■渡辺淳一にもたかじんと同様のトラブルが勃発?■

X  今年の文壇をふりかえるってことなんだけど、これまで以上に今年はとにかく本が売れなくて、さみしい状況だったね。とくに、小説は......。



Y 1位が「半沢直樹」シリーズの最新作『銀翼のイカロス』(池井戸潤)。同じく『ロスジェネの逆襲』も5位にランクインしているね。去年の半沢直樹ブームの余波が1位で、9位の『海賊と呼ばれた男』(百田尚樹)も去年の作品。いかに今年が不作だったか。村上春樹の『女のいない男たち』もミリオンに届かなかった。

Z いちばんの話題はやっぱり、百田尚樹の『殉愛』騒動だよね。ただ、百田先生の『殉愛』騒動については、リテラでもう十分詳しくやっているからそちらに譲るとして、文壇ではもうひとつ遺族のからむ争いが話題になった。

Y 4月に亡くなった渡辺淳一の愛人と遺族がもめたという話でしょ。川島なお美との"失楽園"不倫をはじめ、黒木瞳など、生前は数々の女性と浮き名を流したナベジュン先生だけど、長年秘書を務めていたMさんとも実は長く愛人関係にあったといわれている。生前仕事関係はMさんが仕切っていたから、出版各社が合同で開いたお別れの会も、Mさんと相談しながら進めていたんだよ。ところが、娘さんが勝手に進めないでとクレームを入れ、社長クラスも巻き込む大騒ぎに。すでに告知も打っていたのに会場を東京會舘から帝国ホテルに変更になったというんです。


X お別れ会の変更は遺族がナベジュンが常連だった銀座のクラブの女性が来るのを嫌がったんじゃないかという話もあったけど。ただ渡辺淳一先生をめぐってはMさんとの遺族の間にまだ火種があるという話もあるから、来年もまだ目が離せないね。

Z ナベジュンといえば、豊崎由美の辛口評に激怒し掲載していた「TITLe」(文藝春秋)という雑誌を休刊に追い込んだという事件もあったけど、愛人の川島なお美を自作の『失楽園』の主役に抜擢し、娘を集英社に入社させ......と作家の力を誇示するエピソードがほとんどそろっていたね。それでいて憎めないという。そういう意味でも惜しい人物を亡くした。

Y でも、作家の権力は、百田の一件を見てもわかるようにまったく弱まってないよ。とにかく『殉愛』問題なんて出版社系週刊誌がほとんど百田擁護に回ったわけだから。

X 「週刊新潮」の連載をまとめた『フォルトゥナの瞳』はそれほど売上げが芳しくなくて、「たいして売れてもないのに、無駄にタブーだけできた」って新潮社の編集者はグチってたよ。

Y 新潮社は百田と山本周五郎賞をめぐっても一悶着あったからね。「週刊新潮」で連載を始めるにあたって、百田が「気軽に頼んでくるけど、新潮社は一度も僕を候補にしてくれんやないか」と軽口叩いたのを、真に受けた担当の編集幹部が『海賊と呼ばれた男』を周囲の反対を押し切って山本周五郎賞の候補作に無理矢理ねじ込んだらしいんだ。ところが、当の百田はノミネートを辞退したという......。

Z でも『フォルトゥナ~』も売れてないって言ったって、10万部前後はいってるでしょ。
それだけ売れる作家は貴重だよ。

■有川浩、湊かなえの女王様ぶりに編集者は戦々兢々■

Y だから、逆に作家の力が強まってるんだよ。本が売れないと、数少ない売れっこ作家への依存度もますます高くなる。売れてる作家の出版社に対する要求やワガママは、どんどんエスカレートする傾向にあるよね。

X 「半沢直樹」シリーズで、大ブレイクした池井戸潤も扱いがなかなか大変らしいよね。事務所の方針なのかもしれないが、かなり金にシビア。自分の著書のパブでもギャラが要ることもあるらしい。

Y 女性作家では有川浩と湊かなえもかなりのものだ。文壇の新女王なんていわれている。

X 有川といえば、文春からの版権引き上げ事件があったね。テレ東で深夜ドラマ化されて異例のヒットとなり文庫の売上げも順調だった『三匹のおっさん』の版権が、文春から新潮に変わった。

Y 文春と有川がもめて決裂、有川が版権を引き上げた。
同じく文春から出ていた『旅猫レポート』は講談社に、「別册文藝春秋」が初出だった『キャロリング』は幻冬舎に。『三匹のおっさん』は来年にドラマの続編も決まってるのに、文春はもったいないことをしたね。

Z 有川は細かいことにまで気が回るタイプで、装丁や販促にもかなり細かい指示を出すなど、担当編集者への要求も厳しい。で、文春の担当編集者はストレスからか体調を崩してしまい、上司が有川に抗議したらしいんだ。実際に有川が原因だったかはわからないが、これが版権引き上げにつながったらしい。

Y でも、有川の要求がハードっていうのはある。本の部数も「○万部以上で」とか言ってくるらしい。それでも各社ともやっぱり有川の本は出したいから、みんな取りに行ったらしいね。

Z その有川と同じ年で同じ関西在住の湊かなえも、難しいというね。数年前には"断筆騒動"もあった。本屋大賞も受賞した湊のデビュー作『告白』が映画化され大ヒットしたころに、「女性セブン」が「『告白』湊かなえさん子供を寝かせてから書いた24時のミシン台」という記事を掲載したんだ。タイトルからもわかると思うけど、淡路島に住む湊の知人や旧友に取材した"作家の素顔"的な、美談仕立てのもの。
悪口でもスキャンダルでもなかった。ところが、湊はこの記事に大激怒。自分の知らない間に周辺取材をされたことが恐怖だったようで、「プライバシーの侵害だ」「子どもが誘拐されたらどうする」と怒り心頭で、出版各社を巻き込む大騒動になった。

X 「女性セブン」の版元である小学館からは湊の本は出ていなかったんだけど、他社の編集者から小学館の上層部に「湊さんがこんなことがあっては執筆できないと言っている。このままでは、作家を辞めてしまうかもしれない。なんとかしてくれ」とクレームが入ったそう。

Y 「女性セブン」が謝罪に出向き、編集者たちの慰留が功を奏し、この"断筆騒動"は落ち着いた。で、この体験をもとに書いたのが、実は今年井上真央と綾野剛主演で映画化された『白ゆき姫殺人事件』だったんだ。『白ゆき姫~』はマスコミの過熱報道やSNSでの噂話から主人公が犯人に仕立てられてしまう、というものなんだけど、この「セブン」の体験からそこまでの小説をつくってしまう妄想力はさすが。

■朝井リョウ、川村元気、西尾維新...若手作家の素顔とは?■

Z 若手作家はどうかな。あんまりそういう濃い話は聞かない気がするんだけど。むしろそつがないというか、みんなスマート。


X 典型は朝井リョウだね。朝井は早稲田大学在学中に『桐島、部活やめるってよ』でデビュー、男性としては最年少の24歳で直木賞をとるという順風満帆の作家生活を送りつつ、私生活でも大学卒業後は東宝で会社員生活を送るという、抜け目なさ。本の装丁イラストをジブリにお願いしたのをきっかけに、プロデューサーの鈴木敏夫にも気に入られるという世渡り上手。「朝井はバカだなあ」なんて言われながら、けっこうかわいがられてる。

Z その東宝で朝井の先輩にあたる看板プロデューサー・川村元気もやることなすことそつがない。本業の映画プロデュースでも『電車男』に『告白』『悪人』『モテキ』と大ヒットを飛ばしてる川村だけど、はじめて書いた小説の『世界から猫が消えたなら』もいきなり30万部を超える大ヒットで、昨年の本屋大賞にもノミネートされた。

X 川村はプロモーションや販売施策のエキスパートだからね。吉田修一の『悪人』が映画公開と同時に文庫化されたとき、映画のプロデューサーだった川村が、文庫の装丁やプロモーションにまで細かく口出しして、ヒットさせたという逸話もある。自分の本でもかなりいろいろ仕掛けてるらしい。

Y 「セカネコ」は単行本はマガジンハウスなのに文庫は小学館だったけど、それも川村の意向らしいね。しかも、ふつうは同じ版元の宣伝が入る折り込み広告に同時期に他社から出た自分の本の宣伝を入れさせたという、新人作家とは思えない力技。そのうえ「セカネコ」は佐藤健と宮崎あおい主演で映画化だもんね。


X ただ、川村はプロデュース手腕はピカイチだけど、小説の評価は微妙。川村は、『宇宙兄弟』の担当編集者で講談社から独立して作家エージェント・コルクを立ち上げた佐渡島庸平と仲がいいんだよ。ところが、コルク立ち上げのときに周囲の人間が佐渡島に「川村さんに声かけないの?」ときいたら、「いや、あの小説は......」と苦笑してたらしい。たんに、プロデューサー同士でバッティングするのを嫌がっただけかもしれないけど。

Z あと、若手といえるかどうかはわからないけど、売れてるといえば、西尾維新か。作家別の売上げ1位だもんね。6位『終物語(中)』、8位『終物語(下)』、10位『続・終物語』と3作がベスト10入りしている。

X 西尾維新は実像や私生活は、トップシークレット。メインの版元である講談社でも担当以外、ほとんど会ったこともなく、どんな人か漏らしちゃいけない決まりになってるんだとか。旧来の文壇とは完全に別の世界だ。

Y ただそれでも漏れ伝わる噂によると、ブサメンではなく爽やかなルックスの好青年らしい。声優に言いよられることもけっこうあるみたいだけど、興味ないと言って全く相手にしないんだって。ある打ち上げで、某有名女性声優がボディタッチしまくったんだけど、それもオール無視だったという話もある。余裕のなせるわざなのか、内向的すぎるのか、どっちかわからないけど、いずれにしても、ナベジュン先生には想像もつかない世界だろうね。

■山内マリコ、綿矢りさの結婚と柳美里の貧乏状態■

Z 女性の若手だと、窪美澄、柚木麻子、山内マリコ、彩瀬まるあたりが、女性書店員の人気が高いね。窪、山内、彩瀬はR−18文学賞の出身。

X 地方の女子の鬱屈を描いたデビュー作『ここは退屈迎えに来て』が、スマッシュヒットした山内マリコ。こじらせ系女子に人気の山内だけど、先日結婚を発表し、「an・an」でも結婚のこと語っているね。某評論家と不倫の噂もあったけど、本人は意外とこじらせ女子じゃなかったのかな。

Y 結婚といえば、綿矢りさも結婚を発表したね。年末の30日に発表って芸能人か!という感じだけど。しかも相手は、霞が関ではたらくキャリア官僚。綿矢もここ数年、こじらせ女子とか非リア充の小説をたくさん書いてたけど、本人は全然こじらせてなかったんだね。

X 出会ったのは4年半前くらいらしいけど、4年半前といえば、第3作『夢を与える』執筆以降のスランプ状態から抜け出した頃だよね。スランプの原因には失恋の影響もあったとインタビューで語っていたから、意外と恋愛に左右されるタイプだったんだね。今の夫と出会ってスランプ脱出以降は、執筆のペースもかなりあがっているし、作品の幅も広がっているし、小説の面でもいい相手なのかもしれないね。

Z 拠点にしていた京都から、すでに東京に越してきて結婚生活を始めてるらしいけど、「文學界」1月号に載ってる最新作「履歴のない女」はもろ新婚生活について書いていて、実体験ぽいなと思っていたらやっぱりという感じ。しかしこうしてみると、女性作家は男性より話題を提供してくれるね。

Y 女性作家はベテランもけっこう暴れてるしね。林真理子は「週刊文春」で百田尚樹をタブーにする週刊誌にかみついたり、文壇の和田アキ子みたいな存在になってるし。

X 元祖お騒がせ作家・柳美里への原稿料未払い騒動もあったね。月刊誌「創」が7年間に渡り、連載の原稿料を合計1142万8078円も支払っていなかったというもの。最終的には原稿用紙1枚4000円(「創」の最低稿料)×387.7枚の約150万で手打ちした。

Z 「創」に1千万円って......つぶれちゃうよ。でも、柳はホントお金がなくて大変みたいだね。あちこちに借金してるらしいし。

Y ていうか、さっきから何度も話してるけど、本が売れてないから、柳だけじゃなくてみんな苦しい。いまや食えてる作家のほうが珍しいくらい。

X で、そういう食えない作家から羨望の目で見られてるのが、さっきも話に出た佐渡島の作家エージェント・コルク。マンガ家では、『宇宙兄弟』の小山宙哉、安野モヨコ、作家では阿部和重、山崎ナオコーラ、伊坂幸太郎、平野啓一郎とか13名のクリエイターと契約しているようだけど、次から次へと新しいかたちの仕事をつくりだしている。先日は阿部和重と伊坂幸太郎のコラボ小説『キャプテンサンダーボルト』を出版したし。講談社からはうまくやりやがって、と嫉妬の目で見られているらしいけど。

■作家エージェント・コルクの台頭と文学賞の権威失墜■

Z いや、でもどうかな。コルクのやってることって、ビールのCMでローラに『宇宙兄弟』読ませたり、作家にタイアップ小説書かせたり、ってそんな新しいことかな。それこそ80年代からある手垢のついた手法って感じがするけど。コルクと所属作家はそれなりに儲かるかもしれないけど、新しい出版の形とか、新しい表現を生み出すとか、そういうことにつながるとは思えない。

Y でも、作家からしたら収入の道をつくってくれるわけだから、ありがたい話だよ。出版社なんて基本ほったらかしだからね。本を売ることさえそんなに熱心じゃない。営業熱心な作家に対して出版社がよく不満を言ってるけど、自分が書店営業に付いていかされるのがめんどくさいとかそういうことでしょ。大手は、担当した作品が売れようが売れまいが高収入は保証されてるから、売れないってことに対する危機感が作家に比べて薄いんじゃないかな。

X でも、こういう話をきいていると、つくづく昔ながらの文壇は崩壊したというのを実感するね。新自由主義じゃないけどとにかく「売れることが第一」という状況になっていて。

Y 昔だったら、大御所作家や重鎮の手前、デビュー10年にも満たない作家がここまでやりたい放題するってあり得なかったよね。

Z 序列も崩壊した。百田だって、直木賞選考委員の林真理子にあそこまで言われたらもっとヤバいってなってもおかしくなかったと思うんだけど。

X 文学賞が機能しなくなってるのも大きいよね。もはや、芥川賞・直木賞以外の文学賞を受賞しても、売上げにはなんの関係もないし、芥川賞・直木賞ですら昔ほどは売れなくなっているからね。本屋大賞には完全に負けている。

Y 有川だって直木賞のことを意識していたら、文春とはかんたんに決裂しなかったんじゃないかな。

X 百田は山周賞も、吉川英治新人賞もノミネートを辞退してるけど、直木賞のノミネートは受けるかな。このまえ「週刊文春」で連載が始まったけど、「週刊文春」の連載がまとまって直木賞にノミネートっていうのはよくあるパターン。

Z そういう意味じゃ、文学賞で今、唯一機能しているのは本屋大賞。百田、湊は本屋大賞の受賞者で、有川もノミネート常連だったというのは、ちょっと象徴的な感じがするね。本屋大賞が文壇に新自由主義をもたらし崩壊させたという。

Y でも、その本屋大賞だって、かつてはダブルミリオンも出してたけど、今年の本屋大賞の『村上海賊の娘』は上下巻合わせてミリオンがやっとだったわけだし。出版社の上の連中はわけもわからず「デジタル化」とか叫んでるけど、問題はそういうことじゃない。紙だろうが、デジタルだろうが、小説というコンテンツが読者から見放されつつある気がする。今もかなり苦しいけど、そのうち完全にビジネスとして成立しなくなる時代がくるんじゃ......。

X 年の瀬にそんな恐ろしいこと言わないでよ。       
(敬称略)

編集部おすすめ