない、みたいになっていたんです。
 一時期は毎朝、途中にあるスーパーのトイレに寄ってから行く、みたいなのが日課で。それで遅刻が多かったので、これで公立はやばいぞ、ということで、親が見つけてきてくれたのが自由の森だったんです。ここなら遅刻しても大丈夫だという」

「遅刻しても大丈夫な学校」という理由はなかなか突飛だが、一方で、学校の教育方針に惹かれて入学を決める人もいる。"ハマケン"こと浜野謙太は神奈川県の実家を出て寮生活をしてまで自由の森に通った。その理由をウェブサイト「CONTRAST」のインタビューでこのように語っている。

「自由の森学園はアンチ序列教育の人たちが集まるんです。「今の学校のシステムはおかしいんじゃないか?」っていうポリシーを持った子どもたちが集まって、自分たちが思う学校像を作る学校というか(中略)幼なじみの女の子がいるんですけど、その子が自由な校風の学校を受けるって話してくれて。社交辞令で「面白そうだね。今度、資料とか見せてよ」なんて言ったら、住んでた団地でその子のお母さんはカリスマ的なお母さんで、それがウチのお母さんの耳にも入って。
「謙太は序列教育へのアンチテーゼを掲げる高校に入りたい意志を持っている。親としては大学に進学してほしいけど、ここは謙太の意志を汲み取って、その学校に行かせてみよう」なんていう話になってて、親に火が点いちゃったんですよ(笑)」

 偏差値と有名大学進学率ではなく、アンチ序列教育・自由な校風を重視する。そういう学校の選び方があることは子どもの選択肢の幅を広げることにつながると思うが、他方で保守メディアからは「生徒の管理がなっていない」「校内でタバコが黙認されている」「無断遅刻や無断欠席がまかり通っている」などとバッシング対象にもされてきたのも事実だ。

 では、こうしたバッシングを生徒はどう受け止めているのか。自由の森学園の卒業生に話を聞いてみると、あっけらかんとした返事が返ってきた。

「たしかに管理はなってないです(笑)。授業に出ないと『教室入りなよ~』って先生からは言われるけど、僕は授業中にずっとギターの練習とか芝居のけいことかをやっていたし、授業に出なくても卒業はできました。
 僕が通っていたとき校則は3つしかなくて、『学内でスケボーしない』『学内でタバコを吸わない』『校舎内は土足厳禁』、これだけでした。それでも、タバコを吸っているところを先生に見つかっても注意されるだけで停学とかにはならなかったし、『土足厳禁』に関しては生徒が誰も上履きに履き替えないので途中から靴箱がなくなって土足もOKになっていました。いまがどうかはわからないですけど」

 学校に子どもの管理・監視を求める人々が聞いたら卒倒しそうな内容だが、しかしこの卒業生は「何でも自由にやらせてくれるからこそ、自由がもつ『責任』を学ぶことができた。自ら考えて選択する。受け身ではなく、自分から考えて行動する。
そういう力を身につけることができたのはあの学校だったから」と言う。唯一、彼は苦労したこととして「厳しい上下関係を知らないままだったから、社会人になって敬語がなっていない!と怒られたこと(笑)」と語ってくれた。

 じつは、星野源も同じようなことを語っている。

「それでも先生は、「本当にお前がやりたいんだったらいい。ただし後で後悔するのはお前だよ」と、言っていました。とにかく何もかも自己責任なんです。授業に出なければ先生はもちろん怒るけど、別に罰は加えられないし、退学にもならない。
 ただ、やっぱり今、すごく後悔しているのは、勉強しなかったことで、ここに来て、本当に罰を与えられている感があります。僕は本当に知能が低いというか...」(前掲「日経ビジネスオンライン」)

 このように星野は後悔をしているようだが、しかし、「勉強ができること」と「知性」はまったく別のものだ。そして、たとえ勉強ができなくても、人々を惹き付ける音楽や演技、文章を発表できる「才能」と、物事を俯瞰で捉え普通の人とは少し違う見方で切り取る「感性」は、自主性を重んじる中学や高校で受けた独特な教育にきっと素地があるだろう。

 既製の学校教育に対してオルタナティブを提唱する。そんな学校から、新しいタイプのクリエイターがこれからも登場することが楽しみだ。

(新田 樹)

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