邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。自宅にいながらにしてみんなで映画を楽しむ方法を行っているなかで、今回は小出部長がもっとも得意とするホラー回となりました。
世界をも震撼させるJホラーの屈指の名作。しかも、劇場で大ヒットする前の原点的ビデオ作品をみんなで観ました。ビデオ時代ならではのこの画質も怖さの一因に……。

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みんなの映画部 活動第67回[後編]
『呪怨(オリジナルビデオ版)』
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子、オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)
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■名匠・清水崇監督の『呪怨』にはテレビドラマの原点があった

ハマ ぜひこいちゃんに質問したいのは、伽椰子の有名な奇声というかしゃべり方、「ア、ア、ア……」っていうノドが鳴ってるやつ。アレが出てくるのはこれ最初なの?

小出 厳密に言うと、実はこのビデオ版『呪怨』のパイロット版的なものがあって。それが『学校の怪談G』(1998年)っていう、テレビで放送されたスペシャルドラマ。


ハマ 観てないけど、話は聞いたことがある気がする。

小出 池乃めだかさんがストーリーテラーを務めた関西テレビの番組なんだけど、メインのお話のなかに『片隅』と『4444444444』っていう短編が組み込まれているオムニバス形式の構成なの。これが清水監督の監督デビュー作で、のちの『呪怨』に繋がってくる。

ハマ なるほど、そこに「ア、ア、ア……」も出てくるんだ。

小出 さらにそれよりも前、学生時代に課題で制作した短編があるそうで、それが原型だったってことを言われてるけど、僕は観たことがないんだよね。

ハマ それ自体、都市伝説的な感じですね(笑)。
でもアレはすごい発明ですよね。

小出 最初の短編は声的に違うと思うけど、『呪怨』以降の「ア、ア、ア……」は清水崇監督が自分でやってるんだよ。

ハマ そうなんだ! やっぱり監督自身の世界観でがっちり構成しているんで、ちょっとツッコミ感が湧いても、もはや揚げ足取る気にならないですよね。

レイジ でも揚げ足取るとこなんてなくない?

ハマ いや、「こんなん普通叫ぶでしょ」とか、そういうベタなツッコミよ。「伽椰子の前屈の移動なんなの?」とか(笑)。小林も「こんなとこにいちゃいけない」って言ってる場合じゃないよ! とか思って。


レイジ なんなら小林がいちばんやばかったよね(笑)。

ハマ 奥さんと子供が殺されたって、あれ(剛雄の電話)だけで理解したにも関わらず、わりと平然とした感じなのも逆に怖かったですけどね。でも別にそんなツッコミも意味ねえなっていうくらい話が面白かった。

レイジ うん、超面白かった。

福岡 それはそうだね。

小出 (以前のホラハラ会でみんなで観た)『女優霊』(活動第11回「新年会スペシャル」参照)のときと柳ユーレイさんがほぼ同じ目にあうのが面白いよね(笑)。


ハマ それ、すごい思った。この手の映画に柳ユーレイさんってやたらよく出てきますよね(笑)。『リング』(1998年)や『リング2』(1999年/共に監督:中田秀夫)ではテレビ局の人とかじゃなかったっけ?

小出 そうそう。松嶋菜々子さん演じるヒロイン玲子の同僚のアシスタントディレクター役。

ハマ ちなみに全然関係ないけど、たけし軍団の変なあだ名シリーズは柳ユーレイさんが最初だったらしいです。

福岡 え、たけし軍団の人なの?

ハマ そうだよ。
たけし軍団の神セブン。

小出 初期メンバーのひとりだもんね。

■今となって検証はできない、小出部長が知るあの撮影場所のエピソード

ハマ キャストで言えば、今回の『呪怨』でねじ切れた死体を見に来るベテラン刑事が『冷たい熱帯魚』(2010年/監督:園子温)で殺し合うふたり(でんでん&諏訪太朗)でしたね。

小出 そうそう(笑)。

ハマ 日本映画界を代表するバイプレーヤーな名優。

小出 それに絡めて言うと、僕の感覚ではキャスティングに関しても1999~2000年っていう時代感が『呪怨』にはすごくあるんだよね。
栗山千明さんもホラー映画の『死国』(1999年/監督:長崎俊一)で出てきて。ちなみに、そういえば『死国』は『リング2』(1999年/監督:中田秀夫)と同時上映だった。

あと三輪ひとみさん&三輪明日美さん姉妹。家庭教師の由紀がお姉ちゃんのひとみさんで、勉強を習ってる柑菜が妹の明日美さん。三輪明日美さんは庵野秀明監督の実写映画『ラブ&ポップ』(1998年)がデビュー作。この映画は当時、一般に普及していってた家庭用デジタルビデオカメラで撮影されていて。

あのデジカメの画質のなかにいる三輪明日美さん、もっというと『ガメラ3 邪神覚醒』(1999年/監督:金子修介)でガメラにめちゃくちゃにされた渋谷にいる三輪明日美さんも含めて、僕には90年代終わりのシンボルって感じで。この『呪怨』オリジナルビデオ版も、そことの並行世界とまでは言わないけど、同じムードをまとっていて、個人的にはちょっとキュンとくるんだよね。

レイジ これって例えば今15歳とかの子が観たら、どんな感じに思うんだろう。

小出 ね。俺らが白黒映画を敬遠していたような感じで、「画質古っ!」とか言って、そこでつまずいちゃう可能性もあるよね。

ハマ もちろん逆に新鮮と取る人もいるだろうけどね。だって『女優霊』とか今観ても、すごい面白かったですもん。

小出 思えば『リング』が大ヒットして以降、Jホラーはたくさん作られて、C級・D級みたいなものもすごく多かったのね。そのせいかオリジナルビデオ版の『呪怨』も最初は埋もれていて、ヒットはしなかったんですよ。だけど口コミで「やばい」と時間をかけて広まっていった。レンタルビデオ店への入荷数が少ない代わりに、1本の回転率もすごくて話題になったんだよね。その広まり方の速度の遅さもひと昔前ならでは。

レイジ 今ならSNSですぐにバズっちゃう、みたいな感じですもんね。

小出 本編の話がだいたい出たところで余談なんですけど、『呪怨』で使われたハウススタジオ、あそこってほんとに「出る」って有名だったらしくて。

レイジ へえ。

小出 もう13~4年前くらいの話なんだけど、知人が仕事であのスタジオに行ったことがあって。現場に入ったら、メイクルームとして用意されてたのが三輪姉妹の勉強してた部屋だった。

中の様子を実況するような感じでいくつか写メを送ってきてくれたんだけど、「やばい」ってタイトルで送られてきた画像を見たらね、天井を写した写真なんだけど、おもいっきり子供の足跡が付いていて。

福岡 ええええ!

レイジ なにかのホラー映画の演出が残ってたわけじゃなくて?

小出 原状復帰が基本のハウススタジオで、そんな汚れが残ってたら拭いちゃうだろうし、子供の足跡が天井に逆さまに付くホラー映画なんかもとりあえず思いつかないしね。その人は別に感が鋭いってわけでもないのに、「視線を感じる」とも言っていて。

ハマ うわ~、ほんとにあるんだ。

小出 ほんとにあった『呪怨』の家(笑)。今、その写真を出そうと思ったけどね、見つからなかった。そのスタジオも、少し前に立ち退きでなくなっちゃったみたい。

福岡 やだなあ。ホラー映画って怖いなあ。

ハマ 「ホラー映画って怖い」(笑)。これは太字にしてもらいたいですね。

レイジ ところでこいちゃんは、Netflixの『呪怨:呪いの家』は観たんですか?

小出 実はまだなのよ。楽しみすぎて観るのがもったいないから、あとに取っといちゃってる。気づいたら配信開始(7月3日)からもう2ヵ月近く経っちゃった。

一同 (笑)。

TEXT BY

直人(映画評論家)