2026年の大谷翔平は依然としてMVP候補の筆頭と目されているが、少々ケガが増えていることが気になるところではある。一方で、打者としては平均バットスピードの低下が指摘されてきた。
大谷も32歳を迎え、スイングの速さが落ちているということは、つまり衰えが見えてきているということなのだろうか? この疑問を解き明かすため、MLB.comのデータ解析システム『スタットキャスト』で分析を担当するデビッド・アドラー氏に意見を求めた。これまでもさまざまな数字を用いて大谷の現在地を分析してきたアドラー氏の言葉は実に興味深く、同時に説得力もある。
(以下はアドラー氏のひとり語り)
【数字が示す「深く引きつけて打つ」傾向】
今季の大谷の打撃には、端的に言ってふたつのバージョンがあった。それは、4月末から5月中旬にかけての深刻なスランプ期と、5月12日頃から再び本塁打を打ち始めて以降の時期のふたつに分けられる。
5月以降の大谷は、メジャー1年目の2018年頃の"昔の大谷"にかなり近い打撃をしている。センターから左中間方向へ本塁打を打つスタイルで、それはルーキー時代の彼の代名詞だった。最近の本塁打も、その多くがセンターから左中間に飛んでいる。おそらくはスランプを経験したあとで、自分にとって最も自然なタイミングとスイングに戻そうとしていたのだと私は考えている。
数字だけを見ると、今年は平均バットスピード74.8マイル(約120.4キロ)が昨季の75.8マイル(約122キロ)をやや下回っている。それでも依然としてMVP最有力候補だが、大谷を細かく見ている人ならその変化には気づくだろう。
ただ、私はそれを心配する必要はないと思っている。まず、バットスピード自体は依然としてメジャートップ50に入るほど速い。「ものすごく速い」から「少しだけ落ちたけど、ものすごく速い」になった程度だ。
一方で今年は、バットでボールをとらえた位置を示す「インターセプトポイント」がかなり深くなっている。大谷はもともとボールを深くまで引きつけて(捕手寄りの位置で)打つタイプだった。それが左中間への本塁打が多い理由でもある。普通なら逆方向への打球になるのでなかなかスタンドまで届かないものだが、大谷は非常に速いスイングと優れたスイング軌道を持っているため、それでもスタンドまで運べる。
実際今シーズンは、ドジャース移籍後では最も「インターセプトポイント」が深く、特に5月はマイナス4.0インチ(約10.2センチ)、6月はマイナス4.9インチ(約12.4センチ)と、いずれもこの数字が計測されるようになって以降では最も捕手寄りでボールを捉えている。シーズン平均でも今季はマイナス4.1インチ(約10.4センチ)と最も捕手寄り。昨季のマイナス1.4インチ(約3.6センチ)、2024年のマイナス2.4インチ(約6.1センチ)を大きく上回っている。
【驚異のスイングスピードを備えているが故に】
つまるところ、大谷がシーズン序盤のスランプ時にタイミングを修正するため、より長くボールを見て反応する打撃に変えたのではないかと思う。「インターセプトポイント」が深くなると、理論上はバットスピードは少し下がる。スイングは前へいくほど加速するので、より手前で当てれば最高速度に達する前にインパクトすることになるからだ。
その結果、今年は打球速度120マイル(約193キロ)の打球や500フィート(約152.4メートル)級の右中間への特大ホームランはまだ出ていない。しかし、それはまったく問題ではない。今季、通算300本塁打をクリアしたなかで、最も大きな変化を挙げるなら、ボールをより深くまで引きつけ、左中間へ本塁打を放っていた原点のスタイルに戻っている点である。
これはよし悪しの話ではなく、現在の打撃スタイルを示しているということだ。そして、それができる打者は決して多くない。例えばマイク・トラウト(ロサンゼルス・エンゼルス)はボールを深くまで呼び込むタイプだし、アーロン・ジャッジ(ニューヨーク・ヤンキース)もそういう打席が多い。
一方、多くのパワーヒッターは打球を前でさばき、引っ張らなければ長打を打てない。それが最も効率的な長打の打ち方だからだ。でも大谷には、その"最も効率的な方法"は必要ない。ほかの打者より圧倒的なパワーと優れたスイングを持っているからだ。
【今季の大谷のスタイルを象徴する本塁打例】
最近の大谷のホームランを見れば、その変化を象徴するものがいくつかある。5月に調子を取り戻して以降の本塁打を見ると、まさに"クラシックな大谷"の本塁打が頻繁に出ている。今季最も強い打球は6月20日のボルチモア・オリオールズ戦での打球速度114.6マイル(約184.4キロ)の本塁打で、右腕アンドリュー・キトリッジのシンカーをセンターへ運んだものだった。
本来なら思いきり引っ張ることもできる球だったが、それでも大谷はセンター返しを意識しているように見え、ボールを十分に引きつけて中越えに打ち込んだ。
5月27日のコロラド・ロッキーズ戦では菅野智之の速球を打球速度111.3マイル(約179.1キロ)で、これも中越えに打ち込んだ。6月10日、ピッツバーグ・パイレーツのグレゴリー・ソトとの対戦時には左対左にもかかわらず、99マイル(約159キロ)の速球を左寄りのセンターに弾き返した。そして、通算299号となった今季19号は左越え、7月7日についに飛び出した今季20号、通算300号が中越えだったことは象徴的に思えた。
ここまで見てくれば、私が「大谷は衰えているわけではない」と考えていることが理解してもらえるはずだ。バットスピードを見る時は、必ず「インターセプトポイント」も一緒に考えなければいけない。もちろん、昨年より少しスイングが遅くなっている可能性はあるし、昨年も一昨年よりは少し低かった。ただ、低下している数字は、どれも打撃アプローチの変化によって生み出されたものであるように思えるため、大きな問題と捉える必要はないと感じている。










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