今月6日に放送されたNHK『日曜討論』で、2020年の新憲法施行について「(考えに)まったく変わりはない」と明言した安倍首相。今年、改憲案の国会発議に向けて大きく動き出すことは必至な情勢だが、そんななか、ひそかに話題を集めている“歌”がある。
それは、自由民主党政務調査会の嘱託職員であり、「自民党安保政策の名物職員」「安保政策・憲法に精通」と言われてきた重鎮である田村重信氏が発表した、「憲法改正ソング」だ。
歌のタイトルは、「憲法よりも大事なもの」。1月25日に田村氏が発売するアルバム『Songs of Life』に収録される一曲で、現在、YouTubeの「田村重信・たむたむ歌のチャンネル」で先行して同曲が公開。クレジットによれば〈原案:田村重信 作詞・作曲・編曲:坂本裕介〉とある。
「憲法よりも大事なもの」というタイトルからしても憲法軽視が甚だしい自民党の姿勢が滲み出ているが、もっとすごいのは、その歌詞だ。
〈いつまでも 同じ服は着られない 大人になったら もう着替えよう〉
〈辛い現実から 目をそらしたままで 生きてゆくのは 臆病だから〉
憲法を服に喩える感覚も、〈辛い現実〉が誰目線の話なのかもさっぱりわからないが、サビで、田村氏はこう熱唱するのだ。
〈憲法なんて ただの道具さ 変わること 恐れないで 明日のために〉
憲法は〈ただの道具〉……!? 言うまでもなく憲法は国のあり方を定めた最高法規であり、国民の権利や自由が制限されないよう国家権力を縛る、国民にとって、もっとも重要なものだ。それを〈憲法なんて ただの道具さ〉と切り捨てた挙げ句、J-POPの応援ソングのノリで〈変わること 恐れないで〉と言われても……。
その上、わかりやすいのは、Cメロでは〈誰かの助けを待つんじゃない 自分の力で立ち上がろう〉と歌っていること。もはや憲法改正が「戦争できる国づくり」であることを隠そうともしていないのである。
嘱託とはいえ自民党の重鎮職員が、こんなトンデモソングを歌手としてリリースする……。しかも、田村氏のアルバム発売に合わせ、今月11日に産経新聞が〈「歌の力」で改憲機運高め 自民党名物職員、オリジナル改憲ソングをリリース〉と宣伝。
●定年後、安倍首相の「よろしく頼む」で自民党職員に再雇用された田村氏
そもそも、田村氏は2015年にも、SEALDsについて〈民青 過激派 在日 チンピラの連合軍〉とツイートし、「ネトウヨ脳の自民党職員」として話題になった。じつは、その際も田村氏の歌手活動にスポットが当たり、「俺の前では女になれよ」というタイトルだけでも悪寒が走る歌を発表していたことに批判があがっていた。
だが、自民党は田村氏を重用し、集団的自衛権の行使容認をめぐっては田村氏を全国の勉強会に派遣、その正当性を広める重責を担わせてきた。そして、田村氏が昨年1月に65歳の誕生日を迎えて定年退職した際も、その直前に安倍首相はわざわざ官邸で田村氏と面会し、「またよろしく頼む」と挨拶(産経新聞2018年1月12日付)。実際、田村氏は同年8月に再雇用されたのだ。
市民を貶めるデマを平気で垂れ流す人物を重用し、〈憲法なんて ただの道具さ〉などと吐き捨てる「憲法改正ソング」を発表させる──。安倍自民党の反知性ぶり、アホさ加減の底の抜けっぷりが、これでよくわかるというものであろう。
しかし、警戒しなければならないのは、今後、こういった改憲に向けた動きが加速することだ。田村氏の場合、歌を聴けばトンデモ感が滲み出すぎて呆気にとられるだけで終わりだが、昨年、ゆずやRADWIMPSが発表した“愛国心扇動ソング”(詳しくは既報参照→https://lite-ra.com/2018/04/post-3944.html、https://lite-ra.com/2018/06/post-4073.html)のように、人気アーティストによる自覚的、あるいは無自覚な改憲への援護射撃が起こることも十分に考えられる。「たかが歌」とはけっして看過できない問題であることを、ゆめゆめ忘れてはいけない。
(編集部)