ここ最近、女性専用車両をめぐって問題が多発している。鉄道会社が女性専用車両を設けていることは「男性差別」であるとして、女性専用車両に男性が乗り込みトラブルを起こす事件が多発しているのだ。
しかし、ワイドショーのこの問題への反応はどこか鈍いものだ。「男性の言い分もわからないでもない」といった、ある種の「どっちもどっち論」がもちだされ、トラブルを起こした男性たちの卑劣な行動への批判はもちろん、そもそもなぜ女性専用車両が導入されたかといった痴漢問題への本質的な言及や、女性専用車両をめぐって「男性差別」という逆張りのロジックがもちだされるグロテスクな現象についての言及が満足になされていないのが現状だ。
だが、2月28日放送の『直撃LIVE グッディ!』(フジテレビ)は違った。番組では、まず、2月16日に東京メトロ・千代田線で起きた騒動と、同月22日にJR東日本・京浜東北線で起きた騒動の動画を紹介。
これを受けたスタジオで、番組MCの安藤優子が「女性だけが優遇されてるってことが我慢ならないってことでしょ? 優遇されてるわけじゃないじゃないですか。痴漢冤罪を防止するという意味では男性側のメリットもあるじゃないですか。これは女性とか男性差別の話ではないと思いますよ」と怒りを滲ませると、三田友梨佳アナウンサーも後をつぎ、痴漢という犯罪がいかに被害者に恐怖を与えるものであるかをこのように語ったのだ。
「全然気持ちを理解してないですよね。たぶん、痴漢に遭ったことがある人じゃないと、どれだけの恐怖心なのかわからないと思うんですよね。私のまわり、ほとんどの人が痴漢に遭ったことがあって。
この日の『グッディ!』では、「どっちもどっち論」などは登場しなかった。
女性専用車両に男性が乗ることは厳密には違法なことではなく、鉄道会社もやむを得ない事情がある場合は男性が乗ることも認めており、件の男性らは、それをタテに女性専用車両に強引に乗り込み居座っている。もし体調が悪いとか、車椅子やベビーカーを使用していてその車両が乗降しやすいなどの事情があるのならそれを説明すれば、女性たちも鉄道会社も男性だからというだけで無理やり「降りてくれ」などとは言わないだろう。
しかし、今回トラブルを起こしている男性たちはそうしたやむを得ない事情によるものでなく、女性たちへのハラスメントを目的にしているのは明らかだ。女性専用車両に乗っている女性たちのなかには、痴漢被害のPTSDで女性専用車両でなければラッシュ時の電車に乗れないという人だって少なからずいるだろう。そうした女性のライフラインを奪う卑劣な行為が、違法でないからといって肯定されていいはずがない。安藤と『グッディ!』MCを務める高橋克実は、違法かどうかの問題じゃないとして、女性専用車両とシルバーシートとの類似性を挙げつつ、このように語った。
「じゃあ、シルバーシートとかってどういうことかというと、気持ちじゃないですか。『どうぞ』っていう。これだって、ただ単に『どうぞ』っていうだけの話なのに、言葉の揚げ足をとって、それをこうやって動画に起こすっていうのが、同じ国の人として、しかも男子として、ものすごい悲しい気持ちになりましたよ、見てて」
また、カンニング竹山は、騒動を起こしている男性たちを「ちっちぇえ男だなぁ」と喝破。
「なぜ女性専用車両ができたかといったら、痴漢とかの被害が多かったわけで。『男性と女性一緒だろ、差別するな』っていうこの人たち主張もあるんだけど、女性が痴漢に遭うということはそれだけ心の傷が深いわけじゃないですか。これ個人的に言うと、男として言うと、『ちっちぇえ男だなぁ』と思いますね。『ダメな男だな』と思いますよ」
トラブルを起こしている男性は、「鉄道会社はルールを厳格にしてほしい」といった趣旨の主張もしているのだが、カンニング竹山はその発想そのもののバカバカしさも指摘した。
「結局さ、きっちり一個一個ルールつくらないとさ、生きていけない社会っていうか、結局、ルールつくらないと守れない人たちがいっぱいいるみたいなさ、『そこは良い案配で』とかさ、『そこは粋に行きましょうよ』とかさ、そういうことがあるわけじゃないですか、社会っていうのは。守ったり守られたりしながらさ。そこをさ、『文章的にルールがないとちゃんとしませんよ』っていう社会がもうおかしいですよね」
『グッディ』で語られたのは至極真っ当な意見であり、逆に、なぜ他のワイドショーでは女性たちへの卑劣なハラスメント行為に対するこうした明確な批判がコメンテーターの口から語られないのか不思議でならないが、さらに理解できないことには、彼らの意見、とくに三田アナの真摯な訴えに対しネット上では否定的な意見が多数投稿されていることだ。ツイッターにはこのようなコメントが書き散らされている。
〈か弱き女性より、横柄な女性の方が目につく。ガラガラの女性専用車両が隣なのに、そっちに行かない女性も居る。一方的な視点のお話はTVではしない方が良いと思った〉
〈ミタパンが言ったら日本の男性で心動かされる方いるかもしれませんが、やはり女性専用車両ってのは男女差別だと思います〉
〈ミタパンは女性専用車両を避難所だというなら、痴漢対策の避難所なのに「快適だから乗る」「化粧ができるから乗る」「食事ができるから乗る」「座れる」「男が嫌いだから」と痴漢対策とはまったく関係のない理由で乗車している多くの女性についてもコメントしないとね〉
〈単なるワガママの正当化〉
〈どんなに美人でもこういう発言聞くと興醒めする。
「女性専用車両は男性差別」という主張に同調し、三田アナのほうを非難する声が少なくないのだ。問題の本質をまったく理解していないとしか言いようがない。なぜ女性専用車両ができたかといえば、三田アナやカンニング竹山も指摘したとおり、女性に対して男性が痴漢をはたらくという性犯罪が横行しているからだ。この大前提をほとんど無視して「男性差別」を訴えることは、痴漢は重大犯罪だという認識に立っていない証拠であり、同時に女性に対する暴力や差別を助長・是認する行為である。
痴漢犯罪の半分以上が電車内で発生している。警視庁が2011年に公表した「電車内の痴漢防止に係る研究会の報告書」によると、2009年に電車内で起こった「強制わいせつの認知件数」は340件、「迷惑防止条例違反のうち痴漢行為の検挙件数(電車内以外を含む)」は3880件にものぼる。
しかし、これは氷山の一角に過ぎない。先に述べた通り、三田アナは番組内で「痴漢に遭ったら声も出ないし、動きもできないですし、ただ震えて涙が出てくる」と指摘したが、そういった状況が起こることは調査からもわかっている。同報告書のネット調査では、「過去1年間に電車内で痴漢被害に遭った」と回答した女性304人のうち、「痴漢被害に遭っても警察に通報・相談していない」と答えた人は271人。つまり、約9割の女性が「泣き寝入り」しているのだ。
痴漢という女性を狙った男性による「犯罪」が後を絶たない。そういう状況下で鉄道会社は女性専用車両を導入しているわけだが、それはけっして根本的な解決策ではないことは言うまでもない。
男性というだけで乗車できない車両があることを「男性差別」と言うのならば、この状況をつくり出している痴漢犯罪者を憎むべきで、女性専用車両を非難するのはお門違いだ。女性専用車両に反対する前に、やれることはたくさんある。痴漢を含む性犯罪のさらなる厳罰化、警察と鉄道会社の連携強化を訴えることもできるし、男性たちがそうして連帯してくれることを、女性たちは大いに歓迎するだろう。
また、女性専用車両を批判する声として「普通の車両はひどい混みようなのに、女性専用車両は空いていてずるい」というものがある。これも同じように、憎むべきは、殺人的なラッシュをつくる要因となっている日本企業の働き方や交通システムであり、女性専用車両に問題を押し付けるのは違う。
また「女性専用車両に乗ることは違法ではない」というのをタテに、件の男性らは女性専用車両に乗り込み居座っているが、鉄道会社の対応も弱腰すぎるのではないか。
『グッディ!』では、「女性専用車両は男性平等に反するのではないか」という問題が過去に裁判で争われたことがあることを紹介していたが、これについては、2011年7月に東京地方裁判所により「平日の通勤時間の一部、しかも6両の車両のうち1両のみで、男性が目的地まで乗車するのを困難にするものではない」として「鉄道会社による女性専用車両の設置は妥当」との判決がくだされている。だから、鉄道会社各社も、もっと毅然とした対応をしてもいいはずだ。
それにしても、本稿で挙げてきたこれらのことは別に理解するのが難しいことでもなんでもない。こんな明らかなミソジニー、ハラスメント行為には、メディアも「どっちもどっち論」で語るのでなく、三田アナのように毅然とNOを突きつけるべきだろう。
(編集部)