緊急事態宣言を発出したにもかかわらず、休業補償を払いたくないために休業要請を2週間見送った安倍政権。独自の休業要請をする東京都も、小池百合子・東京都知事が国の方針に押され、なんとも中途半端なものになっている。
しかし、そんなグダグダな緊急事態宣言の中で、やたら張り切って前面に出てきている権力機関がある。ほかでもない警察だ。
いくつかのニュース番組でも紹介されていたが、夜間、都内の繁華街をN95マスクをした警察官が大量に動員されパトロール。警棒を片手に「自粛要請が出ていることを了解していますか」「緊急事態宣言中なんで帰ったほうがいいんじゃないですか」とほとんど命令に近い口調で、帰宅をうながしているのだ。その様は、ほとんど自粛要請に名を借りた「取り締まり」である。
実は、この動きは緊急事態宣言が出る前からはじまっていた。繁華街だけでなく、住宅街でも、自転車に乗った制服警官や赤色灯を回したパトカーが四六時中巡回するようになっていた。警視庁サイドに言わせると、「休業要請を受けて長期間無人となった店舗や事務所が盗難被害に遭う恐れがあるからパトロールを強化している」という理屈だったが、名目に過ぎなかった。警視庁関係者が言う。
「上層部はとにかくやる気満々で、小池百合子知事が外出自粛要請を出した3月末ごろから、不急不要の外出を行う都民に目を光らせるよう内々に締め付けがありました、同時に、緊急事態宣言が出たらすぐに動けるように準備しろ、とも。警察が存在感を示す格好の機会と考えたのでしょう」
この警視庁関係者によると、緊急事態宣言が発出されたらすぐ動けるようにと、いつ発出されるか、官邸周辺やマスコミ関係者に盛んに探りを入れていたという。
そして、緊急事態宣言が出ると、全国の警察本部を束ねている警察庁が警戒・警備を強化するよう都道府県警に指示、菅義偉官房長官も8日の記者会見で「各知事が感染拡大防止の対応を行うに当たり、警察においても所要の警察活動を通じて適切な対応をすることになる」と明確に述べた。
さらに、警察を後押ししたのが自治体の首長たちの前のめりな姿勢だ。神奈川県の黒岩祐治知事はわかりやすい例だろう。緊急事態宣言を受けて、黒岩知事は9日、外出自粛を徹底するためさっそく県警に指示を出した。報道陣に向かって「警察官が一声掛けることに大きな意味がある」とアナウンスしたものだから、逆に報道陣に県警が店内の見回りもするのか突っ込まれ、「実際やってみてからの話だ。集まって騒いでいたら、警察官が言うことはあり得ると思う」とうっかり口を滑らせた。休業要請の際、警察権を行使して外出自粛を強制するとほのめかせたのだ。
記者たちのざわつきを察知したのか、黒岩知事はそのあと「夜間に歩いている人を逮捕することはない」と打ち消しに躍起だったが、むしろ否定のために逮捕云々を口にすること自体、市中を取り締まる戦前の憲兵隊あたりをイメージしている証拠なのではないか。
「今回は、国や自治体の首長だけでなく、国民も『外出者を取り締まれ』という声が大きいですからね。強硬な声がけには苦情も多少はありますが、ごく一部。少なくとも警視庁には、いまなら多少、強引なことをやっても、批判は受けないという空気がありますね」(前出・警視庁関係者)
しかも、警察はこうした空気をバックに、強引な捜査や情報操作まで始めている。たとえば、9日、大阪府警がインターネット動画サイト「FC2ライブ」で少女2人のわいせつな行為の映像を中継したとして、公然わいせつの疑いで、21歳の女性と夫の39歳男性を逮捕した。
このとき、大阪府警は「新型コロナウイルスの影響で収入が減少した風俗店勤務の女性が多く集まってきた」という夫婦の供述内容を流し、報道陣に「新型コロナに便乗した悪質な手口」とレクチャーしたのだが、実態は全く違っていた。
「この夫婦は2017年9月から今年2月までに、客の視聴料から約2億8千万円を得たという供述をしており、もっと前からこの中継をやっていた。実際、昨年7月に府警に情報提供されていたんだ。ところが、そのときはまともに動いてなかったのに、今回のコロナ騒動で突然、捜査を始めて、なぜかコロナがらみの事件ということにしてしまったんだ。たぶん『コロナで何かやってるところを見せろ』と上から言われたんだろうね」(大阪府警担当記者)
まさに警察はコロナを口実に権力の拡大、警察監視国家の実現を狙っているということらしい。しかし、幹部のイケイケぶりの一方で、現場は疲弊し、大混乱しているという話もある。今度は警視庁記者クラブ記者の話。
「パトロールに大量の人員が投入されて、人手が足りなくなっている上、警察でも感染が広がっていますからね。品川区の鮫洲運転免許試験場で講師の警察OBや現役警察官が相次いで感染し、閉鎖に追い込まれましたし(12日から再開)、赤坂署刑事課の女性刑事が感染したあおりで署員70人ほどが自宅待機、その穴埋めに警視庁本部から大量の応援を出しました。もっと深刻なのは、渋谷署。留置場にいた50代の男性容疑者が感染していたことが分かり、留置場につながれている容疑者たちの感染拡大が現実味を帯びてきたんです。犯罪を犯したから留置場につないでいるという警察の立場からすると、容疑者を外に出すようなマネはしたくない。そうでなくても代用監獄として劣悪な環境に置かれがちな警察署の留置場です。
今回の緊急事態宣言については、新型コロナ感染拡大を不安に感じた国民のほうも積極的に求めた部分があるが、しかし、だからといって、警察が権力増大にこの状況を利用するし、市民の人権が侵されるような事態は許してはならない。警察当局の動きについても十分なチェックが必要だろう。