「日本人による韓国人観光客への暴行」を正当化した武田邦彦氏(『ゴゴスマ~GOGO!Smile!~』8月27日放送回より)


 日本人女性がソウルを旅行中、韓国人男性から罵声と暴行を受けた事件。報道によれば、被害女性の友人が韓国語で「ついて来ないでください」と言ったところ男は激高し、差別語などを浴びせたうえに髪の毛を引っ張るなどの暴行を加えた。

被害女性は頭を打つなどの怪我を負った。出頭した男は、取り調べに対し「動画は捏造された」などと訴えていたが、韓国警察が動画を捏造ではないと確認、現在、暴行容疑などで捜査しているという。

 女性に暴行を加える言語道断の事件であり、差別語を交えていたことを考えれば明らかなヘイトクライムだが、しかし、辟易するのは日本のネットの反応だ。

 もともとこの事件は、被害女性が暴行を受けている画像や罵声を浴びせられている動画などがTwitterで拡散したことから発覚したのだが、動画等を投稿した女性のTwitterアカウントには、韓国からは「同じ韓国人として恥ずかしく思う。お詫びしたい」「韓国の恥さらし」「同胞のしたことが許せない」「心から心配しています」というようなメンションが多数を占めた一方、日本のネトウヨからは「この時期に韓国に行くから悪い」「自業自得」「韓国は敵国だと言う事をわかってない」なる被害女性へ批判が相次いだのだ。いったい、どんな神経をしているのか呆れるほかない。

 だが、ネトウヨは論外だとしても、懸念されるのは、ただでさえ最悪の日韓関係のなかで、この事件によって、市民感情レベルでの憎悪に歯止めがきかなくなることだろう。

 事実、ワイドショーも今回の暴行事件を大々的に報道。「韓国人は反日」という“嫌韓”の声をエスカレートさせようとしている。

 なかでも酷かったのが、TBS系の27日放送『ゴゴスマ~GOGO!Smile!~』(CBCテレビ)だ。番組では冒頭から暴行事件をとりあげながら日韓問題を扱ったのだが、そのなかで、番組火曜レギュラーの武田邦彦・中部大学教授が韓国人に対する剥き出しのヘイトスピーチを言い放ったのだ。

「明らかに反日の教科書をつくり、反日の教育をし、路上で日本人の女性観光客を、その国のね、訪れた国の男が襲うなんつうのはね、これはもう世界で韓国しかありませんよ」

 観光客を襲う犯罪は日本を含むさまざまな国で発覚しているのに、明らかに決めつけと偏見で「韓国の男」をひとくくりにし、「女性観光客を襲う」とレッテルを貼って差別を煽るヘイトスピーチだ。

この武田氏の差別発言には、さすがに共演者もあわてて「それは言い過ぎですよ」などと火消しに走っていたが、「言い過ぎ」どころか「差別の煽動」であることをその場で指摘するべきだろう。実際、その後もスタジオでは武田氏が野放しにされ続け、こんなことを好き勝手に喚き立てていた。

「韓国の大統領から何から政治家から何からマスコミも全部、反日的雰囲気をつくったなかで生まれてるんですよ」
「いやいや韓国が日本に対していままでこれくらい、国対国の関係でこれくらい攻撃的にね、平和なときにこれくらい攻撃にくる国ってのはないですよ、ほんとに」

 さらに、番組が“大阪で韓国人観光客が激減”という話題を扱うと、武田氏はこんなことまで言い出した。

「そりゃあ日本男子も韓国女性が入ってきたら暴行しなけりゃいかんからね」

 絶句である。まさか地上波でヘイトクライムを煽動するとは。実際に煽られた日本人が韓国人旅行客へのヘイトクライムを引き起こしたらどう責任を取るのか。

しかも、問題は『ゴゴスマ』の対応だ。普通なら番組としてすぐに取り消し、深く謝罪しなければならない発言だと思うが、『ゴゴスマ』は、他の出演者が「先生、それは言い過ぎですよ」と言って、武田氏が「いやいや、ものごとはそうなるからああいう事件はダメだと僕言ってんですよ」と言い訳すると、そのまま番組を進行させてしまった。

しかし、武田氏の発言を何度聞き返しても、暴行を諌める文脈で出た言葉でないのは明らかだ。武田氏は、観光人観光客が減っているというニュースに、観光客が来たら日本男子も暴行しないわけにはいかない、と言ったのである。日本人男性による韓国人の女性観光客への暴行を正当化したとしか考えられない発言だろう。

しかも、武田氏は言い訳にならない言い訳の後、暴行正当化を上塗りする発言まで行なった。

「日本男性は我慢すると思うよ。我慢すると思うけど、(韓国人女性への暴行が)起こってももう仕方がないんですよ」

 いずれにしても、「女性旅行客を襲うのは韓国だけ」「日本男子も韓国女性に暴行しなけりゃいかん」「韓国人女性への暴行が起きても仕方がない」というのは悪質なヘイトスピーチであり、差別に基づく犯罪を引き起こしかねないものだ。繰り返すが、これは武田氏だけの責任ではなく、『ゴゴスマ』という番組とテレビ局の問題だ。

 そもそも『ゴゴスマ』は、この武田氏だけでなく、竹田恒泰氏や須田慎一郎氏といった『真相深入り!虎ノ門ニュース』(DHCテレビ)や『そこまで言って委員会NP』(読売テレビ)の常連である“極右ネトウヨ論客”を曜日レギュラーやゲストコメンテーターに起用している。つまり、こうした日々、ヘイトデマを垂れ流しまくっているような出演者から今回のようなヘイトスピーチが出てくるのは目に見えており、逆に言えば、番組側はそれを期待して起用しているとしか思えないのだ。

 本サイトでは何度も指摘していることだが、いま、テレビのワイドショーは「韓国けしからん」という韓国ネタを何度も使い回すことで、視聴者の劣情を煽り、視聴率を稼いでいる。

武田氏のヘイトスピーチは、そうした状況が生み出したと言っていいだろう。

 しかも、これはワイドショーや極右ネトウヨ文化人のみの話ではない。ニュース番組や新聞報道でも、いまや韓国人へのヘイトを誘発するようなものが当たり前のように出てくるようになった。たとえば、毎日新聞27日付朝刊でも、読者投稿の川柳コーナーに「台風も日本のせいと言いそな韓」という韓国叩きの一句が掲載され、それが〈秀逸〉としてピックアップされていた。ようするに、日本のマスコミはいま、ヘイトまがいの言説や剥き出しのヘイトスピーチも含め、韓国バッシングにブレーキが効かない状態になっているということではないか。

 安倍政権が主導する“嫌韓キャンペーン”に丸乗っかりしたテレビなどのマスコミが大衆の“嫌韓感情”を煽る。

日本人による韓国人へのヘイトクライムすら「仕方がない」という言葉が公共の電波で垂れ流される状況は異常だ。もはやメディアが「鬼畜米英」と呼んで戦争を煽ったあの時代に、どんどん近づいていっている。いったい、この国のマスコミはどこまで行ってしまうのだろうか。