報道ステーション+土日ステXより


 開催まで1年を切った大阪・関西万博だが、問題が山積するなかで万博を特集した『報道ステーション』(テレビ朝日)に、ネット上で批判が集まっている。

 というのも、番組では大越健介キャスターが直々に万博会場を現地取材し、さらには吉村洋文・大阪府知事への単独インタビューまで実施したというのに、万博に持ち上がっている問題点をほとんどぶつけることなく、露骨に万博への期待感を高めるような報道に終始したからだ。

 たとえば、万博会場で工事が進められている大屋根リングに登った大越キャスターは「工期の遅れや資材費の高騰による予算の膨張に対する批判、万博のテーマが見えにくいといった声もあがっているのも事実」と問題点に軽く言及。だが、大阪の街の声を伝える場面では、「(万博への関心は)半々かな」と答えた女性に対し、大越キャスター自ら「大屋根とか登ったら結構いいですよ」などと宣伝をしてみせた。

 さらに、吉村知事への単独インタビューでは、大越キャスターが万博費用が増加しつづけている点について触れたものの、その追及は「資機材高騰しているので理由はわかるけど、ちょっと計画が甘かったんじゃないかという声はあります」という生ぬるいもの。しかも、建築資材や人件費の高騰は開催決定の頃から指摘されていたにもかかわらず、吉村知事の「(資材費高騰は)万博に限らず起きている現象」などという言い訳を、何のツッコミもなく垂れ流した。

 さらに、万博に対する批判は費用の増加だけではないのに、大越キャスターがぶつけた万博の問題点はこれだけ。パビリオン建設の遅れやチケット販売の低迷、ガス爆発事故への懸念、「カジノありきではないのか」という批判など、問いただすべき問題は山ほどあるというのに、何ひとつ追及することなく、吉村知事へのインタビューは終了してしまったのだ。

 だが、もっとも酷かったのは、番組キャスターたちのスタジオでのコメントだ。

 まず、安藤萌々アナが「大屋根リング、映像で見ても迫力がすごいなと思いましたが、実際に上に立ってみてどうでしたか?」と話題を振ると、大越キャスターは「本当に大きいですよね」と口にし、こうつづけた。

「上に立ってみると『あ、そうか』と。1970年の大阪万博の太陽の塔がそうであったように、このリングがきっと、2026年の万博のシンボルになるのかなというふうにちょっと思いましたよね」

「世紀の無駄遣い」とも猛批判されている大屋根リングについて、吉村知事の主張そのままに「万博のシンボルになる」と太鼓判を押す──。しかも、この大越キャスターの発言を受けて、小木逸平アナも「(太陽の塔のような)あの度肝を抜くような存在になると」と畳み掛ける始末だった。

 さらに、大越キャスターは費用増加について「これまでのところ、主催者側の説明というのはやっぱりうまくいっていないと思うんですよね」とコメント。

物価高騰で多くの国民が家計や資金繰りに苦しむなかで、巨額を期間限定イベントに投じることの是非が問われているというのに、「万博協会の説明がうまくいっていない」などと説明の問題に矮小化してしまった。

 そして極め付きは、大越キャスターの締めのコメントだ。

「私たち伝える側についても思ったんですけれども、費用などの課題というのはその都度その都度指摘しながらではありますけれども、やはりこの大阪・関西万博が将来、私たちの子や孫の世代の心の中に残る、そしてあるいは夢を与えるような、そんなレガシーになることを期待しながら、ひとつひとつのニュースを伝えていきたいというふうに感じました」

 課題の指摘などロクにしなかったというのに、「夢を与える、レガシーになることを期待しながら万博のニュースを伝えたい」と報道番組のキャスターが宣言する──。もはや呆れ果てるほかないだろう。

 無論、この『報ステ』の万博礼賛報道には批判が殺到。たとえば、ラサール石井は旧Twitterに〈万博をどう扱うのかと思ったら在阪局と同じ完全なヨイショ宣伝番組〉と投稿し、〈知事に問題をぶつけるふりして、予算倍増は価格高騰のみの理由。

街中インタビューでは賛成意見のみ。大越アナが『大屋根リングけっこういいですよ』と勧誘。なんだよ。ガッカリだ。この人局のいいなりなんだ〉と批判したが、まさに言う通りだ。

 だが、この万博礼賛報道は、大越キャスターだけの問題ではないだろう。

というのも、今回の『報ステ』の万博特集自体、「テレ朝の局としての意向ではないのか」という見方があるからだ。

 実際、テレ朝と万博をめぐっては、玉川徹氏が『羽鳥慎一モーニングショー』で大阪万博の問題点を指摘してきたことを受けて、吉村知事が「玉川徹は万博出禁」と発言。その後、吉村知事は出禁発言を謝罪したが、問題は『モーニングショー』の対応だ。

 批判的な報道に対して為政者が名指しで「出禁」などと取材拒否を口にすることは、権力の濫用、言論弾圧にほかならず、当然、刃を向けられた『モーニングショー』と玉川氏は、放送を通じて反論をおこなうのだろうと思われた。ところが、スポーツ紙やネットメディアのみならず大手紙や他局のニュース番組でもこの吉村発言が伝えられるなかでも、なぜか『モーニングショー』は沈黙。さらに、吉村知事が「言い過ぎた」と謝罪をおこなったあとも、番組ではスルー。

それどころか、万博の話題そのものを番組で掘り下げて取り上げなくなってしまった。こうした不自然な流れのなかでおこなわれたのが、今回『報ステ』の万博礼賛報道と吉村知事の単独インタビューだったのだ。

 しかも、『報ステ』の単独インタビューでは、当然触れるべき出禁発言に言及することもなかったばかりか、吉村知事が出禁発言をめぐって主張していた“万博のプラスのことも報じてほしい”という要望に応えるかのように、パビリオンのブースに参加するという大阪の中小企業を取材した模様まで放送。また、先述したように『報ステ』内で大越キャスターは過剰なまでに大屋根リングを褒めちぎっていたが、吉村知事が玉川氏の発言でとくに問題視していたのが大屋根リング批判だったことを考えると、まるで玉川氏の批判を大越キャスターが穴埋めしたかのようだった。

 こうしたことから、「裏でテレ朝側と吉村知事側が手打ちをしたのでは」「テレ朝の上層部が『報ステ』での特集と引き換えに吉村知事側と取引したのだろう」という見方が広がっているのだ。

 そもそも、報道内容に対して言論弾圧をちらつかせる権力者に対して、報道機関は言論で徹底抗戦すべきだ。

しかし、沈黙を貫いた挙げ句、局の看板報道番組で礼賛報道をおこなうとは、テレ朝は報道機関として終わっているとしか言いようがない。

 実際、テレ朝は、第二次安倍政権以降、放送番組審議会委員長で安倍応援団だった幻冬舎の見城徹社長を通じて早河洋会長と安倍晋三首相の距離が近づいたことにより、政権批判が封じ込められ、政権に批判的なコメンテーターやスタッフが現場から追いやられてしまった。そうした結果、現状のような報道番組の凋落を生んだのだ。

 テレ朝をめぐっては、「10年前のように権力を監視、チェックする機関に戻ってほしい」として、前川喜平・元文部科学次官や法政大学前総長の田中優子氏らが共同代表となり、市民グループ「テレビ輝け!市民ネットワーク」を結成。4月8日の会見によると、賛同者48人でテレ朝ホールディングスの株を計約4万株購入しており、同日にテレ朝HDに対して株主提案を実行。株主提案では「権力に対する忖度や迎合をしない」「過去10年の間にあからさまな圧力があれば第三者委員会にかけて調査する」「放送番組審議会の委員らの任期に上限を設ける」「前川氏を社外取締役に就ける」という4点を求めており、テレ朝HDは6月の株主総会で回答する予定だという(東京新聞4月8日付)。

 今回の『報ステ』による大阪万博の報道を見れば、テレ朝は政権や与党のみならず、あらゆる権力に屈服したへっぴり腰の状態だということがはっきりしたと言える。この体質を市民の力で変えることができるのか。株主総会の行方にも注目だろう。