●相方・吉村崇よりも「破天荒」な徳井健太の真の姿

 一見地味な雰囲気とは裏腹に、実は「破天荒」キャラの相方・吉村崇よりも「破天荒」であることが定着した感のある平成ノブシコブシの徳井健太。

 数千万円規模の借金をつくってまでギャンブルにのめり込むギャンブル狂であり、また、「本当は千葉県出身で北海道出身ではないこと」「結婚して子どもが生まれたこと」「両親が離婚したため一時期母方の苗字になっていた」といった大事なことを「聞かれなかったから」という理由ですべて相方に黙っていたなど、一般人の感覚とは乖離した彼の人柄を伝えるエピソードは数多い。



 そんな経緯から「サイコ」とのあだ名がつき、徳井のことをもっとも理解しているであろう相方の吉村にも「相方は非常に難しい人なんです。あまのじゃくで、例えば、一緒に戦っていたはずなのに、なぜか相方に刺されたりする。サイコロみたいで、いまだに何の数字が出るか読めないんですよ」(「月刊ザテレビジョン」2011年11月号/KADOKAWA)と言わしめる徳井だが、そんな彼の両親もまた、徳井並み、もしくはそれ以上に癖のある人物であることはよく知られている。

 14年9月に放送された『オレたちゴチャ・まぜっ!~集まれヤンヤン~』(MBSラジオ)のなかで徳井は、冷蔵庫に入っていたウインナーを冷たいまま温かいご飯に突き刺して食卓に並べる不思議なおふくろの味エピソードを語ったり(ウインナーを茹でたりレンジに入れるのが面倒なので、お米の温かさでウインナーを温めようとしていたらしい)、父がギャンブルでこしらえた借金により自己破産したことがあるといった話を披露していた。とはいえ、メディア上で家族をネタにしていることが伝わると父が激怒するとのことで、詳細までは明かされてこなかった。

 ムック本『文藝芸人』(文藝春秋)に徳井が寄稿した短編小説『団地花』では、そんな自身の家族のことが赤裸々に綴られている。


「自伝的家族崩壊小説」というキャッチフレーズが打たれ、〈幼い頃から感じていた家族への違和感をいつか小説にしたいと思っていた〉との徳井自身のコメントがついている『団地花』という作品。小説である以上、もちろんある程度の脚色は含まれているだろうが、前述したような家族エピソードを踏まえたうえで読み進めると、何ともリアルな描写に溢れているのだ。

●平成ノブシコブシ徳井健太が小説を通して明かす家庭環境

 舞台は千葉県君津市。実際に徳井が中学時代を過ごした場所である。サラリーマンの父・孝、専業主婦・優子、徳井自身をモデルにしていると思われる謙の3人を中心に物語は進行していく。母はおでんであろうとシチューであろうとすべての料理をワンプレートに混ぜ込んで済ませようとし、父は仕事とギャンブルで家庭を顧みない人物として描かれる。


 そんな綱渡りの家庭環境は、父が神戸に単身赴任することになって決定的に崩れることになる。まず、母がキッチンドリンカーとなった。昼間から4リットルペットボトルの大五郎をひとりで飲み干すほど酒量が増えた果てに、ついには被害妄想に取り憑かれ始める。謙を呼んで「ほら、あそこ。あそこの向かいの団地に人がいるだろ? あいつがな、いつも私の悪口を言ってくるんだ!」と叫んだり、また、君津駅前の階段裏にヤンキーがスプレーで書いた「ケンカ上等!」「テンジョウテンゲユイガドクソン」といった落書きを指差して「これ書いたのお前だろ!」と謂れのない難癖をつけたりし始める。こんな状況ではもちろん家事などできるわけはなく、謙は母に代わって掃除、洗濯、炊事すべての家事を行うことになる。


 学校があるうちは逃げ場所があるからまだいい。しかし、家以外に行くところのなくなる夏休みは地獄だった。そしてある事件を機に、謙はついに音を上げることになった。

 無理やり用事を見つけて外に出かけ家に帰ると事件は起きていた。家中の電化製品のコンセントが抜かれ、すべてのコンセントの穴にケチャップがべったりと塗り付けられていたのだ。そして謙は神戸に単身赴任した父にSOSを出す。


 しかし、父は神戸で不倫に溺れており、「人間酔っ払うと色々おかしなことになるんだ」などと軽くあしらってなかなか帰って来ない。そして、久々に父が千葉の家に帰ってきた日、母は大五郎がなみなみと注がれたコップを父の頭に振り下ろした。鮮血と焼酎が飛び散るなか、家族は一つの決断を......。

●平成ノブシコブシ徳井は2年前から小説執筆を明かしていた

 母の独特過ぎる料理や、父のギャンブル癖など、これまで徳井が語ってきた家庭環境とも一致するところの多い本作。不倫やアルコール中毒問題がどこまで事実に即しているかはわからないが、しかし、この小説を書くことが徳井にとっては切実な問題であったことは確かだ。

 というのも、徳井が小説執筆の意思を明らかにしたのは昨日今日の話ではない。
たとえば、15年9月には『PON!』(日本テレビ)のなかで、吉村が平成ノブシコブシでライブをやろうと徳井に提案したら「本を書こうと思っている」と断られたエピソードを語っている。

 16年3月、『文藝芸人』出版にあたり開かれた記者会見で徳井は『団地花』という小説についてこのように語っていた。

「徳井家は悪魔の家庭。いつか復讐してやろうと思って書いてやりました」
「親に会わせる顔はないなと思っている。がんばって書きました」(ウェブサイト「お笑いナタリー」)

 そして、『団地花』ではまだ書ききれていない部分があることから、この続きを書きたいと思っていると明かし、このようにコメントしている。

「読む人の気分を悪くしてやりたい。
胸糞の悪い家庭なんです。こんなのうちの父親が見たら絶縁ですけど......。乞うご期待」(前同「お笑いナタリー」)

 親との絶縁を覚悟してまで、小説という場を通して家族へ復讐を試みる平成ノブシコブシ徳井健太。彼の次なる作品はどうなるのか? 又吉とはまた違った意味で注目である。
(新田 樹)